episode1
乙女ゲームの世界に転生したのに、ヒロインは私じゃなかった。
私の名前はエウ。孤児院で暮らす10歳の美少女。
顔が可愛いのが取り柄だ。
前世の私にも引けを取らない。
孤児院は2人部屋。
私の同室は今日で15歳の誕生日を迎えるセイラ。
ゆるやかにウェーブがかった銀色の髪に青い瞳に、屈託のない無邪気な笑顔が印象的なセイラは、この乙女ゲームのヒロインだ。
セイラは、実は男爵家の血を引いていて、15歳の誕生日に父親が迎えに来る。そして、男爵令嬢として貴族学院に入学して、攻略対象たちとの素敵な恋物語が始まる。ヒロインらしく、貴重な光の属性魔法の使い手でもある。
私は、物心がついて、ここが乙女ゲームの世界だと理解してから、ずっとずっとセイラが嫌いでたまらなかった。
だってセイラはヒロインなのだ。
セイラが存在するから、私はヒロインになれない。
邪魔なセイラをどうにかしたかった。
なのに。
セイラは、5歳年下で同室の私をまるで妹のように扱う。
私の嫌がらせが全くきかないのだ。
私が掃除を押し付けても、水汲みをさぼっても、セイラは「バケツ重たいよね、私がやってあげるね」とニコニコしている。
神父様からの施しの貴重なクッキーだって、私が全部食べてもセイラは「美味しかった?エウが幸せならよかった」とニコニコしている。
床拭きしているセイラに向かってバケツを蹴り上げて汚水でスカートを汚した時でさえも「あ、ごめんね…寂しかったの?終わったら遊んであげるから、待っててね」と抱き抱えられて部屋に戻された。
いっそセイラを殺してしまおうと、崖から突き落とすため体当たりした時も、5歳歳下の私の体当たりが全然効かないせいで抱きついたみたいな形になり、セイラに「ええと、甘えたかったのかな」と頬を染めながらすごく嬉しそうに言われた。
私の方が可愛くてヒロインにふさわしいとわからせるため、毎日のように「私の方がセイラよりもかわいいわよね?」と聞いてるのに「うん!エウがいちばんだれよりもかわいいよ!昨日も可愛かったけど、今日は更に可愛い!毎日どんどん可愛くなってる!」とキラキラした眼差しで言ってくる。
まあ可愛いと言われるのは好きだけど…。
ほんとに、セイラをヒロインから蹴落とすため私はずっとずっと頑張ってきた。
でも、セイラを刺し殺そうと台所から包丁を持ち出してもセイラに「危ないよ」と取り上げられるし、セイラを焼き殺そうとマッチに火をつけても「火はまだだめ」とセイラに消されるし、結局、セイラに迎えがくる今日まで何も間に合わなかった。