好きだ、タマ
「さよなら、大好きだったよ」の番外編。
鬼の蘇芳目線の話です。
タマと出会ってから5年ほどだった。
あの時の幼子は今も変わらず俺の胸に顔を埋めて猫みたいに丸くなっている。無防備にも鬼の俺の目の前でスヤスヤと寝息を立てている。頬を優しく撫でてやれば擽ったかったのか顔を顰めて唸り声を上げた。
「うぅー…」
「くく…」
そのままつんつんと柔らかい頬を啄いていると、タマは漸く目を覚ました。
「…すぉ?」
「漸くお目覚めか?もう朝だ、そろそろ起きるぞ」
「…んー」
「おーい、寝るなー」
そのままグズグズと二度寝に入りそうなタマの肩を揺するが逆に腕をガシッと掴まれそのまま抱き枕のように胸に抱えられてしまった。
「タマー?タマちゃーん」
「…」
何度か声をかけるも返事はない。
ヤレヤレと肩を竦めた俺はタマの耳元にそっと口を寄せた。
「…タマは悪い子だなぁ、あんまり俺を困らすなよ。
…喰っちまうぞ?」
鬼らしくドスをきかせた声で脅しをかけた。
俺のこんな声を聞けば大抵のものはガタガタと震え上がり許しを乞うてくる。
まぁ、何故だかタマには1度も効いた試しはなかったが…
今回もダメ元で言ってみたものの…やはり効果はなかったらしい。
思わず溜息が零れた。
すると、あんなにも頑なに閉じていた瞼がそっと開いた。今日は早かったなぁと思いながらも漸く目を開けたタマに視線をやると、タマは俺を見上げてへにゃっと顔を綻ばせた。その可愛らしさに思わず見入ってしまう。
おはよう、ともう一度声を掛けようとしたところでタマはとんでもないことを口にした。
「…蘇芳になら私、食べられてもいいよ」
「おまっ!!!」
「ん?」
「ーーーっ!!」
顔がカアァと一気に熱を持つのがわかった。
俺の顔は今真っ赤に染まっていることだろう。
おまっ、それはダメだろう!!
色々と、あれだ…ダメだ!
そんな俺を見てタマはクスクスと笑っている。
なんだが負けた気がして、俺は思わずタマの腕を押さえ込み覆いかぶさった。突然の事でタマは驚いたのか瞠目していたが、少し首を傾げるだけだった。
それどころが俺を見て微笑んでいた。
その事に、俺の方が動揺してしまう。
いやいや、違くね?お前その反応は違うだろ?!
っは!俺が動揺してどうする!!
「…大人をからかうもんじゃねぇ」
タマは意味がわからないと言わんばかりに、コテンと首を傾げるだけだった。
「からかってないよ?」
「んなわけあるかっ!いいか、そーゆー言葉は好きな奴にだけ言っとけ!そもそも…」
「大丈夫」
「あ?」
「蘇芳にしか言わないから、大丈夫」
「おまっ、何言って!」
それは全然大丈夫じゃねぇぞ?!!
「好きな人にしか言っちゃダメなんでしょう?そもそも、蘇芳以外こんなこと言うわけないじゃない」
「それ、どゆ…」
俺の頭の中は一瞬真っ白に染まった。
だがタマは至って平然としている。その姿を見てなんだか、焦っている自分自身が馬鹿らしくなってきた。
「?」
「…はぁぁぁぁ」
きっと、タマの言う“好き”は家族的な意味なのだろう。
そう思うと、何故だか少し落胆した。
いやいや、何落ち込んでんだよ!俺はこの子の保護者だろ?!そもそも、タマには恋愛はまだ早いっ!
そんなことを悶々と考え込んでいる俺に、タマは押さえられていた筈の腕をスルッと引き抜くと俺にギュッと抱きついてきた。
「…蘇芳、好きだよ」
耳元でそっと呟かれたその言葉に俺の胸はドキッと音をたてた。
タ、タマに抱きつかれるのなんて今更だろ!
そもそも一緒に寝てるしなっ!
好き、なんて言葉も何度も聞いてきた。なんなら、タマ以外の女にも散々言われてきた言葉だ。聞き慣れている筈、それなのに…何故かこの時ばかりは胸が煩くて仕方ない。
「だから、お前そゆ…」
「会った時から、私はずっと蘇芳のものだよ。私を受け入れて拾ってくれた蘇芳が私は…家族としてもだけど、ちゃんと男の人として…貴方が好きよ」
そういって俺から離れたタマの顔は真っ赤に染まっていた。その瞳は涙で潤み、陽の光を反射してキラキラと輝いている。
ストン…と何かが胸に嵌る音がした。
…あぁ、そうか。
その時初めて俺は自分の気持ちに気づいた。
今まで、タマが幼いからと誤魔化してきたが俺はとっくに、あの時1人で蹲り泣いているお前に出会った時から…ずっとお前に惚れてたんた。
今度は俺がタマをギュッと抱きしめる。
タマは少し、戸惑いつつも俺の背中に腕を回してくれた
その事が心底嬉しくて仕方ない。
「…あぁ、そうだったな。お前はあの時からずっと俺のものだ。お前は誰にも渡さない…俺もお前が好きだ、タマ」
俺は腕の中にいるタマにそっと口付けた。
あの時、お前に出会えて本当に良かった。
俺の元に来てくれてありがとうな、タマ…
※※※※※※※
~5年前~
「…なんだ、この気配」
煩わしい書類仕事に嫌気がさし、友人であり俺の秘書をしてくれている凑に仕事を押し付け俺は息抜きに人間界に来ていた。
数日、フラフラと彷徨い歩いていた時。
妙な気配を感じた。それがなんなのか気になり気配を辿るとそこは廃れた神社だった。
もう、誰からも管理されていないこの場所は草は伸び切り社はボロボロな有様。最早、神すらいない誰からも捨てられたこの場所からその妙な気配はした。
俺が足を踏み入れると忽ち濃い霧が立ち込めた。
驚いた事にこの場所は、人間界【現世】と妖界【隠り世】の丁度狭間になるらしく、境界が随分とあやふやになっていた。
こんなところまだあったんだな…
面倒だが、後で報告しに行かないとか。
今では昔のように自由気ままに人間界と妖界を行き来することは出来ない。こういった繋がりやすい場所は全て人間界で言う役所みたいな所が管理している。
通行料もなかなかに高く、指定されている門以外の場所から行き来すると原則、罰が生じる。
時たま、こういった管理されていない“道”を見つけたら直ちに報告する決まりがある。隠蔽したりするとその者にとってとてつもなく重い罰則が課せられるらしい。
一見厳しいかもしれないが、人間そして妖。互いを守る為のとても大切な決まりだった。
そんな空間の中、大きな御神木の根元で蹲っている人影を見つけた。俺が感じた気配の元はそれらしかった。
それに近づき見下ろすと、それは人間の子供だった。
近づいてみて漸くそれが俺たち妖が持つ妖力と似た力だとわかった。その力が辺り一面に漂っていた。
もしかして…この境界を作ったのはこいつか?
だとしたら、こいつは人間にも妖にとっても危険な存在になるかもしれない。今は恐らく、何かの要因で力の制御が効かず体から溢れだしてしまっているのだろう。
なるべく早く止めなくては…そう考えていると、この子は漸く目の前に立つ俺に気づいたようだった。
「…だ、れ?」
何かを警戒するように、掠れて聞き取りづらいその声は微かに震えていた。
「お前こそ誰だ。ここで何してる?」
牛の刻をそろそろ迎える時間帯。
そもそもこんな時間に子供が何故外を出歩いているんだ。 親はどうしたんだ?
普段の自分ならば相手が俺に敵意を向けてこない限り、絶対に無視し話しかけようなどと思わなかったことだろう。しかし、この時ばかりはこの子のを1人にしてはいけないと思った。
霧をまとい、姿を隠しながら話しかける。
俺の姿を見たらきっと怖がらせてしまうだろうから。
「家族は?心配してるんじゃないか?」
「…」
「霧も濃い。早く帰った方がいい」
「…」
「…おい、聞いてるか?」
何度も声をかけるが返事か帰ってくることは無かった。
思わずその頬に手を伸ばした。
霧で上手く見えなかったが、泣いていたらしい。
「どうした、誰かと喧嘩でもしたか?」
その言葉にピクリと肩が震えた。
やっと反応らしい反応が帰ってきて少し安心した。
「図星か」
「…」
相変わらず、返事はなかった。
はぁ…思わず嘆息をついた。
「喧嘩なら、尚更早く帰って仲直りしてこい。今ならまだ間に合う。俺が送って…」
「っ…やだ!!」
俺の言葉を遮りずっと沈黙を保っていたは筈のその子は突然、叫び声をあげた。
「…何があったか知らないが、今帰らないと後悔するぞ
帰る場所があるなら、早く帰った方がいい」
あと20分もすれば牛の刻だ。こちら【現世】とあちら【隠り世】が交わり扉が開く時間帯。今ここはその扉が繋がりやすくなっちまってるみたいだし…早く帰さねぇと
少し焦る俺の耳にか細い声が聞こえた。
「…ぃ」
「ん?」
「そんな、所…もう、私にはない」
その子はポソッとそんなことを呟いた。
「そんなわけないだろう」
お前だって、ただの家出だろ?
そう思った俺は次の瞬間そう思ったことを後悔する。
「生まれて来なければよかったって…そう、言われた私に居場所なんてあると思うの…?」
絞り出すような声で零されたその言葉に俺の胸がズキンと傷んだ。
…そんなもの、存在を否定されたもんじゃねぇか。
その子はそのまま俯いてしまった。
その姿を見て何故か、昔の俺を思い出した。
※※
かつて鬼はその姿から人間に迫害を受けた。
元は同じだってのによ。
俺も…元は人間だ。
だが、生まれた時から妖力が異常に強く、10歳になった満月の夜に俺は鬼になった。
元々、血みたいな赤い目ってだけで親や周りからは気味悪く思われてたからな。自分が鬼になった時奴らは『やっぱりな』って目をしてた。
そしてそのまま村を追い出された。
奴らは最後まで俺に『死ね』って叫んでいた…
※※
「…ごめ、なさい。貴方に、言うことじゃなかった」
その声ではっと我に返った。
あれは、過ぎたことだ。今の俺には関係ない…
改めてその子を見る。
俯き、その顔を伺うことは出来ないが心の底から申し訳ないと思っているらしい。
…優しい子だと思った。
今1番自分が辛くてどうしようもないだろうに、相手を気遣い謝ることが出来る。こんな子がどうして…
その子の頬をそっと撫でると、無意識か俺の手にすり寄ってきた。その仕草が猫のようで、なんだが可愛らしかった。
「なら…」
その子は俺の声につられて顔を上げた。
それは深い悲しみと絶望が入り交じった瞳をしていた。そして…誰かに助けを求める顔をしていた。
「なら…俺と来るか?」
「え…?」
その子は驚いたのか、目を見開いて呆然とした顔だ。
俺自身、自らが発したその言葉に驚いていた。
俺は、何を言ってるんだ…?
いや…だが、それもいいかもしれないな。何より、このままこの子をここで放っておくことは俺にはできなかった。
「俺がお前の居場所を作ってやる。元の場所に未練がないなら…俺と来い」
驚きで目を見開いたままのその黒い瞳からは止まったはずの涙がまたボロボロと溢れ出していた。
俺はただジッと返事を待った。
だが、その子に直ぐに頬に添えた俺の手をぎゅっと握りしめてきた。まるで、離さないでと言われているようだった。
…正直、断られると思った。
俺達はまだお互いの名前すら知らない。
それどころがちゃんと顔も合わせていない。
こんな、見知らぬ男の言葉を信じるとは思えなかった。
だが、その小さな手が微かに震えながらも懸命に俺の手を握っている。その事がなんだがとても嬉しかった。
「…いいんだな?」
再度確認すれば言葉はなかったが、その子は俺の顔を見上げてしっかりと頷いた。
その時になって漸く俺は怖がらせないようにと霧で隠していた姿を現した。
「…お、に?」
ポカン…とした顔で呟くその顔があまりにも間抜け面だったもんで思わず笑ってしまった。
「そう。俺はお前たちの言うところの鬼だ」
先程までは怖がらせないようにと思っていたが、今度はあえて怖がらせるように態と獰猛な笑みを浮かべる。
鬼らしく、傲慢に言葉を紡ぐ。
だが内心拒絶されたらとヒヤヒヤしていた。
「俺が恐ろしいか?人間」
すると、その子はありえない事に俺を見て怖がるどころかクスクスと笑いだした。
…は?なんで笑ってやがる。
鬼だぞ、鬼!普通、怖がるとこだろう!…ん?いやいや、この場合怖がられない方がいいのか…?ん?どうなんだ?
最早自分の中では怖がって欲しかったのかどうか分からなくなっていた。
グルグル頭の中でそんなことを考えていた俺は頬に小さな手を添えられるまで、その子に近づかれていることに気づけなかった。思わずビクッと肩が震えた。
その子は俺のそんな様子が可笑しかったのかまたクスクスと笑いだした。すると、笑いながらも確りと俺の瞳を見つめ返してきた。
「恐くないよ」
その言葉があまりにも信じられなかった。
「…俺は鬼だぞ?」
「でも、恐くない」
「なぜ…?」
思わず聞いてしまった。
鬼は…俺は人間は勿論、妖界でも畏怖される存在だった。
なまじ、力が強いため皆、俺を見て怖いと逃げ出す。
なのに…目の前のその子は全く怖がる素振りを見せることなく、それどころが笑っているのだ。
不思議で仕方なかった。それと同時に…嬉しかった。
「貴方が…私にとって優しい人、だからかな。
貴方の手はとても温かくて、なんだか安心するの」
「…そ、うか」
安心…?血に汚れたこの手が、か…?
衝撃的なその発言に、俺はただ呆然と話を聞くことしか出来きなかった。
「それに、鬼って初めて見たけど…その角とても綺麗ね」
「角、?…ククク、お前変わってるな」
すると今度は“鬼”の角を見て綺麗だという。
鬼たらしめるこの角を褒められたことは無かった。
しかも、嘘ではなく本心からそう言っているようでその証拠に、目がキラキラと輝いている
あまりにも可笑しくて、腹を抱えて爆笑した。
こんなに笑ったのは何時ぶりだろう?
「そう、かな?」
「あぁ、すっげぇ変な奴だ!だが面白い」
その子は自分がどうして笑われているのかさっぱり分からないという顔をしていた。その顔を見てふと思い出す。
…あ。そういやまだ名前聞いてねぇわ。
何とか笑いを抑えた俺はその子の名前を聞いた。
しかし、これまた予想外の返事が返ってきた。
「ククっ…お前、名前は?」
「名前…私の、名前はないよ。
だから、貴方の好きなように呼んでいいよ」
名前がない…?そんな筈はないと思ったが本人が好きに呼べと言うのだ。ならばと、俺は頭を悩ませた。
…うーん、黒い目にフワフワの髪。
よく見ると目は少し吊り上がった可愛らしい猫目だった
何となく、さっきも猫のような行動をとっていたし…
「ふむ…じゃあタマ!」
冗談半分でそう言えば、ポカンとした顔していたがやがて苦笑に変わった。
「…うーん、まぁいいや」
そしてそんなことを言う。
思わず聞き返してしまった。
「え、いいのかよ」
「好きに呼べって言ったの私だし、貴方がつけたのでしょう?」
「いや、冗談のつもりで…」
「いいよ、別に。私は今からタマね!」
「…えー」
何故かタマと呼ばれて嬉しそうな顔をしている。
俺だったら絶対に嫌だけどな、そんな猫みたいな名前…
いや、元は俺が言い出したんだけど…どうなんだ、これ?
「貴方の名前は?クロ?」
すると、その子も俺の名前を聞いてきた。
が、やはりタマは嫌だったのだろう。
俺の事を適当な名前で呼び出した。
…いやこれ、絶てぇ怒ってんだろ。
「いや、ちげぇよ!なんだその適当に見た目からつけましたーって名前!お前、ちょっと怒ってんだろ」
「別に?そんなことないよ。じゃあ…角太郎?」
「いや、だからちげぇよ!」
「はぁ…俺は「わかった、角二郎!」ちょっと黙れ」
「…はい」
余りのしつこさにピキっと青筋が浮く感じがした。
漸く黙ったその子を見下ろし俺は名乗りを上げた。
「俺の名前は蘇芳だ、結構有名なんだぜ?凄いだろ」
少し自慢気に語るも反応はとてつもなく薄かった。
「へー」
「わかってないな…」
「うん」
「素直かっ。まぁ、そりゃそうか」
逆に知ってたらこぇわな。うん。
と無理矢理自分を納得させた。
「蘇芳…かっこいい名前だね」
「そうだろう!」
大抵の奴は俺の名前を聞くだけで震え上がるから、褒められるという行為は初めての事で物凄く嬉しく感じた。
「うんっ!じゃあ改めて…私の名前はタマです!
これからよろしくお願いします、蘇芳さん」
そう言って俺に手を差し出してきた。
え…お前結局タマでいいのかよ。
「…いいのか、お前それでいいのか」
「うん!いいよー」
「スゲーな、お前…」
思わず俺は呆れてしまったが、差し出された小さなその手を確りと握り返したのだった。
「はぁ…よろしくな、タマ」
そうして、俺はタマを妖の世界【隠り世】へと連れ去った。
※※※※
その後、直ぐに家に帰り友人であり仕事の相棒…俺の秘書的な事をしてくれている凑にタマを紹介した。
タマは湊に挨拶するとウトウトと船を漕ぎ始めその後、直ぐに眠ってしまった。
タマが眠る傍らで湊に経緯を説明。
暫くして目を覚ましたタマは俺にしがみつき離れない。
その余りにも可愛らしい姿に俺と凑は思わず胸を押さえ蹲ってしまった。
凑は最初タマのことを警戒していたが、直ぐにデレデレと溺愛し始めた。今ではタマに好かれようと必死に餌付けをしている。
今までの凑ならばこんな姿を他人に見せることは無かったし、そもそもこんなにも誰かの世話をやこうと思わなかった事だろう。
タマの可愛さに普段の氷のような表情がすっかり溶けて消えてしまっているくらいだ。
※※
タマはあれからというもの俺の後をちょこちょことついてまわる様になった。まぁ、俺が常に傍に置いておかないと何となく落ち着かないからってのもあるが。
「蘇芳!まって!」
「わ、蘇芳!これ何?」
「わぁ、蘇芳…あの人耳生えてる。狐、さん?可愛い」
「ん?どうしたの、蘇芳?」
くるくると変わる表情がとても可愛らしかった。
段々と成長していくその姿を見ていると、嬉しいと思うと同時にモヤモヤとした気持ちが込み上げる。
抱きつかれるとドキッと胸が高鳴った。
ふとした笑顔につい見入ってしまうことが増えた。
…時たま、その唇に触れたくなった。
「蘇芳…好きよ」
そう言われる度、抱きしめてキスして無茶苦茶にしてしまいたくなった。
だが…その度に俺はタマの保護者だと自分に言い聞かせた
しかし、それももう必要ないようだ。
俺は…タマが好きだ。
あの時から、ずっとずっとタマに惚れていた。
やっと気持ちを認められた。伝えることが出来た。
お前はあの時居場所がないと泣いたが、俺はお前の居場所をちゃんと作れていただろうか?
何となく不安になって、タマにそう聞けばただ嬉しそうに笑うだけだった。だが俺にはそれだけで十分だった。
タマ…これからもずっと俺の傍にいてくれ。
俺にとっての居場所は、お前なんだ。
タマ、好きだ。
…愛してる。
その日、結局タマは布団から出ることは出来なかった。
“タマ”という名前は割としっかり考えた結果出てきた名前でした笑
結局、蘇芳にネーミングセンスはないらしいです