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セリアの気持ち

「今日は、ここで野宿しよう」


 ユウジの提案にわたしとロイドは頷き、野宿をするための準備をした。

 結界石(ヴァリアストーン)と呼ばれる特殊な石を休憩している場所の周辺に置くことで、魔獣が入れない結界を作り出す。


 こうする事で危険な深夜の森でも、安全に夜を過ごす事が出来るようになる。




 現在、わたし達は森に棲んでいる魔獣退治のクエストをギルドから受けていた。

 本来なら日帰りで帰る予定だったのだけれど、思ったよりも移動に時間を取られてしまい、魔獣の住処に付く頃には夜になってしまったため、こうして野宿する羽目となった。


 皆で協力してテントを3つ張った後、焚火を囲いながら食事を取っている最中。


「なぁセリア、疲れてないか?」


 心配そうな声で、ロイドがわたしに話しかけて来た。


「ちょっと疲れたけど、平気だよ♪」

「ならいいけど。って、なんでちょっと楽しそうなんだよ……?」

「えへへ……久しぶりにロイドの愛を感じられたから、かな?」

「おまっ、だから、そういうことをいきなり言うなって……‼」


 最近はユウジとばかり一緒に居た所為で、なんだかロイドと少し距離を感じていた。そんな中で心配してくれる彼の言葉に嬉しくなり、胸いっぱいに幸せが広がってきた。


 弾んだ声で返事をした所為でロイドから少し呆れられちゃったけど、それでも次の瞬間には笑顔をこちらに向けてくれる。


 心の底から、彼の事を愛してる。

 ロイドが傍に居るだけで、わたしの心は満たされていく。


「えと、嫌だった?」

「……全然嫌じゃねぇよ」


 顔を赤くし、不器用にそっぽを向く彼の事が……大好き。





 ***





 小さな頃、人見知りで大人しかったわたしは、同年代の村の子達から毎日からかわれていた。何を言っても言い返してこない事で、やがてそれが嫌がらせに発展しそうになっていた時。


「やめろよ! 1人に寄ってたかって、みっともねー奴らだな‼」


 わたしを助けてくれたのは、幼馴染の男の子……ロイドだった。


 彼と会ったのは、もっと前の頃でした。

 両親から紹介され、初めて会った時のロイドは乱暴そうな少年みたいな印象で、わたしは彼と話もせずに逃げ出した。

 ロイドからすれば、かなり失礼な女の子だったに違いない。


 狭い村の中でバッタリ会うたびに逃げ出し、ずっと避け続けてきた。

 あんなのが幼馴染で最悪だと、何度も心の中で呟いていた。


 そんなわたしを、彼は助けてくれたのだ。


 ロイドが救ってくれた日以降、わたしに対する嫌がらせは無くなった。

 元々、からかっていた子達も悪意はなかったのだろう。


 ロイドに怒られたことで、わたしが本当に嫌がっていた事に気付いたのかも知れない。結局は、わたしがしっかりしていればこんな事にはならなかったのだ。



 それからすぐ、わたしはロイドに謝った。


 先入観で酷い人だと思い込み、会うたびに避け続けてきた事を。

 初めてに会った頃、挨拶してきた彼を見た目で判断して軽蔑していた事を。

 言わなくても良い様な事をベラベラとしゃべり、泣きながら謝罪した。


 ロイドは、それを黙って聞いていた。

 やがて、わたしが話し終わると。


「気にしてねーから、もう泣くな」


 そう言って、ロイドは下を向きながら泣いているわたしの頭を撫でてくれた。

 遠慮がちに撫でる彼の手の感触は、今でも覚えている。


 わたしがロイドの事を好きになったのは、たぶんこの時。




 あの日をきっかけに、わたしは今までの自分を変えたいと強く想い始めた。

 ただの幼馴染として、彼を見ているだけの存在で終わるなんて絶対に嫌。

 だから彼に相応しい女の子になるために、たくさん頑張った。


 人見知りを克服し、誰に対しても笑顔でいられるような女性となり。

 ……いつかロイドから、認められる女性になりたかった。


 その甲斐あってか、15歳になる頃にはわたしは村の殆どの人達から認められ、想い人のロイドともとても仲の良い幼馴染という関係を築けるまでに至った。


 ロイドと触れ合えば触れ合うほど、話せば話すほど、彼に対する好きの気持ちは大きくなっていく。

 それでも臆病なわたしは、どうしても告白する事が出来なかった。


 もし断られたら? ロイドに他に好きな女の子がいたら?

 なによりも、幼馴染としての暖かい関係まで壊れてしまったらと考えたら……怖くて怖くて仕方なかった。



 そんな時――女神の祝福というスキルを授かる成人の儀式がやってきた。

 取得したスキルによっては人の生涯をも変えてしまう、特別な日。


 そしてロイドは『戦士』、わたしは『神官』という、運命のスキルを得た日でもあった。


 ロイドから、一緒に村を出て冒険者になろうと誘われた時の事は今でも思い出せる。言われた日の夜は、余りの嬉しさで一睡も出来なかった。



 まあ、今思えば、ここからが本当の幸せの始まりだったんですけどね‼

 魔物と戦うのはとても怖くて、知らない街に行く不安もあったけど、結果としては、この上ないハッピーエンドで終わっちゃいました。


 だって、あの日からずっと好きだった……ロイドから告白されて。

 わたし達は幼馴染から、恋人同士になったんですから。


 ……本当に幸せ者です、わたし。


 今は3人パーティになっちゃったけど、ユウジもとっても良い人だし、今の環境はとても恵まれてると自分でも思います。


 今日もユウジから夜中にテントまで来るように誘われちゃったけど、明日の討伐に響くことになりそうだから出来れば遠慮したい気持ちもありました。


 でも、ロイドとの関係をもっと素敵なモノにするためなら……。

 どこまでも頑張れる気がするの。


 だからね。


 わたしは、ユウジの所へ向かう事にしたんです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] セリアちゃん、いい子やなからの……最後はそれかいっ! って感じです。 ラストの後味が秀逸すぎて凄いです。 [一言] これで赤字警告来ないのも凄い!
[良い点] 見事なまでに『ハマってる』な(笑) ユウジも笑いが止まらんよこれわ [一言] よくある2人の馴れ初めの回想… そのシメでユウジの名前が出た瞬間『ぶふっ』って感じで吹き出しちまった(笑) も…
[一言] セリアの洗脳が解けるのはロイドが自分を置き捨てて、出て行った事を知った時かな。それとも、見目が良くて自分の勲章を兼ねるダッチワイフを失くすのが惜しいユウジが舌先三寸で言いくるめ続け、ロイド出…
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