episode6
布団の中で一晩中泣いたら、いつのまにか朝だった。
『セイラが貴族になる』という一番重要な前提を壊せなかった。
セイラは15歳の誕生日だった昨日、原作通りに男爵の父親に引き取られた。今は1月だが、4月になったら貴族学院に通い出してしまう。そして魔力適性診断で光の属性魔法の使い手として、一目おかれたり、5人の攻略対象者たちとの恋を育んだりするのだ。
そんなのいや。
私がもたもたしてる間にも、きっと乙女ゲームは始まってしまう。可愛い私が孤児院で雑用してるのに、セイラが貴族のお嬢様として貴族学院で素敵な恋をするなんて、絶対に絶対におかしい。
なんとかしなきゃ。
ヒロインにふさわしいのは私なんだから。
とにかく、私は貴族学院に通わなくてはいけない。
貴族学院とは、貴族が魔法を勉強するために通う学校のことだ。
そう。私が魔法を使いこなして、貴族だと言い張ればいい。
それから。
私は、毎日14時間、孤児院内で魔法書の勉強を始めた。
4月になったらセイラが貴族学院に入学してしまう。
時間は3ヶ月しかない。
孤児院の仕事を手当たり次第に「私やりたくないもん!」と周りの孤児たちに押しつけ、神父様に駄々をこね、ひたすら勉強に時間を割いた。
「ファイア!」
私が魔法書を片手に唱える。
何も、全く、1ミリたりとも、魔法が顕現しない。
当然だ。
3ヶ月して、私は偉大な真実に気がついた。
平民は魔法が使えない。
貴族の血を引くもののみが使える。
だからこそ、平民と貴族は違うのだ。
「ああもうー!!!!!」
いくら勉強しても無駄じゃないか、こんなの。
セイラはずるい。
貴族の血を引いてるってだけでヒロインだ。
私は正真正銘、平民の血筋らしい。
どうしよう。
私は考えが思いつかないままに、貴族学院へと足を運んでいた。
貴族学院は、立派な門番がいるから、中に私は入れない。立派な馬車から降りた貴族が、次々と中に入っていく。
「がんばらなくちゃ…!」
私が座り込んでいると、向こうからセイラの声がした。
セイラだ。
制服に身を包んだ姿は「ヒロイン」そのままだ。
「なによ、ばか」
思わずぽつりと言葉が漏れる。
ああ、むかつく。
私が孤児院のボロ切れを身に纏ってるのに、セイラは綺麗な制服を着ている事も。
私が貴族学院に近付けずに地面に座っているのに、セイラは立派な馬車からやってきた事も。
私がヒロインじゃないのに、セイラはヒロインな事も。
全部全部むかつく。
セイラは行ってしまった。
私では通れない貴族学院の門をくぐって。
私はこれからどうしよう。
孤児院へ帰ろうと歩くと、背中に痛みが走った。
何かが自分から出て行く感触。
ああ、刺されたのだ。
セイラの護衛兵士に。
「孤児がいつまでもセイラお嬢様に付き纏うな」
一気に、血が抜ける。
倒れる私の周りに血が広がる。
私は死に身を委ねた。