気になるところ
火事は、あの後、駆け付けた城の者達の頑張りによってどうにか消火され、延焼は免れた。しかし僕の部屋は全焼、私物も何もかも無惨な姿になってしまった。
その有様から目を背け、周りの好奇の目を無視し、僕はギュッと人形を抱きしめる。
・・僕たちは無事だ、それだけでいい・・・。
その後、茫然自失のジャックリーズは、騎士達によって何処かへ連れていかれてしまった。
疲労困憊し傷だらけな僕は、治療を受ける為に主治医の待つ部屋へと移動した。
人形を抱えた僕を奇妙に思っただろうが、さすが王家の主治医、黙々と僕の身体をチェックしていく。
しかし助手の若い男は、医者を手伝いながらも僕と人形をチラ見している。
気まずい沈黙・・・。
そんな静寂をぶち破るかのように、からかうような声が聞こえてきた。
「フフフッ、あなた人形大好き王子確定ね!」
楽しそうに腕の中の人形が言う。
人形の奴、僕が反論できないの分かってて言ってるな!
ここで人形に話しかけたら、僕は正気を疑われ、即、転地療養という名の軟禁地獄だ。聞こえない、僕には人形の声なんて聞こえてないぞ!
どうにか沈黙を守っている内に、首の絞め跡や擦り傷は医師の治癒魔法によって跡形もなく消えていった。
「ひゃぁー、魔法すっごーい」
人形の歓声。・・僕には何も聞こえてないったら聞こえてない!
全力で自分に言い聞かせている僕の頭の中に、医者の優しい声が割り込んできた。
「ブレント王子様、傷の治療は終わりました。他に痛い所はございませんか?」
「いえ、先生のお陰で痛みは消えました。有難うございます。夜分にお手数をお掛けしました」
「私は医者ですので、いつでも呼んで頂いても構いませんが、私が呼ばれる時は病気か怪我の時が多いですので、推奨はできませんがね」
と言って優しく笑った。意外とお茶目だ。そして、
「魔力切れの方は、一週間程安静にされれば回復されるでしょう。他に気になる所はございますか?」
真面目な顔に戻って訊いてきた。
「はいっ!ブレントの愛想なさすぎな所が気になります!」
人形が叫んでる。が、やはり他の人には聞こえてない。僕にも聞こえてない、聞こえてない・・
「・・いえ、ないです。有難うございました。後は休みたいのですが部屋が・・・」
僕の部屋は使い物にならないし(今思うと刺客入り放題の部屋だったな)、別の部屋も仕掛けが有りそうで全く安心できない。そんな僕の恐れがわかっているのか、主治医は何かを伝えるような真剣な顔で僕に告げた。
「ブレント様のお部屋をご用意するよう、王太后様が直々、側近の者達に御指示を出されました。今ご準備している所です」
ホッとして力が抜けた。
主治医の言葉は、お祖母様が、この件の終息に乗り出された事、そして僕の安全が保障された事を教えてくれた。
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次話は一時間後に投稿予定です