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第6話

「てなわけでさ、まぁ沼地は割と儲かったけど、ちょっとしたトラウマになったよ」


「そりゃそうかい。てかなんで青龍偃月刀なんてマニアックな武器出したんだよ?他になんかなかったのかよ?つーか、それよりその多頭の怪物ってのについて詳しく」


「俺の中での強い武器の代名詞が、マニアックな武器で悪かったな」


宿に戻った俺は、晩飯を食ったあと、サンジェルマンとオーナーのチェキータさん相手に今日のことを話していた。


「でもついてましたね。普段は二日か三日に一回くらいしか見つからない牛呑蛇が四匹も捕まるなんて」


「それ、役所でも言われましたよ。報酬の換金所で、初日にこんなに稼いだやつは初めてだって」


「そうさな、この俺様ですら今日のお前ほどは稼いじゃいなかったな」


「にしても、ほんと不思議ですよね。最初は本当に入れ食いだったんですよ?」


そう、俺はそこがなんだか腑に落ちていなかった。釣りでもなんでも、確かに釣れる時は釣れるし、釣れない時はとんと釣れない、なんてことはざらにあるが、今日のは何か不自然な気がしたのだ。


「もしかしたらそりゃ、お前とあいつのスキルのせいかもな」


「スキルのせい?どういう事だ?」


何やら思い当たる節があるサンジェルマンに俺が食いつく。


「いいか?お前は強力な幸運系スキルを複数持ってる。で、嬢ちゃんはその逆、強力な不幸系スキルをしこたま持ってる」


「えぇ、だからこそ、サチさんには運のいいコウさんのそばにいてもらう方が安全だと、そう思ったんですけど」


初耳である。


「え、そんなこと思ってたんですか?」


「まぁ、それはいい。とにかく、お前の願望は叶いやすく、あいつの願望は叶いにくい。それがお前らのスキルからわかる事実だ」


「まぁ、確かにそうだな」


「つまり、序盤のうちはお前の金を稼ぎたいって欲望と、嬢ちゃんの怖い思いはしたくないって願いがうまくマッチして、モンスターを集めてたんだろ。で、モンスターをノーリスクでバンバン狩るお前を見て、途中からモンスターが怖くなくなった嬢ちゃんも、金が稼ぎたくなった」


「だからモンスターが寄ってこなくなった。なるほど、確かに筋は通りますね……」


うんうん、と納得する二人。


「ま、大方そんなもんだろ。それよりその多頭の怪物の話だよ。そいつ、嬢ちゃんの守護聖獣なんだろ?」


「あぁ。でも、正直もう二度と見たくないよ、あんなの。それより、あいつの悪運とか、モンスター寄せのスキルとかの対策を考えてくれよ」


「そんなの」


「ないです、よねぇ……」


完全に諦めている二人。


「いや、今日は運が良かったから何とかなったけど、明日からもこんな調子だと……」


「それだよ、それ」


サンジェルマンは俺の言葉を途中で遮ると、何やら話し出した。


「いいか?あいつの悪運もだが、お前にも無数の幸運系スキルがある。神の加護クラスのスキルがA評価で出てる以上、お前が運悪くぽっくり死ぬってことはない。事実、今日は『運良く』何とかなったんだろ?」


「そ、そりゃそうだが……」


「それに、街の中に籠るってわけにも……」


チェキータさんの申し訳なそうな声には、俺も思い当たりがあった。


「ドッペルゲンガー、まだ捕まってないんすか?大変っすね……」


「悪いな、俺も少し思いあたりを探してみたんだが……」


「いや、あんたに探してもらえただけでも充分だよ。こっちこそ、世話掛けるな」


「いいよ。気にすんな。それよか酒おごれ、酒。金、あるんだろ?」


「わかったよ。チェキータさん、すいません。こいつになんか出してやってください」


「はい!お任せを!!」


そう言うと、チェキータさんは幾つかボトルを見繕い、奥に行ってしまった。


「そいや、その嬢ちゃんは?いや、用があるのはその守護聖獣なんだが」


「怖ぇよ、お前、戦闘狂かよ。あいつならお前のとこの魔法使いさんと、風呂に行ったよ」


「んだよ、悪いか?戦うの好きで」


「いや別に悪かねぇけどよ……」


「でもま、マーシャが気に入ってんならちょっかいかけんのはやめとくか……」


「なんだよ、あの魔法使いの人、怖いのか?お前が?」


「ハッ!バカ言うな。んなんじゃねぇよ。あいつ、友達少ないからな。せっかくこっちで出来た友達は大事にさせてやろうっていう、主からの優しい気遣いだよ」


「へー、気遣い、ねぇ」


「なんだ?似合わないってか?」


「ま、そんなとこ。ってか、主ってあの人やっぱメイドなのか?つーか、前から気になってたんだけど、お前って何者なの?ここ出身ってわけじゃないみたいだけど」


「ん?俺か?俺はサンジェルマン=フランキスカ。出身は第五世界だ。何者かって聞かれれば、まぁ、王子様?って所かな」


「んだよ、真面目に答えろよ。なんだよ王子様って、お前」


そんなのキャラじゃないだろ?俺はそういうと、グラスの水を飲み干す。王子様。それほどサンジェルマンに似合わない言葉もないと思った。


調子のいい軽口を叩きながら、飄々とした態度で女を口説く色男。それが俺のやつに対する印象だった。


「キャラじゃない、ねぇ。まぁ正しくその通り、そんなキャラじゃないんだよ、実際。だから、こんな所まで逃げてきたってわけ」


「はいはい、すごいすごい」


俺はサンジェルマンの冗談を軽く聞き流した。


「あ!お前信じてないだろ!」


「当たり前だ。いきなり『僕は王子様です〜』って言われて信じるアホがいるかよ?」


「そりゃ、まぁ、そうだけどよ……」


「何の話ですか?あ、サンジェルマンさん、これ」


「おぉ、すまねぇ。いや、ないした話じゃない。こいつに俺のこと話してただけだよ」


サンジェルマンは戻って来たチェキータさんからグラスを受け取ると、舐めるようにそいつを飲んだ。


「チェキータさん聞いてくださいよ。こいつ自分が王子様だとか言ってるんですよ。なんとか言ってやってくれませんか?あ、すいませんどうも」


俺もチェキータさんからドリンクの入ったグラスを貰い、それを呷る。


「あれ?サンジェルマンさん、それもう話しちゃったんですか?」


「え、なんすか?そのマジっぽい反応。やだなぁ、ふたりして俺を担ごうだなんて、冗談きついっすよ?」


呷ったあとに気づいたが、これ酒だ。俺は軽くむせそうになるのを抑え、黙ってアルコールを喉に流し込む。チェキータさん、ボトル間違えたな?


「おい、チェキータ。これ、アルコール入ってないんだが……」


「あ、あれ?酔ってボトル間違えちゃいましたかね?もう一度、お酒注いできますね」


チェキータさん自身、今日は何やら昼間から飲んでいたようで、ここまでシラフだった俺たちよりもはるかに酒が回っていた。 そんな彼女は再びグラスを手に、千鳥足でカウンターの奥に戻る。というか、さっきは普通に歩けてたよな?


「ま、話の続きだが」


「え?その話まだ続くの?俺もうお前が王子様とか、そういう話は飽きたんだけど」


「違ぇよ、俺の話じゃねぇ。守護聖獣の暴走の件だ。 実際どうなんだ?」


「どうってお前、ホント好きな、そういうの」


俺は呆れた顔でグラスを傾けようとして、中身が酒であることを思い出し止める。根が小心者な俺としては、自発的に飲むお酒は二十歳超えてからがいい。


「そんなんじゃねぇ。実際問題、嬢ちゃんが街で暴走した場合とか、リスクは色々あるだろ?そん時に俺が太刀打ちして勝てそうかどうか、わかればいいなって思ってよ。で?どうだ?」


サンジェルマンが、俺よりも深いところでモノを考えていたことに驚きつつ、俺は考える。


「まぁ、お前の強さを見たわけじゃないからはっきりとしたことは言えないが」


俺の前置きに、サンジェルマンは待ってましたとばかりに頷く。


「勝てない、と思う」


「その心は?」


俺の答えが意外だったのか、少し低い、真剣な声でサンジェルマンが問いを投げ掛けてくる。


「あれは、人間が勝てる相手じゃなかった。あれに勝てるやつはもう、人間の領域には存在しないと思う」


「へぇ……。人間には勝てない、ねぇ」


「あぁ、そうだ」


「んで?でもそれが、俺がやつに勝てない理由にはならないよな?」


そう言って、不敵に笑うサンジェルマンには、何か得体の知れない迫力があった。


「……役所にやつの仕留めた蛇を卸した。まだ捌かれちゃいないはずだ。気になるなら見てこいよ」


「へぇ、いいこと聞いたな。じゃあな、少し開けるぜ」


サンジェルマンは席を立つと、今まで飲み食いした分の金だけ置いて、宿を出ていった。


「あぁ、それとひとつ」


一度出ていったサンジェルマンは、扉を開けると俺に向かってこう告げた。


「なんでお前、チェキータには敬語なの?つーか、お前の敬語、なんでそんな小物くさいの?」



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