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〜 グランソルシエールの禁術書 〜 第二十話(最終話)

 ◆魔術師の鐘 


 ふかふかの白い感触が少年の身体をやさしく包んでいた。

「おっ、おっぱい、いっぱい……あれ?」

 少年が上等の綿が詰められたベッドと羊の毛を繕った上等の掛布の中で目覚めた。

「……よかった」

 ベッドの脇に置かれた椅子に腰を掛け、細い桃色髪に紫水晶の瞳を潤ませたている少女の口から安堵の言葉が零れた。

 アウラは、少年に飛び付き抱き着いた紫水晶の瞳から熱い液体を溢れ出させた。

「ばかぁ――! 本当に心配したんだからぁ――」

「アウラ、痛い」

 アウラの桃色のやわらかい髪が少年の頬を撫でた。

「……ここは?」

「北の神殿に向かう前に雨をやり過ごした街の宿です……も、もも」

「桃?」

「も、もう目覚めないのかと思ったんですよ。ばかぁ」

 アウラは、少年にしなだれ掛かり嗚咽を漏らして泣いた。

 涙は少年が目覚めるまで、何度も泣いた涙の痕を辿って零れ落ち着衣を濡らす。

 少年がしなだれ掛かるアウラを押し戻して言葉を紡いだ。

「さぁ、始めようか。アウラ」

「……そ、そんな事急に言われても……わ、私、まだ心の準備が……それに……お、おふ――」

「外に出よう」

「覗き魔さん? まだ無理しちゃ駄目です。丸三日も眠りっぱなしだったんですから。私は何処にも行かないから……ね?」

 アウラは俯き、もじもじと恥じらいながらかわいらしい声で少年を諭した。

 何時もの少年のやさしい微笑みが返ってくる……と思っていた。

「外に出て始めようと言っている」

 少年の強張った声がアウラの鼓膜を揺すった。

「わ、分かりました……の、覗き魔さんが、そ、そこまで……そ、外で始めたいと言うのでしたら……わ、わわ私……やっぱり、外でだなんて……やだぁ――! 初めてなのに、外でなんて……でも、そ、外もいいかも知れませんね……あはぁ」

 アウラの胸の内に嫌な予感が広がっていく、それを振り払うように複雑な気持ちと葛藤を抑え込み、精一杯おどけてみせた。

「言ったはずだ。俺は街を襲い母さんを死に追いやった魔物を創り出した魔術師を討つと、アウラは言ったはずだ故郷を焼き、家族を奪ったグリンベルの悪魔を討ちたいと」

「それは……今でもそうですが……覗き魔さんのお母様がまだ、はっきり仇と分かった訳じゃないですし……私には魔物を創り出したなんて記憶はないし、私が扱える魔術にそんな力はありませんから……何かの間違いじゃ……」

「確かに俺も肝心な所の記憶は無い。でも七年前の冬、グリンベルにいたのは俺自身だ」

「……そんな……うそ……ですよね? 私、納得できません。言っている意味が解らない。訳が分からないのに討ち合う事なんてやっぱり私できない」

 アウラは、混乱し紫水晶の瞳を彷徨わせた。


 街の外、小高い丘に風車小屋が見える道を少年が人気のない場所へと気配を探りながら進んで行く。

 アウラは、少年の背中を追うように歩いた。

「ソルシエールに聞いた本当の事だ。母さんに連れられ北の神殿に行ったのは、循鱗の力が暴走し始めたからだそうだ。風狼が言っていたろ? 封印が何の為の戒めかって」

「暴走……?」

「例え、循鱗のほんの小さな欠片であっても人間の身体と生命力には余るドラゴンの力は、物心が付き始めた俺の精神を侵食し俺と混同した循鱗は別の自立した精神を持ち始め、俺の意識の外で動き出すようになった」


 ――碧眼の眼光が見詰めてる、右眼を閉じたまま。


「母さんは循鱗の力を封じる為に、かつて新たな魔術の開発に力を貸し凶悪な魔物たちを極北の大地に閉じ込める程の魔術を持ったソルシエールの下に赴き、魔術で循鱗の力を封じるようにと頼んだんだ。母さんは、自身の循鱗全てを魔術に使うの触媒とし差し出したそうだ」

「あの時、私がソルシエールさんの魔法陣を解析していた時、思い出したって言ってたのは……その事だったんですね」

「その時は半信半疑だったが、循鱗の封印を解いた時、焼ける街を見ていた記憶がぼんやり浮かんだ」

 風車小屋の脇を通ると大きな羽根が風を切り、ぐわんぐわん音を立て回っている。

「……グリンベルを襲った時の記憶?」

「そうだ。封印の準備に取り掛かっていたソルシエールと風狼、そして母さんたちが一時、俺から眼を放した隙を見て自己の意思を持った循鱗は逃げ出した。その行き着いた先がグリンベルの街だ。たぶん」

「……」


 ――討ちたくない、討ちたくて止まなかったドラゴンを今は討ちたくない……だって私……この少年に惹かれてる。


「俺がグリンベルに着いた時、循鱗が身体の中で疼いた魔物を見てな、その事までは思い出したが、その後の記憶は全くない次に気が付いた時、良く利く鼻で俺の後を追ってきた風狼の口に首根っこを(くわ)えられていた。俺の眼には炎に包まれた街が映っていたんだ」

「……そんなの……うそ」


 ――討ちたい家族と街の仇を討ちたい。でも……。


 風車小屋の羽根の音が遠ざかる。

「それにグリンベルとハングラードを襲ったのは、たぶんアウラが創り出した魔物たちだ。今もアウラが描いた魔法陣から新たな魔物が生まれて来ているとランディーが言っていた」

「ランディー様が……」

「ソルシエールは、かつて生命を宿した魔物を創り出す魔術を完成させる事が出来なかった」

「それを私が……ソルシエールさんに出来なかった事を私に出来るなずが――!? ……」


 ――そう言えば……覚えがある殴り書きの残された古語で書かれた羊皮紙が所々に挟み込まれていた魔術書。


「この魔術書はランディーが持っていたものだ。アウラが街に戻った時、脇に抱えていたものらしい。黙って借りてきた」

「その魔術書は……グリンベルの家の納屋で見付けたもの……」

「思い出したか? アウラ」


 ――少年から手渡された魔術書。


「お、覚えて……る」

「思い出せ、その魔術書の中身を」

「思い出せ……ません」


 ――思い出したくない。


「アウラは、偽りの真実より本当の真実の方がいいと言った。だから俺は話している」

「わ、私は……この魔術書の魔法陣を……街中や外に落書きしてよく遊んでいました……もしかして……」


 ――身体が……唇が震えてる。


 少年が森の中に広がっている小さな草原で立ち止まった。

 アウラも少年に合わせ立ち止まった際、何時も持っている節くれた杖に括りつけた鐘が小気味良く響いた。

「仇を討つと言ったろ? アウラも俺も約束を果たそう。今ここで」

 少年が閉じたままの右眼を開いた。

 開かれている左眼の碧眼と今、開かれた右眼は焔のように赤く縦長の黒と金色の瞳が鋭い視線を向けている。

「俺が魔物共々、焼いたグリンベルを思い出せ。アウラ! 俺は覚えてる街を襲い焼いた魔物の軍勢の姿を――、命を賭けて街を守ろうとした母さんが最後に作った最高の笑顔を俺は覚えてる。俺は、その笑顔に誓った思いを果たさなければならない。母さんの笑顔に誓った思いを果たさなければならない」


 ――そこまで私を討ちたいの? ……お母様の仇だもんね?


「でも! 私が創り出したかも知れない魔物が覗き魔さんの街を襲ったとは限らないんじゃ……野には野生の魔物や北の氷土に閉じ込められる難から逃れた魔物もいますし、北の神殿で私たちを襲ったゴーレムを創り出した組織の魔術師が創り出した魔物かも知れないじゃないですか!」


 ――討ちたいのは仇、グリンベルの悪魔。この少年の中に宿る循鱗……でも私は、この少年を討ちたくない……だって恋してる。


「野生の魔物は数少ない。大方の魔物は極北の氷土に閉じ込められているはずだから、大地を覆う程群れたりはしない。何よりその魔物の姿は異形そのものだった。その魔術を完成させたのは、お前だ! アウラ!」

「……でも、禁術書に眼を通すまで私は魔除けの小さな火を生み出す程度しか魔術使えなかったのですよ?」


  ――この少年がグリンベルの悪魔? 家族と街のみんなに討つと心に誓った仇。私は本当にこの少年の仇? なの……切ない。

 心が……痛い。


「それを今から試すんだ。魔物を創り出せアウラ、お前の全てを奪った俺を……グリンベルの悪魔を討つんだろ? 俺は、街と母さんを殺した魔物を創り出したお前を討つ。アウラぁぁぁ!」


――討ちたいよね? 私もそうだったのだから……。いや違う今も討ちたい気持ちに変わりはない。


「そこまで言うなら……分かりました。討ちます。……あなたを」

 穏やかに吹いていた風が一瞬、強く流れた。

「始めようか魔術師。さぁ、戦いの鐘を鳴らせ」

 強く流れた風が、からん♪ と響いた鐘の音色を連れ去っていった。


 地面は所々消し飛び、半円の穴が空いている、木々が焼け薙ぎ倒された森が痛々しい。

 明るくなった森の中にできた荒れ果てた地面に、少年が仰向けに倒れていた。

 静かにそして……穏やかに……まるで眠るように……。




 ★からんちゅ♪魔術師の鐘★ 〜グランソルシエールの禁術書 〜




 出演

 山羊飼いの少年(グリンベルの悪魔(ドラゴン)・名前は内緒)

 羊飼いの少女アウラ・ヴァージニティ(羊飼いの少女・魔術師の末裔)

 魔術師ソルシエール・エクル(偉大な魔女(グランソルシエール)

 騎士ランディー・ハーニング(ブラッディーレッド(名も無き赤の騎士団))

 騎士アサー・コークス 兄(名も無き赤の騎士団)

 騎士マイル・コークス 弟(名も無き赤の騎士団)

 騎士カックス・ローエン(名も無き赤の騎士団:副官)

 エント・ヴァージニティ(アウラの祖父)

 オリエ・ヴァージニティ(アウラの祖母)

 ラガッシュ・ヴァージニティ(アウラの父)

 アニア・ヴァージニティ(アウラの母)

 アウル・ヴァージニティ(アウラの弟)

 プラム(アウラの牧羊犬)

 究極のドラゴン(オプティマール・ドラゴン)(山羊飼いの母。北の風狼の盟友)

 北の風狼(ウォルプス)(ソルシエールの旦那。ドラゴンの盟友)

 ジーエン・サルエル(グリンベルの老神父)

 バルバロ・フォーカス(謎の騎士団:指揮官)

 ターデン・ギミック(謎の騎士団:副官)

 騎士A(謎の騎士団)

 騎士B(謎の騎士団)

 騎士C(謎の騎士団)

 旅商人A

 旅人A



 


 著者:PN雛仲 まひる (HNヴぃヴぁ)

                       

 Special Thanks

 作画提供:RION様 (HP:KOTONOHA)

 イラスト:月森うさこ様(YAHOOブログ:月でお散歩。)

 *HPに置かせて頂いてます。



 監督:俺

                                      



 監修:僕                           

                                     



 脚本:私


 


 助手:そんなのいない (つ_T) 

     




     

     


 終幕


「ぶ、葡萄二房下さいなぁ! ……あれ?」

 からん ♪

「……夕陽、綺麗ですね」

「明日も良い天気になりそうだなぁ」

「きゃぁ! 動いちゃだめですよ。くすぐったいです」  

「アウラの膝枕気持ちいい」

「……ばかぁ」

 からん ♪

「……アウラは強いなぁ……痛ぇ」                     

「女の子を褒める言葉になってません!」

「う――ん……控え目と思ってたけど下から眺めると――」

 からん ♪

「痛いっ……そこ傷口……討たれてやれなかったけど、俺の負けだなぁ――」

「……こんな身体で無理するから」

 からん ♪

「こんなにしたのはアウラだぞぉ?」

「……封印解かないから」

「腹減った。痛っ、何か食べたいなぁ」

「……私の事……好き?」

「う――ん。やさしいアウラは好きだ」

 からん ♪

「……!? 動いちゃだめですてばぁ……もぅ――。ちょ! 何処へ?」

「めし! 捕ってくる。森に兎を捕まえに、この前捕まえ損ねたから」

「まだ、動いちゃだめです……もう少しこのままいて……それにもう、捕まえてるじゃないですか……」

「なにを?」

 からん ♪ からん ♪

「かわいいわたしを……」

 からん――♪ チュ―☆


 Fin


御愛読誠にありがとうございました。<(_ _)>


本編最終話でございます。


エピローグ、再会の約束 〜 使命と夢の先に 〜

次回をお楽しみに!


創作小説HP 『奇跡の穹』

http://www.geocities.jp/yumemotobirawovivagahirakeru/index.html

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