騎士の本性
2度目の情事が終わり、疲れてしまったのかセリアはそのままユウジの胸で眠ってしまう。そんなセリアを見つめていたユウジの口角が上がり、唇は歪んだ笑みを作り始めた。
「相変わらず良い身体だ。やっぱり、あのゴミの恋人には勿体ない女だよ」
そう言いながら、彼はセリアの耳に付いているピアス部分を触り始める。
それはユウジがプレゼントし、彼女に付けさせたものだった。
「それにしても、ククッ、ここまで上手くいくなんて……やっぱり田舎から来たような奴らは馬鹿でちょろいものだね」
ロイドとセリア、2人の事を嘲笑しつつまだ満足していないのか、自身の胸に抱き付いているセリアの身体を触りながら、ユウジは眠っているセリアに再び覆いかぶさった。
***
ユウジは元々この世界の人間ではない。
こことは違う、比較的平和な世界から転移してきた存在であった。
普通の人間ならば、いきなり説明もなしに別世界に連れてこられたら泣き叫んだことだろう。
しかし、彼はむしろこの状況に喜んだ。
ユウジにとって、元の世界は何の価値もないものだった。
毎日がつまらない学校生活、唯一の楽しみといえばクラスで孤立している同級生を虐める事だったが、やり過ぎたことで遂にそれもバレてしまい学校から居場所がなくなり、両親からも失望されてしまう。
そんな時、この世界に連れてこられたのだ。
これはきっと神が自分を助けてくれたのだと彼は確信した。
それと同時に、自分はやはりその他のクズ共とは違う、選ばれた人間であると思うようになった。
『騎士』という近接職でもかなり優秀なスキル……しかし、ユウジに与えられたのはそれだけではなかった。彼は近接職でありながら、微力ではあるが魔法も使う事が出来た。
分類は精神干渉、特に異性を操る事に長けた魔法であった。
本来であれば、精神に影響を与えるような魔法を人に対して使う事は固く禁止されている。
魔術スキルのある者は必ず授けられた魔法の種類を確認され、その中に精神操作系の魔法を持っていた場合、人に対して使えないように特殊な制約のある指輪を付けるように定められていた。
だが、ユウジは『騎士』という本来であれば魔法適性が全くない近接職のスキル持ちだと判明していたため、当然、魔法の検査などされなかった。
それにより彼は悪魔の様な魔法を覚えつつ、何の制約もされていない、いわゆる野放し状態となってしまう。
とはいえ、ユウジの魔力は低くその効果はとても弱い物だった。
冒険歴の長い女性や、警戒心の強い女性は違和感を感じるとすぐに彼から離れてしまう。
この力があれば、女性をただで好き放題出来ると思っていたユウジは、余りの成功率の悪さに何度も癇癪を起こした。
そんな様子を見せる度、他のメンバーに迷惑だと言われパーティをクビになり、自然とソロでの活動を余儀なくされていった。
イライラしながら、彼がギルドでソロ用のクエストを探していた時だった。
初心者用のクエストボード手前に2人の男女がいたのだ。
亜麻色の髪をした少女が人差し指同士を合わせながらなにやらもじもじと、金髪の少年へと話しかけて居た。
「ねぇ、ロイド。あのね、その、今日の薬草採取が終わったら……。デートでも、どうかな……なんて」
「えっ!? もちろん構わないよ‼ というかさ、丁度、俺も今、同じこと考えてたって言うか」
「……えへへ。じゃあ、ロイドも今日はわたしとデートしたいと思ってたって事なのかな?」
「ちょっと違うかな。俺はセリアとなら毎日でもデートしたいと思ってる‼」
「そ、そうなの? じゃあ、わたしも……ロイドと、その……毎日、したいかな」
「あの、そういう返し方でこられると俺の方が恥ずかしくなってくるんだが……」
2人共、顔を真っ赤にしながらお互いを見つめ合っていた。
傍から見れば、初々しいかけだし冒険者カップルといった感じに見えた。
2人のその様子を見たユウジは憎悪の感情を滾らせる。
――神に選ばれた僕が、こんなにも苦しんでいるというのに……あんな田舎から来たような冴えない山猿共がなんで楽しそうに笑ってるんだ?
よく見れば、亜麻色の髪をした少女はかなり可愛い容姿をしていたこともあり、彼はますますそんな少女と今も楽し気に話している冴えなさそうな少年に憎しみの感情を向けた。
この時の恋する2人――ロイドとセリアは気づかなかったが、実はこれがユウジとの初の出会いであり、彼の恨みを買った瞬間でもあった。




