黒
フーっと一息つき再度人形を見る。そして出来るだけ厳しい顔をして人形に言った。
「さっきも言ったが、君の言う通り、ここが僕の出番が全くないファンタジーなゲームの世界だとしても」
「自分の出番がないのが、そんなに悔しいのかしら」
ブツブツ人形が言ってるが無視だ、無視。
「だとしても、僕にとっては現在進行形で命を狙われている、というダークな世界だ。知っての通り、ついさっきも、僕に忠実であるはずの従者に毒殺されかけたみたいだしね」
「あっ!ごめんなさいブレント・・・そうだよね、従者に命を狙われるなんてショックだし怖いし・・私みたいにワクワクな気分にならないよねー」
しゅんとした人形の声。しまった強く言い過ぎたか・・。
「僕こそごめん、言い過ぎた」
慌てて謝った。そして話のついでに、誰にも言ったことがない自分の推測を話してみる。
「それと僕の命を狙っている本当の黒幕は、王妃だと思う」
不思議そうに人形が訊いてくる。
「王妃?何で?無視されてるんでしょう?」
「前はね。でも一年前にニコラスが生まれてからこっち、王太子の座を僕が狙っていると邪推し始めて、どちらにせよ目障りな側室の子を排除しようと画策しているみたいなんだ」
「狙われてるのが分かってるんだったら、お父さんに言ってみたら?国王なんでしょ?」
更に不思議そうに訊いてきた。
相手が別の者だったらそうするだろう、でも王妃では軽々しい事は出来ない。
「今は無理だ。言うとしても国の国母である王妃を断罪する為には、決定的な証拠が必要だ。彼らはそんなミスはしない」
いつもそうだ・・・中々しっぽを出さない。
「それなら今日の飲み物は?シャックリを捕まえて証言させれば一発よ!」
「ジャックリーズだ。たぶん彼は捨て石だ。彼と王妃を繋げる証拠なんて残してないだろう」
今までだって何人も彼のような者はいたが、直接王妃に繋がる証拠はなかった。
人形は無言になった。
女の子には刺激が強かったか、少々後悔していると、
「ブレント、それだけ危機的状況なら、今日みたいに、その辺の物ホイホイ飲んじゃダメじゃない!」
と怒り出した。いらん心配だったな、しかし、
「ホイホイって、それどんな飲み方なんだ?」
「ホイホイはホイホイよ!わかるでしょ!」
いや~わからないんだけど、と茶化したように言おうとしたが、人形の真剣そうな声が続いたので止めた。
「そうかーわかったよ。だからブレントは全然子供らしくないんだねー」
はぁ?・・何かまたズケズケと言いだしたぞ。
「顔に苦労してますって感じが滲み出てるよ。ブレントはもっと自分の命を大事にして子供らしく人生楽しまなきゃ。じゃないと私みたいにいきなり人形に転移しちゃったらもう何も出来ないんだよ、もしかしたらそれ以上に悪い転移をしちゃうかもよ!」
苦労してますって感じが滲み出てる顔ってどんな顔だよ!とは思ったが、それよりも、人形以上に悪い転移っていうのが具体的に思いつかず、
「君の言い方は考えものだが、一応僕を心配して言ってくれてるみたいだから・・有難う。それから、そのー・・それ以上に悪い転移って何かな?」訊いてみた。
「ホイホイ繋がりになるけど、前の世界にもいた黒いアレ、ここではゴキラって軽くプチッと建物踏みつぶしそうな微妙な名前を持つ奴の事よ」
「ゴキラ?プチッと?・・・えーっと、親指位の大きさで、全身黒光り、カサカサ音をさせながら部屋の隅を動き回ってるアレの事だよね?」
「そう!そのゴキラ!前に居た部屋で、掃除の女性達に魔法でバシッと潰されるのをリアルに見ちゃった時には、ゴキラに転移じゃなくて良かった~って心底思ったから!」
その時の事を思い出したのか、凄く実感が籠った口調だった。
ゴキラが宝物部屋で何をしているのかは謎だが、しかしアレに転移かぁ確かにそれは最悪かもって、何真剣に異世界転移ゴキラになってるんだ僕・・・。
「人形なら潰されないからラッキーよね!」
嬉しそうな人形。どこまでもポジティブだ。
僕は人形以外にも潰されない物は色々有るのでは?と思ったが、また怒られそうだから言わないでおこう。
ポジティブな人形のポジティブは続く。
「私、今度の人生・・じゃない人形生も、勿論エンジョイするつもりだから! 野望もあるのよ!」
″人形の野望″ 何ておどろおどろしい響きだ。
人形が無表情で言うとちょっと怖いぞ!