16話 充実した日々
宣言通り、買い物へ行った翌日から、蒼と琥珀の教育が始まった。
まず、基礎教育としてマナーに始まり、歴史や文学、算術等の家庭教師が呼ばれ、授業が行われた。多種に渡る教育内容に最初こそ戸惑っていたものの、日が経つにつれ段々と慣れていった。
最初こそ、姉妹で同時に同じ授業を受けていたが、蒼の方が飲み込みが早く、どの授業もそつなくこなした。その結果、蒼は早々に基礎教育の家庭教師から合格を貰い、授業を受けなくて良い事となった。
基礎教育の授業から解放された蒼は空いた時間を利用し、騎士団の入団に向け、剣術を習い始めた。
屋敷には騎士団長の家だからか、庭に小さな訓練場があった。蒼はそこでユーリの服をお直しした訓練用の服に身を包み、朝から晩まで訓練に明け暮れた。流石に訓練で抜き身の大太刀を振る事に抵抗があった蒼がテオバルトに相談すると、次の日には蒼の大太刀と重量もサイズも同じ木刀が用意された。
最初におねだりされたものが木刀だなんて……とクリスティアーネは嘆いていたが、蒼はドレスや宝石を貰うよりも嬉しかった。
蒼は自分の技術がどの位この世界で通用するのか懸念していたが、良い方向で予想を裏切られた。
魔法の力か女神様の力か真偽は不明だが、『日本』にいた頃とは比べ物にならないくらい、身体が良く動いた。
テオバルトが手隙の際に模擬戦形式で訓練に付き合ってくれたのだが、そのテオバルトが息を呑む程だった。直ぐにこれならいつでも騎士団に入れるというお墨付きも貰えた。
ただし、いくら強いと言っても蒼が模擬戦でテオバルトに勝つ事はなかった。
また、ユーリの休みの日には蒼の買い物に付き合って貰った。
デート等といった可愛らしいものではなく、行き先は武具店等。汚すための服とはいえ、訓練服がいつまでもお下がりなのは良くないと、ユーリ自ら蒼を連れ出してくれた。他にも大太刀を身に付けるための専用ベルト等の小物も一緒に購入する。
初回の買い物時と同様に、買い物の終わりには毎回甘いものを食べから帰るのが恒例だったので、ユーリはそちらが目的だったのかもしれない。お蔭で蒼も甘味が美味しいお店に詳しくなってしまった。
蒼はテオバルトに頼んだのと同じようにユーリにも手合わせを願ったが、それは断られてしまった。テオバルトのように手加減があまり出来ないということもあるが、大きな要因は別にあるらしい。本人曰く、ユーリは屋敷の庭において有事の場合と素振り以外で剣を振るう事を母に固く禁じられているらしい。それ以上には語られなかったので詳細は不明だが、過去に一体何があったのだろうか。
蒼は基本的には訓練に明け暮れていたものの、琥珀とクリスティアーネの3人で小さなお茶会をする事もあった。最も、こちらに関しては母娘の交流がという意味もあるが、クリスティアーネによるマナーのテストも含まれていた。
最初の方は蒼も琥珀も緊張で固くなり、クリスティアーネに注意されることも多かったが、数をこなすうちに純粋にお茶会自体を楽しめるようになった。マナーも大分板についてきたと思いたい。
琥珀も蒼程スムースに勉強が進んでいる訳では無かったが、隙間時間でクリスティアーネに回復魔法を習っているようだ。
昼間は忙しく、姉妹で会話する時間があまり取れなかったが、就寝前のわずかな時間を利用して琥珀が蒼の部屋に突撃してお喋りを楽しんでいた。
そのような事を繰り返していると、この家に来てから3カ月が経過していた。
いよいよ明日から、蒼は騎士団、琥珀は教会へ向かう事となる。長いようで短い3カ月だったが、ヴァイデンライヒ家のサポートのおかげで、かなりこの世界になじめたと蒼は思う。
琥珀と離れる事には不安を感じるものの、訓練の成果が試せると思うと、とても楽しみだった。




