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第5話

第5話



こうして、蛇と蠍を船に積み込んだ俺たちだったが、気づいたらまた鴉はどこかに消えていた。それから数時間、気づいたらまた今までの入れ食いが嘘のように、俺はモンスターを見つけることが出来ずにいた。


……あー、暇だ。


乾いた川原に寝転がりながら、俺は昨日や今日のこと、またこれからのことを少し考えていた。


まず、サンジェルマンだ。昨日はスルーしたが、あいつ役所で殿下、とか呼ばれていたが、もしかしてこの世界の王族や貴族か何かなのだろうか?全くもって謎であるし、もしそうならあとが怖い。


次にこいつ、現状俺の隣で気持ちよさそうに寝ている笛吹だ。こいつはこいつで過去に囚われているやつだが、俺はその殆どを知らない。いったいこいつはいま何を思っているのだろう。何を思ってこの世界で生き、暮らしているのだろう。そんなことをつい、考えてしまう。


だってそうだろう?もし俺が、あの時こいつを助けなければ。そのifが存在する以上、それは俺にとって考え続けないといけない問題のはずだ。


それにあのドッペルゲンガーの件もある。あの後、役所は公式に街の中へのドッペルゲンガーの侵入を発表した。それにより討伐隊と警備隊が組織され、今朝なんかは街中でも武装した兵士がちらほら見られた。


そして、最後はやはりこれからの事だ。トラブルを幾つも抱えた先行きの見えない不安に、俺は押しつぶされそうだった。


「……ま、悩んでも仕方ないことばっかだけどな」


サンジェルマンの問題はともかくとして、笛吹の件は本人がどう思ってるかなんて、時と場合によっちゃ本人にだってわからない。それに、ドッペルゲンガーだって、現状では俺にどうこうする力はない。もしかしたらもうどこかに消えた可能性も、今日街に帰れば兵士の人達に退治されているかもしれない。


それに、先の知れない不安なんてのは、どの世界に生きていようとつきまとってくるもんだ。


とどのつまり非力にして無才な凡人たる俺は、日々精一杯に生きるしかないのである。


多少運が良かろうと、多少目が良かろうと、それだけは変わらない。


日の沈み始めた川原で、俺はそう決意した。


「……あれ、もしかして、あいつ」


それから少しして、そろそろ本格的な日没に差し掛かり始めた頃。俺は数時間前に見たあの盛り上がりを見つけていた。


しかし、まずいな。


元から近くに潜んでいたのか、盛り上がりとの距離があまりとれてない。というかもう二十メートルと離れていないぞ!


「ちきしょう!終玉、起動!!」


掛け声で即座にイメージを固定し、銛撃機を最速で錬成する。


くそ、間に合うか?


台座を回転させ、銛の先を蛇に向ける。いや大丈夫だ、この距離なら間に合うし、外さない。


その時だった。


俺はふと足元でなにか音がした気がして、視線をしたに向けた。


恐らくは、これは幸運系スキルと直感スキルの効果だったのだろう。


俺の足を今まさに、蠍が刺そうとしていた。


「クソったれぇがぁぁ!!」


俺は咄嗟に銛撃機を日本刀に変え、自分の足元にたかる蠍を地面に縫い付けた。


少し震えた後、刀に貫かれたサソリは動かなくなる。


しかし、その時にはもう手遅れだった。


川原のすぐそばまで近づいてきていた牛呑蛇は、その大口をガバッと開くと、眠る笛吹に覆い被さる。


文句なしに、俺の中の時間が停止した。


「グォォォォオ!!!」


刹那、あたりに蛇のものではない咆哮が響く。そして蛇の体が不自然な軌道で上に引きずられる。


「おいおい、なんだありゃ……」


蛇を持ち上げたのは、正しく怪物だった。


体長は蛇の五倍はある。脚は丸太みたいに太いのが四本。頭は見たところ、五つ、いや、六つ。それぞれの頭は口が大きく裂け、避けた口からはアイスピックみたいな牙がズラズラ並んでいる。色は鮮やかな赤でこいつが何で出来ているかが分かる。そう、終玉だ。これは、あの、笛吹の守護聖獣だ。


そいつは目がないのに、正確に蛇の頭と首に噛み付いていて、蛇の骨をバキバキに噛み砕いていた。


俺は本能的に後ずさる。こんな怪物相手にするのは流石に無理だ。スキルの効果がどうとか、俺のステータスがどうとかいうレベルじゃない。


こいつの相手は人類には無理だ。


俺が不意討ちでやっと殺した蛇を、真正面から惨殺してる姿を見て俺はやっと悟った。


こいつと比べれば、あの蠍がでかくなろうがどうってことない。


「グルル……」


俺が立ち竦んでいると、六つの頭のうちの一つ、蛇を噛み砕いていないやつが、不意にこちらを向いた。


しばらく、蛇が骨無しになる音が響いた。


「グォォォォオ!!!」


そいつは目がないのにどうやって俺を見つけたのか、こちらに咆哮を上げると、それに呼応して他の頭も全て、いつの間にか絶命した蛇を捨てこちらを向いた。


「……おいおい、冗談だろ?」


ようやく動くようになった足で、俺は少しずつ後ずさる。


「グォォォォオ!!!グォォォォオ!!!」


それを追うようにこちらに近づいてくる怪物達。


「あぁぁぁぁぁ!!!!」


ついに俺は絶叫しながら、川原を全力疾走し始めた。


やばいやばいやばい!!思ったより怪物の脚は遅いものの、首がめちゃくちゃ伸びる。俺は背中に追いすがる首を、避けたり刀で受けたりとしながらも辺りを逃げ回っていた。


どうすんだこれ!という声が頭に響く。そう、現状の俺は詰んでいる。なぜかと言えば俺には現状、達成可能の勝利条件がないからだ。


まずこいつから逃げるのは無理だ。それは今までの追いかけっこでわかる。


次にこいつを殺すという選択肢についてだ。そもそも生命体じゃないこいつに、死という概念があるのかがわからない。もしあったとしても、こんな怪物を殺せる人間に思い当たりがない。俺はバズーカ渡されたって勝てるビジョンは浮かばない。


で?他にどうしろって?他になんかある奴は出てきてくれ。頼む。お願いだから。


「やめなさい!!」


そしてその提案は、予想だにしないところから出てきた。


笛吹はそう叫びながら、怪物の脚に縋っていた。


「馬鹿野郎!!」


一か八か、終玉を馬鹿でかい青龍偃月刀を召喚し、刃渡り二メートルはあるそれを思いっきり振りかざし、正眼に構える。覚悟は決まった。


俺は特攻をかけようとして気づいた。


怪物はもう、俺のことなど見てはいない。代わりに脚元に縋り付く笛吹に、その頭を撫でつけていた。


「お願いだから、もう、やめて」


彼女が絞り出すようにそう言うと、怪物はそれに応じるようにクゥゥと鳴くと、一匹の豹に姿を変えた。




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