episode5
名案だと思った井戸に突き落として殺そう作戦は失敗だった。
なんか少しデジャビュを感じる。
8歳の時、13歳のセイラを崖から突き落とそうとした時もこんなだった。10歳になったからあの頃よりは力が増えたと思うけど、まだまだだったらしい。私はただのいきなり抱きついた子供になってしまった。悔しい。屈辱だわ。
むかついたから帰り道はずっとセイラを無視したのに、セイラは気にせず私に話していた。
孤児院の自室に戻る。
セイラは汲んだ水を台所へと運びに行った。
私はベッドに横になり、ふと窓を見て気がついた。
「ああもう!夕方じゃない!」
急いで起き上がる。
はやくセイラを殺さなきゃ。
男爵が来てしまう。
部屋を荒らして、武器になりそうなものを探す。
ほうきとちりとりが目に止まった。
ほうきの持ち手をギュッと握って、思い切り窓を叩いた。
ガンッ、と音はなるが窓には傷がつかなかった。
思ったより硬い。
仕方ないから右手にほうきを、左手にちりとりをもって部屋を飛び出す。ちりとりはけっこう硬いしちりとりで頭をぶっ叩けばセイラも死ぬかもしれない。
「セイラー!どこー?」
私が声を出してきょろきょろ孤児院内を歩いてると、正面玄関が開いて、品のいい上質な服をきた男性が入ってきた。
男爵だ。後ろに4人の私兵を護衛で連れてる。
男爵は私に向かって話しかけた。
「お嬢さん。セイラ、という少女を知っているかな?よければ連れてきて欲しいんだ」
セイラと同じで人の良さそうな笑顔を向けてくる。
苦手だ。
私が仮に15歳だったなら、セイラだと言い張って騙せる可能性もあったけど10歳の身体では15歳を騙れない。
セイラをとにかく貴族社会に入れない流れにしなくては。
貴族学院に入学したセイラは、ヒロインになってしまう。
私がヒロインになれない!
「知らないわ」
しらを切る作戦で行こう。
「そうかい。ごめんよ、答えてくれてありがとう。神父殿と話がしたいから中に失礼するよ」
「ちょっと!私、セイラはいないって言ったじゃない!!なんで入るのよ!ばかぁ!」
思わず手を広げて進行妨害をしてしまう。
兵士達が「無礼者!」と剣を抜こうとするのを男爵が手で制す。
私が「やめてよ!でてってよ!」といくら言っても、どうにもならない。男爵は神父様と話を済ませ、セイラを貴族の娘として引き取る手続きがされてしまった。男爵は馬車でセイラを待っている。セイラは驚きつつも慌しく荷造りを済ませて、玄関に降りてきた。
私はほうきとちりとりを持ったままセイラに近づいた。
兵士達が「お嬢様になれなれしく近づくな!」と言っている。
「セイラ!行かないで!行かないでよ!だいっきらい!」
自分だけ貴族になるなんて。
自分だけヒロインになるなんて。
自分だけ幸せになるなんて。
「ねえセイラ!」
私は孤児のままなのに。
セイラは泣きながら私を抱きしめた。
私はセイラに抱きしめられたいんじゃない。
私はただヒロインになりたかった。
せっかく乙女ゲームの世界にこれたのに。
なんでセイラばっかり。
私は子供のように泣きじゃくった。
セイラも泣いていた。
セイラに私がなんで泣いてるかなんて絶対にわからない。
私はセイラが居なくなった孤児院で一晩中泣き続けた。