表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

聖女様の断頭台から始まる王国革命

作者: WING/空埼 裕

 私、シャルロット・リュミエールは〝聖女〟と言われ、国民から慕われていた。

 民衆の憐れみと悲しみの視線が向けられている私は今、断頭台の前に立っている。

 何故このようなことになったのかと言うと、私が暮らすここ、ウィンブル王国の策略に嵌められ、偽りの聖女として処刑されることになったのだ。

 断頭台に首を掛けられた私の腕に枷が嵌められ、身動きが取れないようにされた。

 一人の豪奢な衣装に身を包んだ男が近づき、私の耳元でこう囁いた。


「貴様はここで死ぬ。民衆は真の聖女(・・・・)だとも知らずにな。なにか言い残すことはあるか?」

「……あなた達は間違っています。きっと天罰が下ることでしょう」

「そうか」


 男は民衆に告げる。


「ではこれより、聖女を偽った罪として、このシャルロット・リュミエールの処刑を行う!」


 その合図によって男が斧を振り下ろし、ギロチンに繋がっているロープが切断された。

 ギロチンの刃が私の首を切断しようと迫る。


(ああ、もし私に二度目があるとするなら、今度はみんが幸せになれる国にしてみせます)


 来るだろう死を前に、私は静かに目を閉じたのと同時、聞き覚えのある声が聞こえた。


「シャルーーッ!」


 そして私の意識はそこで途切れたのだった――……



◇ ◇ ◇



 ふと目が覚め――思わず首を触った。


「繋がって、る……?」


 私は安堵して起き上がり、自分の手を見て気付いた。


「手が小さい?」


 部屋を見渡すと、どうやらここは私の生家であるリュミエール辺境伯家の屋敷であった。

 ベッドから降りて鏡を見て目を見開いた。

 鏡に写る私の姿は大人の女性ではなく、幼い少女であった。

 年齢にすると15歳くらいだろう。


(過去に、戻ってる? でもどうして……あの時私は確かに……)


 民衆の前で自分がギロチンで処刑される姿。

 何が起きたのか分からないが、それでももう一度チャンスが舞い降りたということに他ならない。

 この腐りきったウィンブル王国を変えるチャンスが。

 私はギュッと拳を握る。


「必ずこの国を、みんなが幸せになれる国に変えて見せます!」


 決意をしたところで、コンコンとノック音と懐かしい声がした。


「おはようございます。シャルロットお嬢様。失礼します」


 部屋に入って来たのは私と同じ15歳のメイド、レナである。

 私が聖女になってからも一緒にいて、最後には私の処刑の時に守ってくれたが命を落としたのだ。

 私はもう一度会えたことに涙が溜まり、レナに抱き着いた。


「お、お嬢様!? 何かあったのですか?!」

「ううん。何でもない。でも、ありがとう……」


 今までの感謝を込めて……


「あっ! そうでしたお嬢様」

「何かあったの?」

「いえ、そうではなくて、朝食の準備ができましたのでお呼びにきました」

「わかりました。準備していきます」


 レナは去っていき、私も早々に着替え下に向かった。

 降りると私の父、ジェーバスと母、エレーナが待っていた。

 処刑の時にはもう亡くなっていた両親をみて懐かしく、そして嬉しくなってしまう。


「シャル、おはよう」

「おはよう、シャル。冷めてしまうわ、早くいただきましょう」

「お父様、お母さま、おはようございます」


 席について朝食を食べている時、お父様が思い出したように口を開いた。


「そうだったシャル。今日はクラルド公爵家のグレイン君が来る予定だ」


 グレイン・クラルド。クラルド公爵家の長男で魔法の扱いに長けている人で、私の幼馴染の人物。


「え? グレイン様がですか?」

「ああ、なんでもシャルに用があるらしい」

「私にですか?」


 会いに来る理由は分からない。

 私の言葉にお父様は頷いた。


「メルヘス公爵と一緒に来るらしい。恐らく暇なのだろう」


 そう言って快活に笑うお父様を見て昔の、処刑される前のクラルド公爵を思い出す。

 ウィンブル王国の貴族でありながら、自由な人だったのを思い出す。


「わかりました。いつ頃来られるのですか?」

「昼頃だろう。シャルもそれまでには準備しておきなさい」

「はい」


 それから朝食を済ませた私は自室に戻る。

 隣にはレナの姿がある。


「お嬢様、予定の時間までは何をなさいますか?」

「どうしましょうか? あ、そういえばレナ、エリナの姿が見られないけど……?」

「エリナ様でしたらそろそろ起きてこられるかと」


 エリナは私の妹で、今は11歳。朝が弱く、こうして遅れて起きてくる。

 お父様やお母様もこのことは知っており、エリナが一人で朝食を食べることが多い。

 私は神聖魔法の適性が高いが、替わりにエリナは精霊魔法の適性に長けている。

 今はまだ未熟だが、私が処刑されるまでには使いこなして国民の助けになっていた。


程なくして私の部屋のドアがノックされた。

 レナと顔を見合わせる。


「お嬢様、どうやら来たようですね?」

「みたいですね」

「お姉さま、おはようございます。入ってもよろしいですか?」

「ええ」


 入って来たのサラサラな金髪をし、クリッとした青い瞳が特徴の可愛らしい少女だった。


「エリナ、どうしたの?」

「今日の昼頃にクラルド公爵が来ると聞きまして、それまで暇を持て余していて……」


 エリナは構ってほしいのだ。


「そうね。一緒に何かしましょうか」

「――はいっ!」


 私とエリナ、レナの計三人で屋敷の庭で魔法の練習を始めた。

 数時間ほど魔法の練習が終わり、汗を流していた。

 昼食を食べてから程なくし、クラルド公爵家の馬車がやってきた。


 執事だろう人が降りて馬車の扉を開けた。

 ゆっくりと降りてきたのは、身長180センチはある赤髪に紅玉のような瞳をした30代前半の男性だった。

 メルヘス様は今も昔も変わっていない。

 その後、遅れて降りてきたのは、メルヘス様を幼くしたような少年であった。

 見覚えがある。聖女であった私を側で支えてくれてたグレインだ。


「これはメルヘス様、遥々辺境の我が領地までおいで下さいましてありがとうございます」

「何を言っているジェーバス。お前とは幼馴染であろう? 昔みたいに気軽に話せ。どうせここには俺達しかいない」

「ははっ、そうだな。うむ。久しいなメルヘス。またエレインから逃げてきたのか?」


 エレインとはメルヘス様の奥方であり、お父様とお母様のこの四人は古い仲だと聞いている。


(でも、確かにメルヘス様とへレイン様はお似合いですよね。お父様とお母様も大概ですけど……)


 ふっと笑ってしまう。

 そこでメルヘス様が私を見た。


「久しいな、シャルロット。一年前の舞踏会以来か?」

「お久しぶりです、メルヘス様。舞踏会以来となります」

「エレーナと似てより一層美しくなった」

「ありがとうございます。メルヘス様もご壮健そうで何よりです」

「ほら、グレインも挨拶を」


 隣に立っていた少年、グレインにメルヘス様は挨拶をするように言う。


「ジェーバス様、お久しぶりです」

「おお、グレインも大きくなったな。メルヘスより、母のエレイン寄りでコイツよりもカッコよくなるな」

「おい。ジェーバス。それは俺がカッコ悪いと?」

「ははっ、冗談だ」


 グレインは私を見て挨拶をする。


「シャルロット様もご壮健そうで何よりです。以前お会いしたときよりも、より一層お美しくなられました」

「グレイン様、ありがとうございます。グレイン様もより一層男らしさを増されたようで」

「さて、挨拶はこんなもので中にでも入って話すとしようか。馬車旅でそちらのお付きも疲れているようだしね」

「そうだな。そうさせてもらうよ」


 お父様がメルヘス様の部下を労うようにメイドや他の者達に任せ、私達は客間に移動した。


「それで? エレインは何をしているんだ?」

「それを聞くのか……まあ、今は領地の屋敷でメイドと遊んでいるよ」

「エレインらしい」


 メルヘス様の表情が真剣になる。


「今日は暇を潰すために遊びに来たのだが」

「だと思った」

「ここ最近国王陛下が病で寝た状況となり、それに伴って王宮で怪しい動きが見受けられる」

「怪しい……?」


 お父様の返しにメルヘス様は静かに頷いた。

 私が聖女になったころにはすでに手遅れだった。変えようとする私を見て、大臣達が暗殺やらを計画していたのも知っている。


(ここが転換点ですね。国王陛下の病気を治せれば!)


「メルヘス様、その……いいでしょうか?」

「シャルロット嬢、どうしたのだ?」

「国王陛下がご病気とお聞きしましたが。お間違いないでしょうか?」

「この話は内密にお願いする。それで、国王陛下が病と知ってどうする気だ? 宮廷魔法士が神聖魔法で癒したそうだが、効果がなかった。それが君に治せるといいたいのか?」


 メルヘス様の目は私の目を捉えて離さない。

 まるで心の中を見通されているようだった。

 公爵家当主の迫力に、思わずといった様子で息を飲む。

 それでも怯まずに私はある提案をした。

 それは……


「私が、私が陛下のご病気を治します」

「シャル!」

「お父様にメルヘス様、グレイン様も私が神聖魔法を使えるのはご存じのはずです」


 三名は頷いた。

 そこでお父様がハッとした表情をする。


「シャル、まさか!」

「そのまさかです。私が治します」

「だが宮廷魔法士が治せなかった病だ。キミに治せるはずが……」

「父上、ここは一つ、シャルロット様の技量を見極めるはいかがでしょうか?」


 グレインの提案に思わずといった様子で全員が顔を向けた。


「グレイン君、それはどういうことだ?」

「私達でシャルロット様の技量を見極め、宮廷魔法士以上の実力なら、国王陛下のご病気を治せる確率が上がるのでは?」

「うむ……メルヘスはどう思う? 私としては今の国王陛下がいなければ、この王国も危険な状況になると思うが?」

「ここだけの話。アレン第一王子がもし王になったらこの国も終わりだろう。あの人は自分勝手が過ぎる。この前も――いや、この話は今はやめておこう」

「うむ。それで?」

「ああ、グレインの言う通り今の陛下のご病気が治るのなら、この状況も回避できるかもしれない。まずはシャルロット嬢の実力を見極めようではないか」


 私を見て面白そうにフッと笑みを零すのだった。

 そんな私は現在、屋敷の庭にてお父様、メルヘス様、グレイン様の計三名から注目を集めていた。


「それではシャルロット嬢、何を見せてくれるのだい?」


 メルヘス様が私に訪ねるが、何をするのかは決まっていない。


「そうですね……では、聖獣を呼び寄せる魔法などはいかがでしょうか?」

「聖獣をか……ふむ。それなら術者の実力に見合った聖獣を呼べるということか」

「その通りです。メルヘス様にお父様、グレイン様もそれでいかがでしょうか?」


 三人は顔を見合わせて頷いた。


「ではシャル。最低でもAランク以上の聖獣を呼ぶことだ」

「わかりました」


 私は三人から離れ、二話の中央に立って目を瞑る。

 流れるような、歌を歌うような詠唱を私は始めた。

 体内の魔力が吸い取られていき、複雑な幾何学模様の魔法陣が地面に展開された。


「「なっ!?」」


 二人の驚くような声が聞こえたが、私は目を瞑りながら続け、魔法名を唱えた。


「――聖獣召喚サモン・セイクリッドビースト!」


 唱えて目を見開くのと同時、魔法陣の輝きが増し、視界を覆い尽くした。

 しばらくして視界の先にいたのは……


「白銀の、(ドラゴン)……」


 推定50メートルはありそうな白銀の(ドラゴン)は空中で蜷局を巻きながら、私のことを見下ろしていた。


『この我を呼んだのそこの少女、君か?』

「は、はい。そうです。あなたを呼び出したのは私です」


 聖獣と思ったら、まさかの龍が出てきたことに驚いてしまう。


『その魔力量に……そうか。加護を受けているのか。これは面白い』

「加護……?」

『神に愛されているのだな。それで、私を呼び出したのだ。何かあるのだろう? そなたの望みなら我は聞き届けよう』


 シャルロットにとって自分の実力を示すためだけに呼んだのだ。

 何でもない、といえばこの龍に対して失礼に値する。


 何をお願いするか迷っているところに、龍は言葉を続ける。


『安心して欲しい。我とそなたの会話はそこの三人には聞かれていない』


 何を思ったのか、龍をそんなことを言い出す。


『何が望みだ? 〝聖女〟であるそのたの頼みなら力になろう。〝この国を変える〟という願いすらも』

「――っ!? どうしてそれを……!」

『我はもっとも神に近いとされる『聖龍』。シャルロットの〝死に戻り〟など知っている』

「死に戻り……やはり私は戻ったのですか……」

『そうだ。どうする?』


 どうしたい?

 何をしたい?


 そこで死ぬ前のことを思い出す。

 助けられた人が、目の前で救われるはずだった命が散った光景をが流れる。

 決心する。


虐げられている民を救いたい。

救いを求める人を救いたい。

助けを求める人を助けたい。

そして何より――この腐りきった国を変えたい!


『強い意志だ』


 私の向けられた瞳を見て、どこか感心したようにしている。


「私は――この腐りきった国を変えたい! 救える人を、助けを求める人を、死ぬはずのない命を助けたいです! 聖龍様、どうか私に力をお貸しください……!」

『うむ。聖龍アステル、シャルロットに力を貸そう』


 すると輝きが増し、一気に私の中に力が流れ込んできた。

 そして輝きは次第に小さくなっていき、魔法陣の中央には銀髪金眼の美丈夫が立っていた。


「シャ、シャル。これは一体何が起きて……白銀の(ドラゴン)が現れたと思ったら男が……」


 お父様が困惑していますが、それは私もです!

 お父様のみならず、メルヘス様とグレイン様も困惑している。


 私がなんて説明しようかと考えていると、アステルと名乗り、人の姿になった(ドラゴン)が口を開いて自己紹介を始めた。


「はじめまして。先ほども見たと思いますが、聖龍アステルといいます。シャルロット様と契約させていただきました」


 召喚した時よりも口調が丁寧になっているが、それよりも驚いたのが……


「けい、やく……?」

「シャルロット様、右手の甲をご覧ください」


 見てみると、そこには青白い龍の紋章が浮かんでいた。


「これって」

「それが私と契約した証です。それと私の加護も加わり、力の一部を引き出して使うことができます」


 アステルはお父様達の方に向き直り説明を続ける。


「この通り、私はシャルロット様と契約したことにより人の姿となりました」

「いや、聖獣で(ドラゴン)が召喚出来たことがそもそも信じられない話だ」


 メルヘス様の発言にお父様とグレインも頷いている。


「それはシャルロット様が〝女神の加護〟が付いているからでしょう」

「アステルと言ったな? その女神の加護とは一体なんだ?」


 お父様の質問にアステルは応える。


「女神の加護とは〝聖女〟である証。女神が祝福した唯一の存在」


 お父様にメルヘス様、グレインまでもが、まさに絶句と言いたげな表情をしている。

 私だって初耳の情報で驚いている。


「そして私に関してですが、聖獣の中で最上位の『四聖』と言われる存在です」

「シャルロット嬢が女神に祝福された聖女、だと!? それに聖龍、聖鳳、聖蛇、聖狐を四聖と呼ぶが、まさか本物か……? 情報量が多すぎだ!」


 それは私も同じだ。情報過多になっている。

 お父様がアステルに歩み寄る。


「一先ずシャルが聖女だとかアステル殿が四聖だとかはおいておこう。だがこれだけは教えてほしい。アステル殿にとってシャルとはどういった存在だ?」


 お父様の質問にアステルは真剣な表情でこう答えた。


「私の主であり、守るべき存在。女神に祝福されたシャルロット様は、私達聖獣を導く者だ」

「……そうか。ではシャルを支えてやってほしい」

「はい。お任せください。四聖の名にかけて」

「うむ。ではシャルの技量だが……」

「神聖魔法なら回復系統も攻撃系統、戦闘も他の術者に後れを取ることはないでしょう。契約したことで私の加護が発動してますから」

「う、うむ……。それでは一度部屋に戻るとしよう。アステル殿はシャルの付き人にでもしておこう」

「はい」


 再び客間に移動した私達は話を始める。

 主に聖女に関してだ。

 私はてっきり教会によって任命されると思っていたが、どうやら違うようだ。


「ではアステル殿、先のシャルが聖女と言うことに関してだが、説明してくれるか?」

「はい。まず聖女とは先も説明した通り、女神が唯一祝福した者のことを指します」

「教会が決めるのではないのか?」


メルヘス様が私の思っていた疑問を聞いてくれた。


「それと女神が祝福した聖女とは別物。教会が認める聖女は〝偽〟であり、女神が認める聖女こそが〝真の聖女〟なのです。力の差は比にもなりません。そもそも、聖女とは慈愛と博愛に満ちた者ですが、今回の聖女、シャルロット様は少し違うようですね」


 アステルが私を見て面白そうに笑みを浮かべた。

 そこから色々と聖女に関してと、私が真の聖女だということはここだけの秘密となった。

 そして話は国王陛下の話となる。


「聞くがアステル殿、シャルの魔法で国王陛下のご病気は治るのだな?」

「確実に。シャルロット様の扱う神聖魔法による回復は瀕死の者でも完治されます」

「なんと……」


 驚きの声を漏らしたのはメルヘス様だった。

 メルヘス様と国王陛下は血縁関係にあたり、お互いに兄弟として接してきていたと聞く。

 メルヘス様を見ると、心なしか安心しているように見える。


「ジェーバス、では出発を早めよう」

「そうだな」


 そこで今まで黙って聞いていたグレインがメルヘス様に向けて口を開いた。


「父上、私も連れて行ってください!」

「……どうしてだ?」

「それは……」

「グレイン、お前が来る必要はないと思うが?」

「うっ、でも!」

「何がしたい?」

「私は……」


 グレインが強い、信念の籠った視線を父であるメルヘス様に向けた。


「私は――シャルロット様を守りたいんです!」


 私は思わず顔を赤くしてしまった。

 異性に守りたいと、それも幼馴染であるグレインに言われたのは初めてだったから。


「何がお前をそうさせる?」

「シャルロット様が聖女だと知って、より一層守りたい気持ちが強くなりました。彼女には昔に救われたんです。何も上手くいかなかった時、落ち込んでいた私を慰め、励ましてくれたのが彼女です。その時に決めていたんです。シャルロット様を守れる騎士になりたいと!」


 静寂が流れる。

 私はグレインがそう思ってくれていたことに、つい嬉しくなってしまう。

そしてふと笑い声が聞こえた。

笑い声はメルヘス様から。


「ダメ、でしょうか?」

「いいや、男ならそうであるべきだ。なあ、ジェーバス?」

「まったくだ。ではグレイン君、シャルを頼んだぞ」

「――はいっ!」


 こうして新しく私の騎士が一人、側で支えてくれることになるのだった。


 一週間後。私達はウィンブル王国の王都、ケレストにあるクラルド公爵家の屋敷にやってきていた。

 エリナも一緒に行きたいと言っていたが、今回は遊びではないためお母様と一緒にいるように留守番を任せた。


 王都にあるクラルド公爵家の屋敷には現在、使用人と屋敷を守る兵しか存在しない。


「馬車を一台、至急用意してくれ。これから王城に向かう」

「わかりました」


 メルヘス様の命により一台の馬車が用意された。アステル含めた私達五人は馬車に乗り込み王城に走らせる。

 お父様がメルヘス様に訪ねた。


「メルヘスよ。向こうはシャルに治させると思うか?」

「第一王子が邪魔するかもしれないな」

「厄介な」


 お父様は苦虫を噛み潰したかのような表情をする。


「第一王子は父君である国王陛下のことを何だと思っている」

「噂では第一王子は王座を狙ってるようでな。まあ、他の殿下達もそうなのだがな」

「嫌な話だ。争いが起きれば国が亡びるぞ」

「国と国民に関しては二の次とでも思っているのだろう」

「なんとかしなければ……」

「まったくもってその通りだ」


 私は二人の話を聞いて思い出す。

 前に第一王子から言い寄られたが、断った記憶がある。

 程なくして馬車が王城に到着した。


 城内の、国王陛下の病室へと私達は歩き進む。

 あと少しというところで、一人の人物が道を塞いだ。


「……何のおつもりですか? ――アレン殿下?」


 道を塞いだのは、金髪碧眼の美青年、第一王子であられるアレン・ハイネル・ウィンブル殿下だった。


「メルヘス公爵、今日は帰ってもらおう」


 チラリと視線を外したアレン殿下と私の視線が合うも、それは一瞬だった。


「それはどういうことで?」

「父上は今、寝ておられる」

「そうですか。それは国王陛下のご病気が治ると言っても、ですか?」

「……なに? 父上の病気が治る? それは不可能だ。治るはずがない!」


 アレン殿下はまるで不可能だと言わんばかりに声を荒げた。

 だが、実際に症状を見ないと分からない。

 前での私はどういった事情で国王陛下が亡くられたのか知らない。

 でも、それでも確かなのは、前と状況が違うということ。私には治せる手段があるということだった。


「治る。では通していただこう」


 進もうとするが、アレン殿下はそれを手で制した。


「……話してもらおうか。何をする気だ?」


 メルヘス様が私を見たことで、つられてアレン殿下も視線を向けた。

 私とアレン殿下の目が合う。


「まさか、コイツが治せると?」


 私は自己紹介をする。


「お初にお目にかかります、アレン殿下。ジェーバス・リュミエール辺境伯の娘、シャルロット・リュミエールと申します。以後お見知りおきを」


 アレン殿下はまるで私の体を舐めまわすかのように見ている。


 正直、不快です。

 悪い趣味なのは〝あの頃〟と同じ。

 何を言おう。このアレン・ハイネル・ウィンブルこそ、私の処刑を行った張本人であるのだから。


「ほう、悪くない。よし、シャルロットと言ったな」

「はい」

「俺の側室として迎え入れようではないか」

「……は?」


 他の面々もポカーンといった様子だ。

 突然側室になれと言われても困る。

 そもそもの話、私はアレン殿下が大嫌いなのだから。


「アレン殿下、急に何を――」

「メルヘス公爵は黙っていただこう。それにジェーバス辺境伯もいいだろう?」

「それは……」


 殿下相手には下手に出れないと、お父様もアレン殿下も理解している。

 アレン殿下が私を見る。


「答えを聞こうではないか」


 私はもう、あの時とは違う。力ずくとでもいうのなら、抗って見せましょう。

 アレン殿下の目を見据えて答えた。


「丁重にお断りさせていただきます。折角の申し出、ご期待に応えられず申し訳ございません」


 アレン殿下に対して私は深く頭を下げた。

 当の本人は、ありえないといった様子で茫然と佇んでいた。

 私はお父様とメルヘス様に目配せをする。

 今のうちに行きましょうと。


「では殿下、失礼する」


 そうして私達は陛下が寝ておられる病床まで辿り着いた。

 メルヘス様が扉をノックする。


「メルヘス・クラルドです」

「ジェーバス・リュミエールです」


 扉が開かれた。

 中に入ると、寝ている陛下と王妃のソフィア様がおられ、私達を見て微笑んだ。

 すぐに膝を突き家臣の礼を取る。


「療養中のところ恐れ入ります」


 メルヘス様が代表して答えた。

 ソフィア様が口を開いた。


「メルヘス。それに皆様も頭を上げて楽にしてください」

「はっ」


 私達は顔を上げる。

 陛下を見ると、寝ているようだった。

 アレン殿下の言っていたことは正しかったようだ。


「それで、メルヘス。辺境伯に他の者も連れて何用ですか?」

「それがですが、お喜びください。陛下のご病気を治す方法が見つかりました!」

「ほ、本当ですか!?」

「はい。ジェーバス・リュミエール辺境伯の娘、シャルロット嬢の神聖魔法で治すことができます」

「ですが……」


 メルヘス様は私の神聖魔法がいかに凄いのかを説明した。

 話を聞き、頷いたソフィア様は私を見た。


「シャルロット。お願いできますか?」

「――はい。お任せください。必ず治してみます」


 そして私は神聖魔法を行使した。

 詠唱し、鍵となる魔法名を唱える。


「――女神の旋律(セア・メロディア)


 陛下の頭上に光が差し――部屋を満たした。

 光が収まり、一同が国王陛下に視線を向けた。

 少しして国王陛下、ヨセフ・ハイネル・ウィンブルが目を覚ました。


「陛下!」


 ソフィア様が陛下に駆け寄り、その手を握る。


「ソフィア……?」

「お体は? どこか悪いところではありますか?」


 体を触って異常がないことを確認した。


「体が軽い……不治の病と言われていたが一体何が――メルヘス公爵」


 陛下が私達の存在に気付いた。

 ここでメルヘス様とお父様の二人で何があったのかを説明する。

 そして陛下は私を見るなり深く頭を下げた。


「シャルロット嬢、感謝する。キミは私の命の恩人だ」

「シャルロット、ありがとう……!」


 ソフィア様までもが私に頭を下げた。


「そ、そんな! 頭をお上げください! 私はただ、陛下を治せると思っただけでして……」

「それでもだ。本当に、心から感謝する」


 陛下は再び頭を下げた。

 それから陛下を交えて談笑し、私達は一週間ほど歓迎を受けることになった。

 その間、私はアレン殿下の姿を見ることはなかった。



 ◇ ◇ ◇



「クソッ! あのアマがっ! 私の計画を台無しにしやがって!」


 アレン・ハイネル・ウィンブルは自室のテーブルに向かって強く拳を振り下ろした。

 テーブルを叩いた音からも分かるように、アレンは父であるヨセフを病気に見せかけて殺すという計画をシャルロットに邪魔され、怒りに震えていた。


 あと少しだったのに。もう少しで衰弱して死に、自分が国王になれそうだったところなのに。


「シャルロットと言ったな。俺の邪魔をしただけではなく、側室にしてやるという誘いを断りやがってっ……! クソがっ!」


 近くにあった花瓶を床に投げつける。

 パリンという音を響かせ、同時に飾られていた花が散り、水が絨毯を湿らす。

 数分して、アレンは不気味に笑い出す。


「そうだそうだそうだ! 思いついたぞ! まだ父上を殺すチャンスはある。あのアマが陛下を殺したことにすればいいじゃないか。丁度、王城も俺の派閥が大きくなってきた。頃合いを見て、殺せばいい」


 アレンはメルヘスの顔を思い出す。


「そうだ。クラルド公爵家とリュミエール辺境伯を国家反逆の罪を着せればいいじゃないか。くはははっこれは愉快なことになりそうだ」


 指を鳴らすと、どこからともなく影が現れた。


「御用でしょうか?」

「〝宵闇〟を呼べ、他に俺の派閥の貴族共を招集しろ」

「承りました。それで、なんと招集いたしますか?」


 アレンの瞳に妖しい光が灯り、口角が吊り上がる。


「この国を――俺達の物にするとな」

「いよいよですか。これは楽しみです」


 影は消え、部屋にはアレンただ一人。


「――さあ、どう踊ってくれるのか、高みの見物といこうではないか」


 そう呟いたアレンは嗤うのだった。





最後までご愛読ありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」と思った方は是非ブックマークと、ページ下の☆☆☆☆☆から評価して頂けると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ