大好きな彼のために
頭がぼーっとして、上手く働かない。
絶え間なく襲ってくる快楽によってわたしは正気を失ったようだった。
とにかく気持ち良くて……。
この快楽を与えてくれる目の前のユウジが、愛おしくて堪らなくなっていた。
彼をもっと喜ばせてあげたい。
「あんっ、ユウジ……」
そう考えるだけで、無意識の内に媚びるような声が出てしまう。
それを見たユウジは喜んだ表情を見せ、わたしにキスをする。
何度も味わった彼の唇、彼の舌。
幸せと気持ちいいが交互にやってきて、わたしの頭は更にまわらなくなる。
好きな人と身体を重ねる幸福感。
愛し合うって言葉はまさに、今のわたし達の為にあるのだと思ってしまう。
……でも、なんでだろう。
何か、大切なことを忘れているような気がする。
そう、わたしには。
目の前にいるユウジではなく、もっと違う、大事な人がいたはずなのに。
思い出そうとすると思考に霞が掛かる。
その人の顔も名前も思い出せない。
「どう? 気持ちいい?」
纏まらない考えは、強くなっていく快楽によって全て流されていく。
今のわたしにはもう、目の前にいるユウジしか目に入らなくなっていた。
理解できない罪悪感が、僅かに胸に刺さる。
そんな感覚を味わいながら。
「うん、とっても気持ち良いです……ねぇ、ユウジ」
「なんだい?」
「……愛してる♡」
わたしは――彼に愛の言葉を囁いてしまう。
大事なあの人にしか、絶対に言わないと決めていたのに。
わたし、は……。
***
正気に戻った後、セリアは泣き叫んでロイドの名前を呼んで謝罪した。
しかし、半年分たっぷりと掛けた魅了の効果によって、それもすぐに宥められる事となった。
「ひっぐ……なんで、わたし。初めては、ロイドって決めてたはずなのに……あんなことを。あの時、彼の事を思い出せなくなって……‼ それでっ‼」
「まあまあ、そう自分を責める事は無いよ。僕も急に君の方から抱いて欲しいと言われたのには驚いたけどね」
「こんなの……ロイドに、何て言えばいいの?」
「いいかい、セリア。確かに君はもう処女じゃないかも知れないけど、それも全てロイド君のために頑張った事なんだろう?」
「えっ……、それは、そうだけど。でも……」
「だったら、何も心配する必要はないよ。むしろ後々の事を考えれば、この経験は彼をリードできる大きな強みになるはずだ。だから、これで良かったと思える日がきっと来るさ」
普通ならば、こんな滅茶苦茶な言葉に丸め込まれる者など誰もいない。
だが……すでにセリアは、普通の状態ではなかった。
「そう、なの……?」
「ああ。むしろこれで気兼ねなく練習できるようになったと考えればいいよ」
ユウジの言葉を聞くと、謎の安心感がセリアを襲う。
単に魅了により、ユウジの言葉に逆らいにくくなっているだけなのだが、セリア本人はそうではなく、きっとこれは正しい事なのだからと勘違いしてしまう。
「良かった……っ、じゃあ、わたし。まだロイドの事を裏切って無かったんだ」
「ははっ、ロイド君のために頑張ってるのに裏切るだなんて、セリアも面白いことを言うんだね」
「そうだよね……ごめん。ユウジのおかげで、ちょっと落ち着いたかも」
「気にしなくていいよ。君たち2人が幸せになれるように協力するのは、同じ仲間として当然の事だからさ」
行為が終わった後のベッドの中で、お互いに話す姿はまさに恋人同士のようであった。そんな異常な状況の中、ユウジに身体を預け、安心しきったセリアに再び彼は聞いた。
「じゃあ、これからはこういう練習もしていこうか」
「……うん」
僅かに躊躇しながらも、セリアはユウジの提案に頷く。
ロイドのためという免罪符により、先ほどまであった激しい罪悪感も収まっていた。
嫌悪感は、安心感に変わり。
また、セリア自身すら気付いていないが。
先程与えられた強烈な快楽を再び味わえるのだと、セリアの身体は喜んでいた。
そして、この日以降――
ロイドの目を盗んでユウジと行う行為は……練習ではなく、本番となった。
ここまでしてもなお、セリアはロイドの事を想っていた。
今日も最大の裏切り行為をしている最中、彼女は何度も呟く。
――ロイド、大好きだよ。あとちょっとだからね……もうちょっと、だから。




