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〜 禁術書(ちから)を欲する者たち 〜 特別編 第01話

本編、〜 グランソルシエールの禁術書 〜 では語られなかった第零話に纏わるエピソード 全三話


鉄の鳥籠 〜 禁術書(ちから)を欲する者たち 〜


お楽しみ下さい。<(_ _)>

 ◆鉄の鳥籠 〜 禁術書(ちから)を欲する者たち 〜 


「もう! ばかぁ――! 覗き魔!」

 長閑な草原が広がる街道上。

 一陣の風が柔らかい一枚の布を豪快に持ち上げた。

 不意に吹いた突風に成す術なく棒立ちになるアウラ。

 慌てて抑えたのはスカートの裾ではなく、細くしなやかな桃色の髪だった。

「これは事故だ! 神風だぞ? 桃色パンツだったぞ」

「プッ、プラムぅぅぅ」

「ウォン」

 少年の尻を目掛け、プラムが鋭い犬歯を剥き出しにして突進してくる。

 何時も放牧にでる際は、踝まである厚い生地の長いスカートが殆どだ。

 それに埃除けの茶色のローブに身を包んでいるのだが、今回は違った。

 北の神殿に向かう前に雨をやり過ごした街で、今回の礼だと言ってランディーから渡させた金貨で買い物をしたアウラは、ちょっと気になる少年を意識して、シュベルクの街など大きな街で流行っている薄手の色合い鮮やかで華やかなワンピースなど身に着ける物を中心に買い物をした。

「おまっ! 来るな、お前が来ると俺の尻に尻尾が生え――!」

「ウォン!」

 少年は喰らい付かれまいと、必死に逃げている。

 アウラの小ぶりで桃色の唇には、同じ桃色のルージュが薄ら引かれ何時もより艶やかにしっとり湿り気を帯びていた。


 少女と少年が、北の方面から南西に位置する街シュベルクを目指している。

 アウラと少年は、ランディー率いる名も無き赤の騎士団と行動を別にしての帰郷の旅となった。

 ランディーたちは、増援を待って北の神殿と謎の騎士団追跡任務に分かれ行動を別にせざるを得ない事の運びとなり、グランソルシエールの禁術書を預かったアウラの護衛には、彼女にとっては因縁深きドラゴンを体内に宿す少年との二人旅。

 と言っても少年には戦闘術を学んだ経験がない。

 しかし、旅慣れたこの少年は頼りになる事この上ない。

 二人が山岳部の小高い谷間に差し掛かる。

 少年と言えば相変わらず、プラムに追われ逃げ惑う姿がアウラの遥か前方に小さく見えている。

 少年にとっては、必死にプラムの牙から逃れようと逃げ回っているのだが、アウラから見れば何処か微笑ましく見えた。

 羊飼いにとって最大のパートナーであり、最大の友でもある愛犬が、恋心かも知れない感情を抱く少年と戯れているように見えアウラは、くすくすと声を抑えて微笑んだ。


 アウラの姿は遥か後方に見える。

 少年は仮にもアウラの護衛だ。

 その実、グランソルシエール(偉大なる魔女)の禁術書の護衛と言う方が正しいのかも知れない。

「……」

「クゥゥン?」

 少年とプラムが辺りの異変に気づく。

 アウラの姿を確認した直後、少年の油断を衝いて何時もなら尻にがっちりと食い込むはずのプラムの牙は遠くを睨み獣の唸りを上げ出し牙も剥き出しになっている。

 頬の無い唇を吊り上げ、涎を垂らし露わになった鋭い牙を剥き出し普段、先ぽでへこたれている耳を三角にいきり立たせ、周囲の様子を探っている様子だ。

 少年もプラムとほぼ同時に良く効く鼻と耳で周囲の異変を捉えていた。

 相手も百戦錬磨の(つわもの)集団と思われた。

 そう簡単に気配を掴ませない。

「アウラ――! 早くこっちに来いよぉ――、ヨシヨシしてやるから――」

 遠くからの少年の声が微かにアウラに届く。

 少年との距離は、大よそ千フィール(約三百メール)。

 アウラは、突然の言葉に顔を赤らめた。


 ――熟れた桃のように。


 突然、理由もなく発せられた少年の言葉に疑問を抱きながらも何故か嬉しい。

 周りの異変に気付かないアウラは、赤らめた頬でもじもじその場を動かない。

 恥ずかしさと赤く染まった頬を少年に見られたくない。

 ましてや『ヨシヨシしてやるから』などと言われて、ほいほい近寄って行けば、憎しみを超えつつある淡い恋心に気付かれてしまうではないか、とアウラの心が素直に駆け寄る事を許さない。


「プラム、ゴォ!」

 少年がプラムに声を掛けた。

 プラムも少年の意を酌んだのか、主人の下に駆け出した。

「来るかなぁ?」

 少年もアウラの下へ逸る気持ちを抑え平常を装い歩き出す。


 少年が近づく姿を俯いて、もじもじしていたアウラの視界が感知する。

 アウラもゆっくりと少年の方へと歩き出した。

「動いた! プラム!」

 アウラのすぐ近くまで戻っていたプラムが、小高い谷間の方に向い方向を急激に変え牙を剥き出し唸り声を発しながら、斜面を駆け上り「ウォン」と一鳴きすると、低い唸り声を上げ威嚇する。

 アウラもプラムの様子に気付き、危険が迫っている事に気付いた。

 少年は、懸命にアウラとの距離を詰めようと走り出す。


 ――乾いた炸裂音が谷間に木霊した。


 その直後、プラムにけし掛られた軽装の防具を身に纏った兵士が崖を転がり落ちてくる。

 その後を追ってプラムが矢のように地面に転がった兵士目掛け追撃する。

 兵士の喉元に、プラムの鋭い牙を宛がわれ抵抗を止めた。

「プラム! 覗き魔さん!」

「アウラ動くな! プラムもなぁ」

 少年がアウラとの距離を更に詰めようとするが、小高い崖の上には三十を超える人影が見下ろしていた。

「失敗したかなぁ……俺たちがアウラに近づけば、慌てて行動を起こすと思ったんだけど……予想より人数が多いなぁ」

 乾いた炸裂音とほぼ同時に少年のこめかみに下がった白銀にブルーマールの映える髪が,、ぱらりと宙を舞う。

「覗き魔さん!」

「大丈夫。この距離なら簡単には当たらない。あいつらの使っている火打ち式銃は、量産品だから同じ銃でも微妙に全ての銃が違ってる。射程距離も良くて百六十フィール(約五十メール)だ」

「でも、血が」

 少年のこめかみに滲む血が白銀の髪を僅かに赤に染めている。

「掠っただけだ。心配ない」

「でも――!」

 アウラは、少年との距離百六十フィール。約六十から八十歩ほどの距離を詰めようとした。

「動くな! アウラ、そこにいろ」

 プラムは、少年から十歩程の距離で何者か分からない賊の喉元に牙の刃をあてがい、低い唸り声を上げて地面に伏している。

 少年の怒鳴る言葉にアウラは、びくりとして一瞬、身体を止めたその直後、複数の炸裂音と共に(やじり)が放たれた風切り音が無数に絶え間なく続いた。

 その矢が向けられた先は、少年とプラム。

 邪魔者とアウラを近づかせまいと二人の間に降り注いだ。

 状況から賊の狙いは、アウラと彼女の持つグランソルシエールの禁術書と容易に推測出来る。

 少年は、その事からアウラに危害を加えられる事はないと判断した。

「ちっ!」

 少年は、軽く舌打ちをして前方に伏しているプラムに駆け寄った。

「この馬鹿犬! 早く逃げろよなぁ」

 しかし、時既に遅し。

 無数の矢が地面へと落ち始め、放たれた銃弾が地面を耕している。

 少年は、プラムに組付くように地面を転がった。

 少年のまだ、成長中のそれ程大きくない身体でプラムを抱き抱え、亀のように身を固めた。


 鉄の礫と鏃の雨中に晒される、プラムを抱き抱えた少年の姿をアウラの紫の瞳に映し出された。

「覗き魔さん! プラムぅ」

 震える唇が涙交じりの声を発する。

 アウラは、歯噛みした。

 自分がもっと上手く魔術を扱えれば……。


 ――悔しい。


 しかし、それは同時に恋心を抱いているかも知れない、少年を討つ術を手に入れると言う事でもあった。

「に、逃げろ……アウラ!」

「今直ぐ魔術で助けます」

 アウラは、グランソルシエールの禁術書を腰に下げた肩掛け鞄から取り出した。

「いいから、逃げ……」

 少年の身体に数本の矢が立つ。

 それとは別に血飛沫を上げて少年の身体を穿つ銃弾。

「きゃぁ――」

 アウラの悲鳴が山間の野に木霊した。

「お嬢さん。我らと共に来ていただこうか」

 何時の間にかアウラの背後に立つ金色の鎧を身に纏う屈強な騎士が声を掛けた。

「あなたたち、何者!? 覗き魔さん、プラムぅ」

楽園(エア・へヴン)の使者とでも答えておこうか。お嬢さん」

 金色の男はアウラを拘束しアウラを肩に担ぐと、そのまま少年たちに背を向けた。

「覗き魔さん! プラムぅ!」

「ア、ウラ……」

 影のように金色の男に付き従っていた数人の男が訪ねた。

「この少年どう致しましょうか?」

 「いやぁ! やめて! これ以上二人を傷つけないでぇ!」

「なら、お前が助けるんだな。禁術書の魔術で」

 アウラは、悔しさの余り強く唇を噛んだ。

 今の自分にはそれだけの力がない。

「どうした? 見捨てるのか?」

 金色の男が唇を歪に釣り上げ薄い笑みを浮かべ失笑を漏らした。

()れ」

「御意」

 付き従っていた男が文字の書かれた数枚のカードを手品師のように口から取り出し魔術の言霊を詠唱し始める。

 魔術の完成と共にカードを少年に投げばら撒いた。

 ひらりと空気の抵抗を受け不規則に舞い落ちるカードが、その枚数分の短剣に様を変え、少年の身体に向かい方向を変え襲い掛かる。

 少年の身体の周りには、流れ落ちる赤い液体が地面の色に溶け込み赤茶色の血溜りを作っていた。

「いやぁ――! 覗き魔さん、プラムぅ――、……ごめんね、ごめんね。私に力が無いばかりに……あなたたちを守れなかった……」

 アウラの何度も何度も謝り続ける悲鳴じみた悲痛な叫び声が響き渡った。


 二体の物言わぬ人が地面に伏している。

 一体は、プラムに崖から追い落とされ銃弾と矢を浴びた兵士の屍。

 もう一体は、十代半ば程の白銀の髪にブルーマールが映える少年の身体が血溜りの中に伏している。

 その懐に長めの毛並みが見事な牧羊犬を宝物のように抱えたままその身を庇うように……。


 To Be Continued


最後までお読み下さいり誠にありがとうございました。<(_ _)>


次回をお楽しみに!

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