家族
鏡に映る自分を見て、機嫌が良くなった人形を本棚の上に戻す。
「君が新品同様なのは大精霊様のお力だそうだ。だから古くもならないし傷も付かない」
「凄い!大精霊様ありがとう‼良かったー。女の子は常に身だしなみが大事だって、いつもお母さん・・達に・・言われてたんだ・・・。お母さん!お姉ちゃん!もう会えないの?お父さん!お兄ちゃん!会いたいよ‼」
突然、人形が泣き出したように見えた。さっきまで御機嫌だったのに、感情の起伏が激しすぎないか?無表情だが。
僕には分からないが、仲のいい家族といきなり別れたんだ、諦めたつもりでも思い出すとつらいんだろう・・・。
しかし、女の子が泣いている(ように見える)のは苦手だ。だから慌てて言った。
「僕も母はいないんだ」
人形は黙って僕を見ているように・・(ああ、もう面倒くさいから見た。とする)
「母上は僕が生まれて直ぐに亡くなられた。父上は国王なので政務でお忙しい、だから滅多にお会いする事はない。王妃は側室の子である僕なんて目障りなだけだ。無視されている。
王妃の子で、王太子でもある異母弟の第二王子ニコラスは、まだ生まれて一年だから遠目にしか見た事はない。だから僕も家族はいないようなものかな」
「他には誰もいないの?」沈んだ声で人形が訊く。
「後は父方のお祖母様がいらっしゃるんだが、王太后としての公務がお忙しいから、中々お会いする事が出来ないんだ。」
その後、無言だった人形がいきなり宣言した。
「よしわかった!あなたには甘やかしてくれる家族が必要よ!それは私!」
「えっ?」
「だからー、私がブレントの仮想お姉さんになってあげる!私、末っ子だったから妹か弟がほしかったの。あなた金髪碧眼で可愛いし、私の弟で決定!」
はぁ?何か突拍子もない事を言い出したぞ。立ち直り早いな!っていうか、もう8才の僕は、可愛いって言われても嬉しくない!何か腹が立ったので、
「君、姉として威厳がないし、小さいし、残念系だし、どっちかと言うと僕の妹でいいんじゃない?」
意地悪く行ってみたら、
「ちょっと!小さいのはしょうがないでしょ人形なんだから!それに残念系って何?失礼な!私は『王国の守護人形様』っていうすっごい名前を持ってるんだからね。よーく見てよ、威厳が体中から滲み出ているはずよ!」
偉そうに言うが、それさっきまで知らなかったよね?よーく見ても滲み出てるのは残念感なんだけどって言ってもいいかな?
・・まぁ人形の気分も元に戻ったみたいなので、これ以上は止めておこう。
「あ~威厳は宝物部屋に忘れてきたんじゃないか?それより相互理解に隔たりがあるようだな。仕方がない、最初は無難に友人からって事にしないか?」
僕としては中々いい折衷案だと思ったのだが、
「思い切って好きな人に告白したのに軽くスルーされちゃったような敗北感が・・・」
人形がブツブツ言いだした。延々とブツブツしそうな気配だ。だから、
「返事は?」催促した。
しばし沈黙・・。
人形の中で何かが戦っていたが、しばらくするとため息と共に、
「友人だね。オッケー」
仕方なさ気な声がした。
僕に初めての友人が出来た。
人形だけど。