嘘と快楽の味
「ユウジさん、怪我はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、彼女の看病のおかげですっかり良くなったよ。ロイド君にも今まで迷惑かけたね」
「いや、迷惑だなんて、そんな」
「そうですよ! 元々はわたしの所為なんだから、ユウジは悪くありません!」
「そう言ってもらえると嬉しいよ、セリア」
2か月後、怪我が完治したユウジは無事にパーティへと復帰した。
ロイドも仲間が戻ってきたことを嬉しく思う。
けれど、それと同時に何か違和感のような物も感じていた。
彼女がユウジにピッタリと寄り添っており、2人の距離が近かったのもある。
だが、それ以上に。
(あれ、セリアとユウジさんって……いつから名前を呼び捨てするような仲になったんだ?)
まるで自分とするようなやり取りを彼と嬉しそうにするセリアを見て、ロイドは僅かに胸の奥が痛むのを感じた。しかし2ヵ月も一緒に過ごしていれば親交も深まるだろうと、自らを納得させる。
彼はそれだけ恩人であるユウジの事を信頼していた。
なにより、一途に自分を想ってくれているセリアに対しても失礼だと思ったのだ。
(セリアを助けてくれた人に嫉妬するなんて、俺は……)
楽しそうに話す2人の姿を見ながら、ロイドは自己嫌悪に陥った。
***
「んっ、ユウジ。ここでするのはちょっと……」
「こういう場所は嫌かい?」
「い、嫌じゃないですけど、近くにロイドもいるし」
「そのロイド君のための練習だろう? だったら、こういう場所でするのも慣れておかないとね」
ユウジの怪我が治ってからも、2人の関係は継続していた。
ロイドが居ない隙を見ては、お互いに抱き合って唇を重ねる日々。
ロイドとキスする事を禁止されたセリアは、今まで彼としていた分までユウジに求めるかのようにキスをするようになった。
彼女はユウジから与えられる快楽にすっかり夢中になっていた。
その結果、タガが外れたのか最初はこっそり会ってするだけだったのが、今ではクエストをこなすために足を運んだ森の木陰などでこうして求め合っている。
目と鼻の先には、お手洗いに行ってくると言うセリアの嘘を信じたロイドが、彼女が戻ってくるのを座って待っている姿が見えていた。
「恋人に嘘を付いて、浮気するなんてセリアは悪い女の子だね」
「んちゅ、これは浮気じゃなくて……いつかロイドを喜ばせるためだもん」
「……ああ、そう言えばそんな理由だったっけ」
「今日のユウジ、なんだか意地悪だよ?」
「ごめんね、セリア。僕も外ではあんまり経験ないから、ちょっと緊張してるのかも知れない」
普段余裕なはずのユウジが、珍しく焦っている様子が何だか可愛く見えたセリアは、もっと焦らせてやろうと身体をピッタリとくっ付け始める。
そして、彼の胸に頭をこてんと傾けると。
「ホントだ。ユウジの胸……ドキドキいってるね」
ロイドと居る時には見せないような悪戯っぽい表情を向けられ、ユウジは我慢できなくなったのか、突然彼女の口を激しく貪り始めた。
そんなユウジに合わせ、セリアも舌を絡ませていく。
もう数えきれないくらい何度もした所為か、彼女に躊躇するような様子はなかった。すぐそこに居るロイドの事など、セリアの頭の中から既に消え去っている。
お互いの口を貪る水音が、しばらく響いた後。
ユウジはズボンのベルトに手を掛けた。
「それじゃあ、アッチの方も……お願いして良いかな?」
「うん、いいよ♡ 今日こそ、ユウジを満足させるんだから」
恍惚な表情で彼女はユウジにそう言うと、そのまましゃがみ込み。
そして……。
最近では、彼女はキス以上の事をユウジとするようになっていた。
傍から見れば唾棄すべき裏切り、許されざることだったが。
彼女は満足そうな顔でこう言うのだ。
――これなら、ロイドも喜んでくれるかな?
行為が終わった後は、素知らぬ顔で彼女は恋人と笑顔で話す。
「あれ、セリア……なんか顔に涎付いてないか?」
「えっ!? じ、実はちょっとお手洗いの後、木陰で寝ちゃってたんです」
「そういえば戻ってくるのやけに遅かったもんな。こんないい天気だし眠りたくなる気持ちも分かるけど、魔物がいないとも限らないんだから気を付けてくれよ」
「心配かけて、ごめんね……」
「まっそういう所が、セリアらしいといえばらしいんだけどな!」
「むー、わたしらしいって……何か複雑なんですけど」
「いや、ごめんって! 別に悪い意味じゃなくて、マイペースって意味だから! 頼むからイジてないでくれよ!」
「……じゃあ今度デートしてくれたら、許してあげます」
「えへへ」と笑って、彼女はロイドと手を繋いだ。
セリアの愛しい姿を見て、顔を赤くしながらもロイドは彼女の手を握り返す。
その姿は、数か月前に見た初々しいカップルと何も変わらないように見えた。
しかし、僅かに香る。
他の男の残り香がセリアに残っているのが、唯一違う部分であった。




