10話 新しい義両親
ヴァイデンライヒ邸に辿り着き馬車を降りると、オールバックにした白髪に眼鏡という出で立ちのいかにも執事であろう男性が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ」
「ああ、帰ったぞ。事前に話していた通り、こちらのお嬢様方はうちの子になるからよろしく頼む」
「承知致しました。では、お嬢様方もこちらへ」
蒼が思っていたよりも軽い会話が続く中、玄関まで案内される。
開け放たれた扉の向こうには玄関ホールが広がっており、そこには服装から鑑みるにテオバルトの妻であろう女性が立っていた。その後ろには使用人であろう人達が並んでいる。
「おかえりなさいませ、テオバルト様。こちらの方々が今回の……」
「ああ、異世界から来たお嬢様方だな」
「まあ、可愛らしいお嬢様方ね。ようこそいらっしゃいました。立ち話もなんですし、お茶でも飲みながらお話しましょう」
「これからよろしくお願いします」
「お願いします」
蒼と琥珀は軽く頭を下げながら挨拶をする。
「さあ、こちらへどうぞ」と言う女性について行く形で屋敷の奥に入り、既に準備されていたらしい部屋へと案内された。
部屋に入り姉妹は案内された席へと着く。長方形の机を挟んだ正面にはヴァイデンライヒ夫妻が着席した。
「改めて、この美人が俺の妻のクリスティアーネだ」
「テオバルト様の妻でクリスティアーネと申します」
移動中の馬車で散々惚気話を聞いていた蒼は、初対面であるはずのクリスティアーネに親近感がわいてしまっていた。
確かにテオバルトが自慢するのも頷ける位の美人である。二十歳過ぎの息子がいると思えない程若く見える。ややくすんだ金髪を複雑に編み込みハーフアップにしている。瞳は薄めの黄色に少し灰色が混じっているので、テオバルトが言っていた通り少し光属性を持っているのだろう。
「アオイ=カミヒラです。こちらは妹の琥珀です」
「琥珀です。よろしくお願いします」
姉妹はこの世界に来てから何度目かわからない自己紹介を済ませる。
「先程も軽く伝えたが、アオイとコハクはヴァイデンライヒ家に養女として迎えることになっている。これから自己紹介をする際はヴァイデンライヒ姓を名乗るようにしてくれ」
「わかりました」
「ヴァイデンライヒの後ろ盾があれば無下には扱われんだろうからな」
蒼は少し寂しい気持ちにはなった。ただ、テオバルトの言ってる事が尤もで、ヴァイデンライヒという姓を名乗る事によって、守られるものも在るのだろうと納得はしていた。
続けてクリスティアーネが口を開く。
「貴女方には貴族としての教養を身に着けて貰うために、暫くは勉学に励んで頂きます。でもそれは明後日からの予定です。明日はお買い物に出掛けましょうね。貴女方のお洋服は数点用意したのだけど、好みが合わないといけないから多くは用意していないの」
「お買い物ですか!嬉しいです!」
琥珀は買い物と聞き、目を輝かせる。服飾にあまり興味が無い蒼と違い、琥珀は昔から流行りのファッション等に興味を示していた。蒼も一緒に買い物には行くものの、専ら妹の着せ替え人形に徹し、荷物持ちをするだけである。事実、蒼の私服の大半は琥珀が選んだものだった。
「何から何までありがとうございます。テオバルト様とクリスティアーネ様には感謝してもしきれません」
蒼は自分の世話をしてくれる夫妻に感謝を述べる。
「うちには無愛想な息子しか居ませんから、可愛い娘が二人も出来て、一緒にお買い物にまで行けるなんて嬉しいことなのよ」
蒼の目にはクリスティアーネは本当に嬉しそうに見えた。
ただ、両親共々に無愛想と言われる息子がどんな人物か無性に気にはなった。
「そうだ、気にするな。後、うちの娘になったんだから、父、母と呼んでくれ」
「養父さま、養母さま……」
琥珀が小さな声で呟く。それを聞いて夫妻は頷きながら笑顔を返してくれた。
「ありがとうございます。養父上、養母上……?」
「アオイは硬いな」
「姉さまは朴念仁なので仕方ないのです。でも琥珀にはとても優しいのですよ。姉さまは……」
琥珀は今までの蒼の話をし始める。蒼からしてみれば琥珀は自分の事をとても好意的に捉え、負債に話しているが少しオーバーだと思う。
琥珀が馴染めて良かったと思うものの絶え間なく続く話を聞き、嬉しいような恥ずかしいような複雑な気分になった。




