喪失
その後も、セリアはユウジと様々な行為を繰り返していった。
昼は恋人に対して愛の言葉を紡いでいる唇を、夜はユウジの為だけに使う。
しかし、彼女はその事に何の疑問も抱いていない。
最初の頃に感じていた罪悪感や違和感も、日常的に与えられる快楽によって薄れていった。
ロイドとのデートの最中にも関わらず、快楽に夢中になっている身体に引きずられ、頭の中はユウジの事でいっぱいになってしまう。
自分でも気づかない内に、彼女の心は蝕まれていた。
1日1日を過ごす度に、ロイドではない男の爪痕が彼女に刻み込まれていく。
魅了と快楽漬けにされた結果、彼女はユウジの言う事にはほとんど逆らえなくなっていた。
そんな事を繰り返して、半年が経つ頃。
いつものように深夜。ロイドと一緒に泊っている宿から抜け出し、ユウジの部屋で行為に及んでいると、突然ユウジがセリアの頭を撫でながら微笑んだ。
「僕と何度も練習したおかげで大分上手くなったね。これなら、ロイド君も満足してくれるかもしれない」
「え、ホントですか! それじゃあ、わたし。ようやくロイドと……」
「うん。だけどロイド君と結ばれるためにはもう一段階、先に行く必要があるね」
「もう、一段階……ですか?」
ユウジの言葉に、いまいち要領を得ないセリアはこてんと首を傾げた。
そんなセリアの様子が可愛かったのか、ユウジは彼女にキスをし始める。
突然キスをしてきたユウジに驚いたものの、いつもしている事なので、すぐにセリアもユウジに合わせて口を動かした。
しばらくすると満足したのか、ユウジはセリアの口を解放する。
そして荒い吐息をついている彼女を抱き締めながら、耳元である事を囁いた。
その言葉を聞いた瞬間、ユウジの胸で今まで甘えていたセリアが彼を思い切り引き剥がした。
「そっ、それだけはダメ‼ それだけは、絶対に嫌です」
「今時、処女なんて流行らないよ? それにさ、僕はロイド君と君のために――」
「それでも嫌なのッ‼ 初めてだけは……ロイドにあげたいんです……」
ユウジとそういう事を体験したらどれほどの快楽を得られるのだろうと、セリアの身体は喜びに打ち震えていた。
だが、彼女の心はロイド以外の男性から本当の意味で抱かれてしまう事に強い嫌悪を示す。
「ちっ。半年掛けても、まだこんなメンドクセェ反応するのかよ」
「……ユウジ?」
小さな声で悪態を付いているユウジの言葉に、この時セリアが気づいていれば、何かが変わったのかも知れない。
「セリア、君の気持ちは良く分かるよ。好きな人に初めてを捧げる、それは素敵な事だと思う」
「……小さな頃から、夢だったんです。ロイドと結婚するのが、わたしの夢で。だから、ユウジと練習して、彼を喜ばせたくて」
「でも、それなら尚更。初めてって言うのは不味いんじゃないのかい?」
「それは……分かってます。でもっ、それでも嫌なの‼ 初めてはやっぱりロイドじゃないと……」
右手を胸に当て、ロイドの事を必死に思い出そうとするセリアを見て、ユウジは益々イラついた気分となる。堕としたと思っていた女を、取り返されたような屈辱的な気持ちだったのだ。
「セリア。僕を見てくれ」
「待ってユウジ……今は、ロイドの事を」
「いいから、こっちを見るんだ」
嫌がるセリアの手を取り無理矢理に目を合わせると、ユウジは半年間、今まで累積掛けしていた魅了魔法を全て発動した。
日常的にじわじわと心を侵食していくタイプの魅了魔法だが、こうして全ての魔力を直接相手に送り込むことによって相手の意志を無理やり捻じ曲げ、操る事も出来る。
もっともユウジの魅了効果はとても弱く、半年分の累積をもってしても20分程度しか操れないような出来損ないではあったが。
「あっ……」
今回に限っては、十分すぎる時間だった。
目を通して、セリアは先ほどまであったロイドへの気持ちが消えていく。
「ねぇ、セリア――ひとつだけ、聞いてもいいかい? 君が初めてを捧げたいのは、ロイド君? それとも、僕?」
「わ、たしは……わたしが、捧げたいのは」
たった20分の消失。それが致命的な結果を招く。
「捧げたいのは……ユウジの方です♡」
「それは良かった。じゃあ、丁度ベッドもあるし……いいよね?」
「はい♡ いっぱいいっぱい、愛してください!」
セリアは自らベッドに倒れ込み、恋人以外の男を受け入れる準備をする。
そこには、先ほどロイドの為に貞操を守ろうとした彼女の面影など無かった。
ユウジはそんな彼女に覆いかぶさると、欲望のままに行為に及ぶ。
あえぎ声を上げ、自らにぎゅっとしがみ付くセリアを見て、本当の意味で奪ってやったのだとロイドに対して優越感が湧き上がる。
快楽により狂乱するセリアを眺めながら、ユウジは。
小さな声でお礼を言った。
恋人をこうして寝取られた、マヌケな彼氏に対して。
「ありがとな、負け犬君。お前の彼女……最高だわ」




