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〜 グランソルシエールの禁術書 〜 第十三話

 ◆魔術(ちから)を欲する者たち



 壁画に残された碑文(メッセージ)を読むアウラの様子を窺がう騎士たちは、何時しか言葉を失い神殿には静寂が流れている。

 アウラの眼に映し出された文字。

nauthiz(ナウシズ)parth(パース)teiwaz(テイワズ)nauthiz(ナウシズ)

(苦難を越えよ。秘められた重要な財産を探せ、されば見つかる)


「なんて書いてあるんだぁ、アウラ」

 少年は碧眼の瞳をアウラに向けた。


 アウラの形の良い薄桃色の唇が言葉を紡ぐ。

「苦難を越えよ。秘められた重要な財産を探せ、されば見つかる」

「苦難を越えよ……、苦難……これは厄介な事になるかも知れんな」

 壁画に残された碑文(メッセージ)を解読する様子を傍で見守っていたランディがアウラの言葉を反芻した。

「はい。ランディー様……恐らく神殿の何処かに盗掘者たち除けの罠や仕掛け……或いは魔法陣があると思われます」    

 アウラは、紫水晶の瞳を輝かせて推測を立てた。

「盗掘者たち除けの罠や仕掛けがあるのは至極当然な事だがね。魔法陣がある……何故、そう思うのだね? アウラ」

「それはソルシエールが天才魔術師だからです。彼女は禁術書の力を求めようとしている者を試しているのだと思います」

「魔法陣を解いて見せろと言っているんだね? 解けぬ者には与えぬと、そう……」

「ランディー様も御存じの様に文献等から見て取れる魔術の力は強大です。解ぬ者は持つべきではないと、彼女はそう言っているのかも知れません」

「あっ!」

 緊迫する空気を破り少年が、何かを思い出したのか、突然声を上げた。

「静かにしていて下さい。大事な話の途中です」

 何かを言おうとした少年にアウラは鋭い紫の視線を向けた。

 隠されたグランソルシエールの禁術書をもし探し出す事が出来れば、グランベルの悪魔を討つという、アウラの願いに大きく近付く事が出来る。

 アウラの気持ちは高鳴っていた。

「しかし、どうして魔術は滅ぼされ、魔術師たちは滅ばなければならなかったのかね? それ程までに強大な力が……何故に」

 ランディーが以前から持っていた疑問を口にした。

「強過ぎたからだ。正確に言うと魔術(・・・)がだ」

「覗き魔さん! 静かにし――」

 ランディーがアウラの前に手をやりアウラの言葉を制した。

 アウラは、自分が平常心でなかった事に気付き小さく息を吐き呼吸を整えた。

「聞こうか。山羊飼い」

 ランディーが、そう言うと少年は微笑みを浮かべ話し出した。

「母さんに聞いた話だ。母さんは俺を育てる為に苦労し悩んだと言っていた。それで母さんは、住み慣れた(・・・)を出て人里に下りる事を決め、人の世を回って俺を育てた。その時、母さんは人の姿を――」

 少年の話を興味深く聞いていたアウラは、平常心に戻りつつあった。

 この先、少年が発するであろう、言葉を慌てて遮る。

「覗き魔さんその事は――」

 アウラは、少年が体内に宿しているグリンベルの悪魔(ドラゴン)の事を知っている。

 少年の(ドラゴン)が、グリンベルの街を焼き払ったかも知れないと言う事を……。

 

 ――もし、少年の母がグリンベルの悪魔(ドラゴン)だとランディーをはじめ、他の騎士たちに知られたら……。


 無事では済まない……アウラは、咄嗟にそう思った。

 魔術同様、軍に利用されるか最悪、教会に連れていかれ殺されるかも知れない。

 憎むべきはずの仇を咄嗟に庇っている自分にアウラは戸惑っていた。

 そんな自分に微笑み掛ける少年の微笑みがアウラの胸に僅かに灯る恋心を射抜いていく。

「母が人の姿……?」

 ランディーが疑問を抱いた視線で少年を見ている。

「俺の育ての親はドラゴンだ」

 アウラの心配を余所に少年が答えた。

「ドラゴンだと!?」

 周りにいる騎士たちもざわめき始めている。

「覗き魔さん!」

 アウラが声を張り上げ、ランディーに眼をやった。

 ランディーが薄い笑みを浮かべ唇を吊り上ている。

「それは、興味深い事だ……大いにね」

 少年の宿している循鱗の力も魔術に匹敵するかそれ以上だろう。                   

「分かってる、アウラ。でも近い内にばれるような気がするなぁ」

「……」

 アウラは、ランディーの表情を見て確信した。

 少年がドラゴンの力を宿している事にランディーは、まだ気付いていない様子だ。

 やはり、循鱗の力を知られれば、誰かに利用されるかも知れないと……。

 魔術の力を欲する自分も同じなのだと知りながら矛盾する思いが湧き上がる。

 この少年の秘めた力を他の誰かに利用されるかも知れない。

 そんな事は嫌だと思った。

 まだ気付いたばかりの灯火のような小さな恋心が独占欲を駆り立てる、胸中の大半は循鱗を討ちたいと思っているのに……。


 少年は、アウラにやわらかい笑みを向けて再び話し始めようとした。

「俺の――」

「ドラゴン……覗き魔……、きみはいったい何を覗いたのかね? アウラの何を!」

 少年の言葉を遮り、ランディーが喰い付くように少年に問い掛けた。

「ランディー様!」

 アウラは顔を赤らめ俯いた。

「そっちに喰い付くのか」

「すまない。場の空気が少々重くなって来たんでな、和ませる為だ続けてくれ、その前に大勢に聞かれると不味いなら人払いをするが」

「……」

「しなくていい」

「そうか。なら続けてくれ」

「俺の育ての母はドラゴンだ、四年前に死んだ。母さんは俺を、とある滅んだ場所で拾った、と言っていた」

「とある滅んだ場所? 覗き魔さんが住んでいた魔物に滅ぼされた街の事?」

 アウラは瞳を揺らした。

 少年は何も言わずに碧眼の眼をアウラに向ける。

「ごめんなさい」

 少年は言葉を続けた。

「人里に下りた母さんは魔術師(・・・)たちが滅ぼされていった理由に納得した。人間の知恵と新しく物を作り出す早さを目の当たりにしてだ。遠い昔、凶悪な魔物を極寒極北の氷土に追いやり、閉じ込める程の力を持った魔術師が剣や弓に敵わなかったと思うか?」

「思わんから不思議なのだ」

 ランディーの言葉にアウラが桃色の細い髪を揺らして頷いた。

「魔術師は陣を描いて何らかの切っ掛けを与え、魔術の力を発揮行使すると俺は考えてる。俺が知るところによれば、その方法は様々で魔術師たち個人の秘密事項だったそうだ」

「例えば?」

 アウラの眼に好奇の光が宿った。

「例えば……呪文の詠唱、羊皮紙や石板に書いた文字、道具とか……そうだなぁ――、鐘の音とかかなぁ」

 少年がアウラに微笑み掛けた。

「力を行使する魔術の陣を描くには膨大な時間を要する。強大な魔術になればなるほど陣も複雑になり、尚更手間の掛かる作業だと聞いている」

 アウラは頷きながら少年の話に聞き入った。

「言い換えれば陣を描いていない魔術師は、ただの人に過ぎない。ランディー騎士たちが持つ剣や弓で十分あしらう事が出来るし、追い詰める事も難しくない。母さんは遠い昔から魔術師を知っていたが扱える人間は全体の内でも極僅かな人間だったと言っていた。その他の大多数が、農耕や狩猟に使う便利な道具だったものを発展させ武器に変え更に進化させ、大多数で魔術師を追い詰めたのだろう、と母さんは言っていた。何者かが魔術師を弾圧し魔術師狩りを先導したらしいが、その時母さんにとっては特別興味がある出来事ではなかったらしい」

「確かにな」

「ここからは俺の推測だけど……それに魔術を扱う天稟でもない限り、遠い昔でも魔術を扱う事が出来なかったのだとしたら、さぞ、敬われ、また疎まれただろう、と思うなぁ」

「ならば、ソルシエールの禁術書は諸刃の剣どころか扱うには、それ相応の手間が掛る……掛り過ぎる……代物と言う事か」

 ランディーは無言で眼を瞑った。

「そうでもない、魔術が弾圧を受け魔術師たちが狩られ、辺境に追われた後もソルシエールが天才魔術師と称えられた由縁がそこにあるんじゃないかなぁ」

「もしかして――」

 アウラが少年の言葉に何かを感じ取った。

 紫水晶の瞳をころころ揺らしている。

 少年はアウラの言葉の後を引き取った。

「例えば陣を用いず魔術を行使するとか……かなぁ、それを出来るかも知れない人物を俺は一人知っている」

「それは誰?」

 アウラが少年の碧眼を覗き込んだ。

「内緒だ。まぁ、強力な魔術を誰もが簡単に使えてしまったら、生き物が住む場所が無くなってしまいそうだけどなぁ」

 少年は微笑みで答え、祭壇に祭られていた奇怪な像に手を置いてもたれ掛かった。

「あれ?」

 古語で書かれた翻訳が鍵だったのか、調査の段階でこれといった報告を受けていなかった像が倒れた途端、祭壇から石臼で粉を引く時のような音を立て始め、祭壇は徐々に床面へと沈み込んでいく。

 祭壇が沈んだ後、現れた後ろの汚れのない白い壁には扉が設けられていた。

 扉は手を掛けてもいないのにまるで、この時を待っていたかのように開き出した。


To Be Continued

最後までお読み下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>

次回をお楽しみに!

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