6話 湯飲みを手のひらに
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俺の右手が見えてる。
床がだんだん近くなる。
眼球を右に動かす。
モヨコがいる。
目が合う。
左手が急に出てくる。
モヨコのおっぱいをさわろうとする。
俺の左手だ。
勝手に動く。
魔法みたいだ。
モヨコが左手で捌く。
『トン』
おっぱいがまた遠くなる。
「俺は」
床が近くなる。
「俺は」
床に倒れる。
俺は呆然となった。
イエスジェントル、ノーギルティ。
思考に一筋の光。
俺は状況を把握した。
合意形成が、未完成だっだ。
初対面だ。
初対面で、まず生おっぱいを触るのはおかしい。
我を忘れていた。
情けない。
こんなのは紳士じゃない。
立ちあがり、振りかえり、モヨコを見た。
モヨコが遠い。
モヨコが綺麗に左手をすうっと俺に向けて伸ばした。
手のひらが上に向いていた。
何かを手のひらに置く?
何を?
お茶?
湯飲みを手のひらに置く?
こぼれるぞ。
おかしいな。
お茶じゃない?
お金?
それなら理解できる。
恐怖がやわらぐ。
いくらだ。
だす。
だせるまでだす。
モヨコが左手の揃えた指先をくいっくいっと上に2回あげた。
お茶くれ?
違う。
お金くれ?
違う。
金額が提示されてない。
おかしいぞ。
モヨコが笑う。
挑発的な笑顔だ。
何を挑発する?
俺か?
何に挑発する?
おっぱいバトルにか。
モヨコが言った。
「遠い」
「遠い」
「ドーテーですわね。お兄さま」
天井が急に近い。
身体が跳ねた。
俺は飛び上がったのだ。
「俺は」
両手を腰に構えた。
「お兄さまだぞ。モヨコ」
俺は我を忘れた。