ファンタジー?
「君はこの世界が、エリマキ、というゲームの世界だって言うんだね?」
昔から陰で言われている僕の二つ名、『氷の王子』を彷彿とさせる冷たい声で人形に質問した。
しかし人形は僕の変化に気付かず、尚も浮かれた声で返事する。
「そうそう!ファンタジーな世界だよ!」
「となると第一王子は僕って事になるが、君の言う通りならば、出番の全くない僕はゲームが始まる前にゲームアウト、つまり死んでるって事なのかなぁ?それならば、僕にとってはファンタジーというよりホラーなんじゃないか?」
更に冷たい声で嫌味っぽく問うと、さすがに僕の不機嫌な様子に気付いたのか、人形のあせった声がした。
「い、いやぁ、名前はあったから死んでないはず?・・たぶんニコラス世代の恋愛物だから年上には出番がなかったのでは?」
何でみんな疑問形なんだ。それに自分で言うのもなんだが、まだ8才の可愛い盛りの僕を年寄り扱いするなんて、ちょっと、いやかなりムッとした。
僕の表情でそれが分かったのか、
「でも、でもね、悪役令嬢のカテリーナ=テンプルトンよりましだから」
フォローの為か、ニコラスの婚約者である悪役の公爵令嬢が、ニコラスを取られた腹いせにヒロインをいじめる、その報いでどれだけ没落していくか、慌てて事細かく話し出した。
話を逸らそうとしているな?そう突っ込もうとした時ふと思い出した。
「おやぁ、確かテンプルトン公爵家には息子ばかりで娘はいなかったはずだが?君の話とは違うんじゃぁないかなー」
ふふんとバカにしたように言えば、
「ニコラスが生まれて一年なら、彼より一つ年下のカテリーナはまだ生まれていないのよ!」
ムキになって反論されてしまった。
にらみ合う僕と人形。
人形の動かない顔のパーツとにらめっこ・・・不毛すぎる。
慌てて目を逸らした。
そんないつもと違う自分に呆れ、冷静になれ!と言い聞かせる。
人形に合う前の僕(と言ってもさっきだが)は、自他共に認める『氷の王子』だったはずなのに、今はもう分からなくなってきた。