従者
時はちょっと遡って昨夜
明かりの無いまっ暗な部屋に忍び込む一つの影、その影は迷うことなく人形に近づくと、素早く台座から外し部屋から連れ出した。
「いやぁ、なんちゃって忍者みたいでカッコ良かったー」何故か嬉しそうな人形。
ナンチャッテニンジャが何か知らないが、そこは自分の身を心配しろよ!とは思ったが、わざわざ危険を冒してまで人形を盗んだ泥棒には、何か目的があったはずだと思い直す。
人形は盗まれた後、別室に待機していた男に手渡されたそうだ。
「そのなんちゃって忍者が私を手渡す時、
″この人形をブレント王子様の部屋に置いておけば、王子が毒で死んだとしても、犯人はこの『災いの人形』の不思議な粛清の力だった、としてうやむやに出来るから″ って男に言ってたの。
その時一緒に小さな紙包みを渡してた。あれは絶対毒!2時間ドラマで見た事あるから間違いない!」
案の定だな。しかし2時間ドラマって・・いや今はどうでもいい。それより、
「その男が君をそこに置いたのか?」本棚の上を指差すと、
「そう!そいつ今日の昼間、こっそり自分の服の中に私を押し込んで隠して、この部屋に連れて来て出してくれたと思ったら、この本棚の上に乱暴に置いたのよ!まったく、レディに対して失礼な奴だったわね!」
レディ?人形にレディの定義を確認したくなったが、次の言葉で些細な案件は吹き飛んだ。
「でね、さっきブレント王子様にお茶を持って来たのがその男だったから、絶対毒入りだってピンときたわけ、だから飲むな!って止めたの。いや~私の声が聞こえてホント良かったね~」
人形はやり切った満足感でいっぱいのようだが、僕はがっかりしていた。
「それは従者のジャックリーズだな」
ジャックリーズは16才、茶色の髪と目、中肉中背、魔力が少なくてエリートコースから外れた男爵家の三男だ。仕事ぶりも可もなく不可もなくという感じだ。
僕はがっかりしている自分を意外に思った。
彼とは主従関係しかなかったが、1年以上僕の従者だったせいか、いつの間にか信頼し始めていたんだろう。
この王宮に信頼できる者などいないのに・・・
「はい!ブレント王子様質問です!」
「なんだ!」
人形がそばに居ると考え事も出来ない。僕の口調が少々ぶっきらぼうになるのも仕方がないと思う。
「なんちゃって忍者が言ってた『災いの人形』って私の事?それ呪いの人形みたいな物?
思えばあのシャックリって従者もいやいや私に触ってた感じだったし・・あれ?シャックリってあなたの従者なのに、ご主人様を殺そうとしたの?なんで?」
この人形ズケズケと遠慮なしだな!めんどくさいけど答えないと延々と質問されそうだ。
「はぁー、シャックリじゃなくジャックリーズだ。彼の話は後にしよう。呪いの人形は何か知らないが、たぶん君の正式名称は『王国の守護人形様』だと思う。」
「えっ?守護?何それ守護霊みたいな物?」
守護霊?なんでここで霊が出て来るんだ?
さっきの呪いの人形といい、魔法のない世界といい、人形のいた異世界は不思議世界だ。
気を取り直して、僕は少し説明してやることにした。