2話 犯罪をする価値
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全裸の女は言った。
「私はドグラマグラモヨコです。お兄さま」
白い肌で言った。
「私はドグラマグラモヨコです。お兄さま」
長い黒髪の隙間から言った。
「私はドグラマグラモヨコです。お兄さま」
俺は、トイレの方を見た。
部屋をもう一度見た。
全裸の女がいた。
俺は、とりあえずトイレに戻るかどうか考えた。
全裸の女がいる部屋からトイレに戻るのは嫌だな。
パタン。
いつもの音。
トイレのドアが閉まった。
無意識に閉めたようだ。
いつもと同じ音。
いつもと違う部屋。
これは夢か。
全裸の女は誰だ。
変質者か。
ぶわっと変な汗が出てきた。
こわい。
心臓がバクバクしてる。
こわい。
すげーこわい。
冷静にならなきゃ。
素数。
素数って何だ。
素数ムリ。
息が荒くなる。
気が動転してる。
俺はとりあえず携帯がどこか考えた。
鞄の中。
あいつの後ろ。
どうする。
思考がまとまらない。
シンプルに考えろ。
闘争か逃走か。
逃走一択だ。
まず、あの全裸の女が不審者かどうか。
不審者ってなんだ。
不審な人だよな。
不審て何か知らないけど、俺を不安になった。
だから多分全裸の女は不審者でいいと思う。
どこから入ったか。
俺の部屋は窓から入ってこれる高さじゃない。
ドアにはいつもチェーンを掛けてる。
最初トイレにいた時に金属音は無かった。
窓が割れた音も無かった。
最初から忍び込んでいたのか。
何で。
俺は金持ちじゃない。
どちらかと言えば多分貧乏だ。
犯罪をする価値の無い部屋だ。
じゃあ何で。
何で全裸。
俺の部屋はバストイレ一体型。
物置には物が詰まっている。
全裸の女の入る隙間がない。
開けると物がなだれ落ちてくる。
物置の扉は結構がたついてる。
開けたら音がする。
物置は、無い。
俺の部屋は狭い。
一人でも狭い。
全裸の女が隠れられる訳がない。
全裸の女は、人じゃない?