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第三話

すいません、忘れてました、第3話です


翌日。

記念すべきの冒険者生活一日目である。

「ぎゃー!!」

そんな日に俺は街の東の沼地で、無数の鋭い牙を持つ多頭の怪物に追いかけ回されていた。


朝である。

昨日の夜、俺はサンジェルマンと市役所に行き武器を支給してもらった。

「あー、新しい転生プログラムの人ね。はいはい、これ」

バーコードのおっさんはそういうと、机の中からハンドボールの球くらいの大きさの真っ赤な金属球を差し出してきた。

「え、あ、どうも」

俺は主そうなそれを両手で受け取ったのだが。

「って、軽!?」

その球は金属とは思えない軽さで、俺は思わず拍子抜けした。

「あー、君出身は?第三世界辺り?」

おっさんは不躾にそんなことを聞いてきた。

「え、えぇ、第三世界から来ましたけど」

「第三世界には、ほら、沢山あるんでしょ?鉄とか石とか。でもここにはそんなもの滅多に出廻らないからさ。これがその代わり」

おっさんはそう言って俺の持っている、真っ赤な球を指差した。

「それは終玉しゅうぎょく。これは使用者の意思で自由に姿を変えることの出来る、我々が生み出した最高傑作の武具だ」

「使用者の意思で自由に姿を変える?」

「あぁ、そうだ。使い方は簡単で、君が使いたい武器を頭に思い浮かべるだけでいい。その武器の情報を思い浮かべるだけで、終玉は変化してくれる。それこそ、何をするためのどう言ったものかを考えるだけでいい。やってみたまえ、君でもできるはずだ」

突然そんなこと言われても困るというのが、正直なところだったが、隣でサンジェルマンも興味深そうにこちらを見ているし、とりあえず俺は無難に日本刀を頭に思い浮かべた。目を閉じて、なんでも切れそうな名刀を脳内に思い浮かべる。

「おい、コウ。もういい、目を開けてみろ」

サンジェルマンの一言で、目を開けた俺の両手の中には剥き身の日本刀が収まっていた。

「おいおい、まじかよ、これ」

真紅の刀身を水に濡れているかのように妖しく光らせるその刀は、本当になんでも切れそうに見える。

「うん、これくらいなら問題なさそうだね。あ、そうそう、君にはこの刀、何色に見えているかい?」

バーコードのおっさんは刀を検分すると、そんなわかりきったことを聞いてきた。

「何色って、真紅ですよ。終玉の時はあかって感じでしたけど今はもっとくれないって感じです」

「へー、そうかね。僕にはそれ、灰色に見えるから、君の個性は赤って事になるね」

おっさんは机に置いていた書類に何かを書き込みながらそう言った。

「え?いやいや、待ってください。これが灰色?嘘でしょ?」

狼狽える俺に、おっさんは視線を向けすらせずに答える。

「いやいや、ほんとほんと。終玉は所有者によって見える色が異なるから。フランキスカ殿下。貴方には、彼の刀は何色に見えますかな?」

おっさんに言われ、サンジェルマンは今までじっくりと眺めていた日本刀から顔を上げると、一言こういった。

「蒼だ。海の色より深い蒼に見える」

その答えに、おっさんはほらね?とだけ言うとさっきまで自分の書いていた書類をこちらに寄越した。俺は少し不機嫌な顔でそれを受け取る。

「『終玉の使用許可証』?まさかまた書類書くのか……?」

「あぁ、そのまさかだよ。でも、これあると便利だよ?この世界の人は大体持ってるし、自動翻訳とかもこれでやってくれるからね。君が言葉に苦労してないのは、今まであった人が終玉持ってたからだよ。あ、あと君にはステータスチェックを受けてもらうから。はい、ここに手を置いて」

へぇ、なるほどね、俺から見たらみんな日本語を話してたから、なんの疑問も抱かなかったわ。書類を書くのはめんどくさいが、確かに便利そうだし、貰っとくか……。

おっさんはそう言うと、隣のカウンターへと移動し、そよカウンターにある手形のマークを示した。俺は受け取った書類を一度カウンターに置き、示された手形に合わせて左手を置く。

「痛ってぇぇ!!」

いきなりのことでびっくりした。特大の静電気である。俺はすぐさま手形から手を離すと、嫌な痺れを帯びた左手を抱えた。

「何を大げさな。これはそんなに痛いものじゃないんだけどなぁ……」

纒わりつく痺れを払うように腕を振る俺を、少し冷ややかな目で見ていたおっさんは、ジジジという音とともに機械の吐いた紙を手に取った。すると、おっさんの顔色がみるみるうちに変わっていった。

「ん……。これは、ちょっと想定外だねぇ……」

おっさんの様子を不審に思ったサンジェルマンが、おっさんの持っていた紙をのぞきこんだ。

「ん?どこが想定外なんだ?寧ろ第三世界出身の平均的なステータスじゃねぇか」

「い、いや、殿下。こちらを……」

「ん?どこだ?ここか?……あぁ、確かにこれは少しばかり」

当事者の俺をよそに、何やら話し込み始めた二人だったが、やがてサンジェルマンが渦中の紙を持って、こちらにやってきた。

「いいか?これはお前の身体能力を数値化したステータス表だ。基準値は、一般人が一〇〇ってところだ」

ふむふむ。俺は理解したことを示すために頷く。

「で、これがお前のステータスだ」

そう言って、サンジェルマンから渡された紙には細々と色々な数字が書かれていた。

「『通常ステータス 攻撃力九三 耐久力 一〇一 体力八八 敏捷性一〇九』……ほぼ一般人のステータスですが、何か?」

いや、まぁたしかに期待していなかったといえば嘘にはなるが、こんなことになる気もしてた。だって平和ボケした日本に生きてたやつのステータスが、バリバリな戦闘要員のそれなわけが無いもんな。ここで、かっこよく高ステータスを叩き出し、俺tueeee展開になるんじゃね?的な淡い期待もあったが、今となってはそれも虚しいだけだ。

「まだまだ、早とちりすんな。その下に、スキル欄ってのがあるだろ?」

「ん?あぁ、これ?」

サンジェルマンが指さしたところには確かにスキル一覧の文字があり、俺はあまり期待せずにその下を読み進めていった。

「えっと、なになに?『Aクラス評価スキル鷹の目 千里眼 心眼 神眼 慧眼 炯眼 幸運 神の加護 直感』……これって凄いのか?Aクラスって、一番下の評価だろ?」

「ばかやろう!誰がおっぱいの話をしろっつたよ!!」

「いや、誰も言ってねぇよ、んなこと」

「いいか?そもそもスキルってやつは、この世界と他の世界の常識や諸法則の差から生まれるもんだ。1番わかりやすいのは魔法だな。お前は第三世界出身だろ?お前の世界の常識に魔法はあったか?」

「いや、なかった」

「だろ?このように、世界にはそれぞれの常識や法則がある。で、俺やお前みたいに世界を渡ってきたやつの中には、移転先の世界の常識からはみ出ちまってる奴がいる」

「なんかわかってきた気がする」

「で、だ。そういうのは『スキル』として元の世界からの補正を受けてこの世界でも擬似的に発現できるようになるんだ」

「おいおい、たしかに俺は運がいい。それに視力だって結構自信はある。けどそんな、神眼とか、神の加護だなんて大したもんじゃ……」

俺tueeee展開の可能性を僅かに取り戻しつつある俺は、淡い期待を込めてサンジェルマンの次の発言を待望する。

「今まで、この世界で一番多いスキルを持ってたのは俺だったんだ」

今サラッと大事なことを言ったサンジェルマンだが、それよりも俺は、だった、という過去形に気を取られそれどころじゃなかった。

「そ、それで?」

「お前は俺よりスキルの数が多い。多いんだが……」

あれ?なんか嫌な予感。

「ぶっちゃけ、戦闘向きのスキルかと言われると微妙な奴が多いし、お前のステータスが完全にパンピーのそれだろ?だから、その、まぁ、ちょっと強い一般人、くらいに落ち着きそうかなぁ、と」

世界の全てに絶望したかのような顔を晒す俺に、サンジェルマンは慌ててフォローを入れてくれる。

「い、いや!でもこのスキルの数は本当に凄いんだぞ?同系列のスキルがこれだね重なってるってことは、視力や洞察力、それに幸運は相当補正を受けてるはずだ!立ち回り次第では使い物になるかも……」

正直フォローされるのが一番惨めで心に響くが、別にサンジェルマンも悪気がある訳では無いし善意で言ってくれているのだから、余計始末に悪い。やめろ、それ以上慰められると惨めで死にたくなる!!

「……ちなみに、あんたのスキルはどうなんだ?サンジェルマン」

既に目に光のない俺からの質問に、若干狼狽えているサンジェルマンは自分の首から下げていた革紐を引っ張り、そこに吊るされたカードを差し出した。

「『Aクラス評価スキル 俊足 瞬足 神速 韋駄天 風神の加護 風の加護 直感』『通常ステータス 攻撃力九四二 耐久力 七六二 体力 六三五 敏捷性 一五八九』……え?なにこれ」

どのステータスも常人を遥かに凌駕しているが、ぶっちぎりでやばいのは敏捷性だ。おそらく所持スキルの補正を受けているのだろうが、千越えって有り得るのか?もしそうならこいつは一般人の十五倍は速く動けることになる。もはやここまでくると何かの冗談にしか思えない。

「い、いや、これはまぁ、ほら、俺は最強無敵の大英雄だからであって、あれだ、逆にお前はそんな俺より持ってるスキルが多いんだ、誇りに思ってもいいんだぞ?」

より一層凹んだ俺をなんとか励ますサンジェルマン。それを見て俺も流石に、うじうじしてても始まらないと割り切ることにした。そうだ、これでもスキルの補正があれば多分一般人よりは強いんだから、良しとしようじゃないか。

「そう言えば、俺とあんたで一つだけかぶってるスキルがあったよな?直感だっけ?」

俺はさっきやつのカードを見た時に気づいたことを口にした。

「ん?あぁ、それか?それはまぁ、文字通り勘の良くなるスキルだよ。多分お前のは幸運系のスキルとして計算されてるんだろうな」

「具体的にはどんな効果があるんだ?」

「んー、例えばそうだな。モンスターの不意打ちを察知できたり、何となくやばそうなところがわかったり、って所か?地味だがまぁ役に立つスキルだよ」

「確かに地味だな……。まぁ強いとは思うが……」

確率依存の前兆予測って所か?Aクラス評価ってどれくらい有用なんだろ。試すことは色々ありそうだ。




「ま、とにかくもう遅い、今日は帰って寝ろ」

と、言われ、昨日はそのまま宿に帰って寝た。ちょっと気まずいな、とか思いながら部屋に戻ると、笛吹は既にベッドで寝ており、俺ももうどうでもよくなったので、書類を書いて着替えるとそのままハンモックで寝た。

そして翌日。

早速のお仕事初日。

まずは昨日のうちに書き上げた書類の提出と、笛吹のステータスチェックやら終玉の支給なんかを受けに取り敢えず役所に行った。

「えぇ、終わったわ」

笛吹の手続きの間、暇だったので外で日本刀を振り回して遊んでいると、俺と同じく終玉を貰い、首から二枚のカードを下げた笛吹が出てきた。

「お、ステータスどうだった?」

俺はポーズをとって遊んでいた日本刀を球体に戻すと、早速役所での成果について聞いてみた。

「えぇ、それね。ミーシャさんがこれに書いてあって言っていたわ」

ミーシャさん?あぁ、サンジェルマンの連れの、昨日の魔法使いの人か。

「どれどれ?『攻撃力二四 耐久力一一二 体力五七 敏捷性 八六』……」

クソステータスじゃねぇか!!

そう叫びたくなったが、なんとか抑えた俺は一度落ち着くために考えを纏める。落ち着け?もちはつかずに落ち着くんだ。

まぁまず第一に、笛吹は女の子だ。こういう所でそれを言うと性差別とか言われるかもしれないが、普通統計的に身体能力で勝っているはずの男である自分が、自分と同じ年の女の子にステータスで負けていたら、男としてかなり自信をなくす。

そもそも一般人よりちょっと弱いくらいなんだ。ステータスチェックってのは、多少運動が苦手ならこれくらいの数値が出るものなのだろう、きっと。

「ま、ステータスはあれだな、置いておくとして、スキルだよ、スキル」

場合によってはないこともあるそうだが、そちらの方にこのステータスの救いがあるかもしれない。そう期待を込めて、俺はスキル欄に視線を移すと、そこには想像を絶する文字が踊っていた。

「『Aクラス評価スキル疫病神 死神 死神の加護 悪魔の呪い 厄神 不幸 天災 虚弱 病弱 被虐』 ……」

お、俺の記録抜かれたー!!しかも誰がどう見てもゴミスキル所かバッドステータスの塊だこれ!!と、叫び出すのをすんでのところで抑えた俺は、再び落ち着くべく、一度笛吹から離れ思索に耽る。

え?いやいや、これ無理じゃね?だってあれでしょ?こんなん連れていったら、恐らく今から向かう沼地中のモンスターがこいつを狙ってやってくるやつだろ?

いやいや、無理無理。俺、戦闘とか初めてのトーシローだし。何ならやったことあるのは地元の沼のアメリカザリガニの駆除くらいだし……。ステータスは人並み。ちょっと便利なスキルをいくつか持ってるくらいの俺が、それ以上の死にスキルを持った人間を介護しながらモンスターをハント?いやいや、無理だから。

「お、おい、笛吹。お前一回ちょっと……」

俺が笛吹の元に振り向くと、そこには真っ赤な色の鴉を肩に載せた笛吹が立っていた。

「……そいつ、何?」

どう見ても終玉で出来たそれは、俺を興味深そうに見ると、かぁ!と一声鳴いた。

「えぇと、これは守護聖獣?って言うらしいわ。なんでも、私の深層心理?を反映して動く、使い魔?のようなもの、らしいわ。彼が戦闘も防衛もしてくれるみたいだから、私は見てるだけとのことよ」

「へ、へぇ、そうか、そいつはオスなのか」

くっそ下らないことを言ったが大事なのはそこじゃない。

最初はなんでチェキータさんもこいつを戦闘に出したのかと思ったが、その理由がわかった。

恐らくこの守護聖獣、クソ強いのだ。

「ま、今日の相手は雑魚らしいし、気楽に行こうや」

こいつだって馬鹿じゃない。わざわざ前には出てこないだろうし、こいつがやばくなればこの守護聖獣とか言うやつが何とかするだろ。

俺はお気楽な観測を纏めると、街の門へと向かった。


「で、本日の狩場についた訳だが……」

そういって、俺は到着した今日の狩場、東の沼地を見渡してみた。

「広すぎんだろぉぉ!!」

いやほんとにまじで広い。某ドーム球場の一〇〇〇や二〇〇〇では効かない広さだぞ?これ。

初めて見る、見渡す限りの沼地というやつに完全に飲まれている俺は、先程渡ってきた川を恨めしそうに眺めていた。



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