episode8
「魔物こわい!」
目が覚める。孤児院のベッドの上だ。
森に入ってちょっと歩いたらいきなり溶かされた。
ああもう全部セイラが悪い。
枕を床に叩きつけて、ついでに踏み潰した。
私が貴族の血を引いていれば、魔物だって倒せるのに。
なんの属性魔法でも構わない。
光の属性魔法なら、まさにヒロインになる私に相応しい。
闇の属性魔法の、ダークな感じもすごく素敵だと思う。
火の属性魔法は、燃やし尽くすの浪漫がある。
水の属性魔法とかも、美しいイメージがあって好きだ。
風の属性魔法もだって、かまいたち的なのに憧れる。
土の属性魔法でも、土砂災害を考えたら多分強い。
なのに、私は魔法が使えない。
私に貴族の血が流れてないから魔力がない。
私のこの身体が平民だから。
私はセイラと違ってなにひとつ魔法が使えない。
貴族でもない私がどう魔物を支配するのだ。
無理すぎる。
もうやだ。
私がヒロインになれない。
ぜんぶセイラが悪い。
「うー…むっかつくー…」
ベッドでゴロゴロしながら枕をたたく。
前回の死に方はほんとうにびっくりした。
だっていきなり後ろから酸攻撃とか、こわい。
私は前世でもただの可愛いすぎる美少女だったし、この世界に転生してもただの可愛いすぎる美少女でしかない。
あんなの、それこそ物語に出てくるような百戦錬磨の勇者じゃなきゃ避けれるはずがない。
百戦錬磨の勇者なら、なんかこう直感とかでサッと魔物の攻撃が読めてサッと避けれるんだ。
私は戦いなんて前世でも今世でもした事ないし、どこに攻撃なんて分かるはずが…
「…???私、分かるわよね?」
魔物に対しての怖さが急にさめる。
魔物の酸は、私が森に入ってから数歩歩いたときに、右からいきなりバッシャとかけられた。
魔物の姿を見るほどの余裕はなかったけど、あの時、もし私がサッと前に踏み出てれば、避けれたはずだ。
「よしっ!」
私は魔物の森へ向かった。
念のため、歩数を数える。
景色を注意深く観察する。
1歩、2歩、3歩…
15歩歩いたときに、ここだ、と理解する。
ええっと、このあたりで、前にジャンプ!!!
「はぁっ!」
後ろにブシャッと、何かが撒き散らされた音がする。
私は振り返った。
酸だ。
「キュルルルルルルル!!!!!」
ネバネバした青紫の粘膜物体の魔物が居た。
サイズは私よりも少し大きいくらい。
いわゆるスライムだろう。
ゲームではもっと可愛かったんだけど。
スライムの吐いた酸が、さっき私が居た場所にかかってる。
どろり、と地面が溶けている。
やった!
私は避けれた!
さすが私!
可愛くて天才で美少女なだけじゃなく魔物の酸も避けれる!
「やーい!ばぁーか!!!!可愛い私によくも…れ?」
首がぽとり、と落ちる。
背後に巨大なカマキリのような魔物が居た。