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19話 騎士団入団(3)

「ハルトマンがやられたぞ!」


「何が起きたんだ!?」


「あいつも身体強化の魔法が使えるのか」


 我に返ったのか、周りを囲んでいた騎士たちから声が上がってくる。


 あたりがざわめく中、騎士達の輪の中から2人、蒼に向かって歩み寄ってくるものがいた。彼らは蒼の傍まで来ると声を掛けてきた。


「すごいね、アオイちゃん。来て早々、ハルトマンをぶちのめすなんて」


「そもそも、君は一切魔法を使っていないよね?」


「はい。魔法は一切使用していません。まだ、魔法の使い方を教わっていなかったので」


 それを聞いて周りの騎士たちは更にざわめく。

 蒼はまだ魔法を扱えない。ヴァイデンライヒ家の訓練場では魔法は禁止だったからだ。

 クリスティアーネに訓練中に魔法は使ってはいけないと口を酸っぱくして言われた。過去に訓練場で何かあったのかもしれないが、屋敷の者は頑なに教えてくれなかった。


「俺はジーク。アオイちゃんと違って剣の腕はイマイチだけど、魔法は得意なんだ。魔法の事なら俺に聞いて。手取り足取り教えるよ」


 金髪の青年、ジークはにかっと笑いながら手を差し出してくる。背は蒼より少し高いくらいで、可愛らしい顔立ちをしている。

 魔法が得意なのは本当のようで、瞳は薄紫なのだが驚くほど明度が高い。かなり強い魔力を持っているのだろう。


「よろしくお願いしたいところだが、手取り足取りは余計かな……」


 蒼は苦笑いを浮かべながら握手に応じる。


「彼の事は深く考えなくていいよ。私はヴェンツェル=ラヴァル。君と同じ異世界人でゼッケンドルフ子爵に世話になっている。これからよろしく頼むよ」


 燃えるような赤い髪の青年、ヴェンツェルも続いて手を差し出してきた。蒼は異世界人という言葉に目を丸くしながらヴェンツェルの握手にも応じる。瞳は蒼よりは濃いめの青色をしていた。



 後から聞けば、この2人は今期訓練生の中でも化け物クラスの飛びぬけた実力を持つらしく、彼らから話しかけられることにより否応なしに他の訓練生から認められたらしい。

 ただし、一連の流れにより、蒼も同じ化け物クラスと思われたため、この2人以外の訓練生から、少し距離を取られてしまうのだった。



――――――――――――――――――――


 蒼とハルトマンの手合わせで多少時間が取られたものの、通常の訓練が開始される。訓練内容が打ち合いだったので、ヴェンツェルに相手をしてくれるよう頼むと笑顔で快諾してくれた。ジークは「俺には蒼の相手は無理!」と早々に逃げて行った。


 ヴェンツェルが使うのはハルバードで、蒼が相手をしたことがない武器だったため、かなり新鮮だった。訓練の合間に蒼は気になっていたことを訪ねる。


「ヴェンツェルさんも異世界から来たんですか」


「ヴェン、でいいよ。私も気が付いたらこの世界に来ていてね。川を流されて弱っていたところを世話してくれたのがゼッケンドルフ子爵なんだ。そのまま、私を引き取ってくれたんだよ」


 ヴェンツェルはゼッケンドルフ子爵領の川に流されていたところを近隣の住民に見つけられ、そのまま子爵の屋敷に運ばれたそうだ。子爵領はかなり辺鄙な所で教会が近くに無いらしい。


「そこから帝都に来て騎士団に入団することになった。私は元の世界でも軍属だったし、魔法の扱いにも慣れていたから直ぐに入団できたよ」


 ヴェンツェルのいた世界はこことあまり変わりなく、魔法が存在する世界だったらしい。この世界に流されてきたときも軍事行動中で、気が付いたら知らない場所のベッドの上にいてかなり焦ったそうだ。



「アオイ嬢は魔法も使っていないのにかなり強いんだね。君も何処かに所属していたのかな」


「私はそういったものを生業にしていたわけではなく、ただの学生だった。

家がたまたま剣を教えている道場だったので扱えるだけなんだ」


「成る程。師匠が良かったんだね」


 蒼は父が褒められて嬉しい反面、二度と会うことは無い事実に寂しさを覚えた。

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