10「Bye-Bye Childhood」
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木葉は死亡し、その死体は元の客室にて未春の隣に並べられた。
夫婦揃って殺人犯となった瑞羽と圭太は、拘束まではされなかったものの、倉庫に閉じ込められた。倉庫には窓がなく、扉に外から錠が掛けられるためだ。木葉を殺害した後の圭太はしばらく半狂乱で手が付けられなかったが、涙も声も枯れ果てたころになると今度は魂が抜け落ちたかのような有様で、妻と同じく何の抵抗も示さなかった。
残った者達は食堂にて引き続き、これからのことを話し合うつもりらしい。
狂乱の時は去り、〈つがいの館〉は混沌とした静寂に沈んでいる。
彩華が俺に向けたスケッチブックには、次の言葉が書かれていた。
『どうか誤解なさらないでください。彩華が茶花お兄様を想っているのは、お父様にそう教育されたこととは無関係なのです。彩華だけは純粋に、茶花お兄様の味方です。血の繋がった兄妹であっても、彩華を愛してくださるでしょうか?』
俺は応えられなかった。彼女の目を見ることもできずに、「ごめん彩華。整理する時間が欲しいんだ、色々とね……」とだけ謝って、席を立って、ふらつきを覚えつつ、かしこのもとへ行った。
「かしこさん……俺だけ先に、帰らせてもらえませんか……吹雪も止んだみたいですし……車を運転してほしいんです……麓の駅まででいいですから……どうせ警察への対応なんかは、大人たちで決めるんでしょ……事件は終わりました……俺は帰っていいと思うんです……お願いします……」
もうこれ以上、こんな館に、こんな一族と共に、いたくなかった。
気持ち悪い。気持ち悪い。吐き気が一向に治まらない。
これほどの嫌悪感を俺は、かつて味わったことがない。
ひとりにしてくれ。耐えられない。最低だ、こんな家…………。
そして俺は、かしこが運転する車に乗って、館を去った。
【明の章:あみだくじの殺人】終。