最初の選択
パーティ内の立場が今では底辺にまで堕ちた俺は、今日もセリアとユウジの荷物を背負い2人の後ろを付いて行く。
最近では俺が視界に入るだけで不快なのか、ちょっとでも2人に並ぼうとするとセリアから激しい罵倒を受け追い払われる。
――なんで、こんなことになっちまったんだ?
どこで間違えたのか、いくら考えてもわからなかった。
確かに俺の『戦士』の力はユウジより弱い。比較にもならないだろう。
だけど、頑張って2人の役に立とうと思い毎日の鍛錬を欠かした日などない。
ちょっとずつ、強くなっている実感はある。
認めてもらいたかった。セリアから、頑張ってるねという一言だけでも良い……あの日言われた、役に立たないという言葉を取り消してもらいたかった。
だが、セリアの態度は悪化するばかりだ。
最初は俺の戦闘力に対して嘲笑するだけだったはずなのに、今では俺そのものを馬鹿にするような発言を毎日している。
『ロイドって、男としても全然ダメだよね。ユウジと比べちゃうと、ゴミみたい』
『顔も良く見るとアレだし? あっ、ユウジみたいな凄くカッコいい人と比べちゃったら可哀想だよね。人間としてのレベルが違うもん』
俺にわざと聞こえるように、ユウジの腕に抱き付きながらクスクス笑って話すその姿は、もう俺の知っている心優しいセリアと重ならないほど醜悪な女に見えた。
更に結界石の節約だとか、訳の分からない理由で俺だけ一晩中夜の見張りをさせられたこともある。
『あの石って高価なんだよ? 危険な場所ならともかく、こういう場所で使うのって勿体ないと思うの。だったらロイドが寝ずに見張ってた方が安上がりでしょ?』
『大丈夫よ、どうせあなたなんて役に立たないんだから。わたしとユウジの体調さえ万全なら問題ないから、安心して一晩中見張りしてね』
そう言って、2人は平然と一緒のテントへと入って行ったんだ。
一体、どうなってるのか理解できない。
もう、隠そうともしないのかよ……?
精神的に追い詰められた俺は、何度人知れず吐いたかも覚えてない。
そんな事が続く日々に、限界だった。
このまま一緒に居たら、本気でセリアとユウジを憎んでしまいそうだったから。
だから、俺は。
「なあ、2人共……ちょっといいか」
俺は先頭にいる2人に話しかける。
不思議そうな顔でユウジが振り向き、険しい表情でセリアも俺を見た。
「どうしたんだいロイド君?」
「ちょっと、呼び止めないでよ。役立たずの癖に足止めまでする気? 最低ね」
通常の対応をするユウジに比べ、何がそこまでイラつくのか言葉の刃を俺に平然と投げつけてくるセリア。最愛の彼女から罵倒されるたびに……無能と誹りを受けるたび、涙が出そうになる。
「今回の仕事が終わったら、俺……パーティを抜けるよ」
それでも伝えるべきことは伝えた。
これ以上、2人の傍にいるのが苦痛だった俺は逃げることを選んだ。
「えっ……ロイド? 何で、いきなりそんな事言うのよ……?」
俺が脱退することを伝えると、セリアが何故か動揺したような様子を見せる。
散々罵倒されたが、まだ俺の事を少しくらいは思ってくれているのかも知れない。
「ごめんな、今まで迷惑ばかりかけて。2人には本当に申し訳ないと思ってる」
「ロイド君……本気なのかい?」
「ちょっとロイド!? 恋人のわたしを置いていくの……?」
予想以上に2人から引き留められて困惑する。
もっとこう、「役立たずだったから清々した」くらいの事を言われると思っていた。
「ねぇ、考え直してよ。わたし達、上手くやって来たじゃない!」
ちょっとその点に関しては突っ込みたい部分があったが、久しぶりに心配して言ってくれている彼女にそれを指摘するのは無粋というものだ。
けど、最後の別れが険悪な感じにならずに済みそうで良かった。
「……恋人関係は解消しよう。俺じゃセリアには釣り合わなかったんだ……それに、お前にはもっと相応しい男性がいるはずだろ?」
そう言って隣のユウジを見る。すると彼は驚いた顔で俺を見た。
「ロイド君……君はまさか――」
「その先は言わなくて良いです。言っても、お互い良い事なんかないでしょう?」
「……すまない」
「ロ、ロイド……わたし、その……」
「もういいよ、呼び止めてごめんな。今日は洞窟で凄い宝を手に入れるんだろ? 早く行かないと横取りされるかもしれないし行こうぜ」
セリアが何か言おうとしたが、俺はそれを遮り先に進んだ。
未練はあるが、これで良かったんだ。
結局、セリアにはユウジこそが運命の相手だったという事だ。
俺は冴えないただの幼馴染に過ぎなかったのに、彼女の恋人なんていう分不相応な立場を望んでしまったのが間違いで……そう、俺はいわゆる当て馬という奴だったのだろう。
付き合えたことで浮かれて、いつか結婚なんか考えたりしてさ。
ホントに、馬鹿だよな……。
ズキズキと胸が痛む反面、どこかスッキリした気分でもある。
今までありがとな、セリア。
心から愛してる……だから、本当に好きな奴と幸せになってくれ。




