キアイ ト コンジョ
人形の話は続く
最初は夢だと疑わず、人形になる夢ってさすが私!なんてリアルでファンタジー!と自画自賛していたが、何日経ってもいっこうに目覚める気配がない。一週間も経つ頃にはさすがに焦りだした。
(一週間・・呑気過ぎないか?)
人形は必死に考えて、誰かに相談しようと思い立ち、その日掃除に来た女性達に頭上から話しかけてみた。
しかし4~5人いる女性達の誰にも聞こえていないみたいで、全く反応がなかった。
(聞こえていたら今頃大騒動だな)
どうにかしてコンタクトを取ろうと女性達をじっと観察していたら、驚いた事に彼女達は魔法を使って掃除をしていた。
(人形の世界にはないのか・・想像できない。この世界の人間は、ほとんどの者が生活魔法を使えるからな。僕も簡単な風や火魔法くらいはできるし)
人形はどう頑張っても話せず動けず目からビームも出ない。
(びーむ?)
結果、普通の人形に異世界転移してしまったと確信。
(いや、そこはそんなにアッサリ確信していいのか?)
最初は落ち込んだし、家族にもう会えないんだと思うと絶望し泣き叫んだ。そしてお約束のチートも何もないなんてと、どん底の気分だったそうだ。
(えーっと、まとめると人形の世界の常識では、普通に異世界転移があり、その時に何かお約束があるって事なのか?)
だがしばらくすると、このままボーっとしててもダメだ!この世界に転移したのも何か意味があるはず、と気分を切り替えてこの世界を楽しもうと決めたそうだ。
えーっと、突っ込みたい所は多々あるが何と言っても、
「うらやましくらいポジティブだな・・」
ボソッとつぶやいた僕の声が聞こえたのか、
「それがね~部活のみやちゃん先輩の口癖が、ピンチの時はポジティブに!気合いと根性で頑張れー!っていうので、それが私達後輩にも移っちゃってねー」
ブカツの誰かは知らないが、
「キヤイト コンジヨ?」何ソレ?
「違う違う、き・あ・い・と・こ・ん・じょー。元々はミヤちゃん先輩のお祖父ちゃんの口癖で、日本人のアイデンティティー?なんだって」
益々わからなくなったが(本人もわかってなさそうだが)
たぶん何か元気のでる言葉なんだろうと推測。
「でも良かった~。ブレントと話せるようになったから、後は上がっていくだけだね!」
「何で僕だけ?」
「さぁ?」
聞くだけ無駄だったな。
ならば次の質問。 動けないはずの人形が、どうやってこの部屋に来たかだ。