笑顔の効果
ジャックリーズは、伺うような探るような目をこちらに向けている。
僕がピンピンしているのが意外だったのか、次にサッとお茶の入れ物に視線を向けた。
それを見た時、最後まで残っていた、もしかしたら人形の勘違いかもというジャックリーズへの最後の信頼がついえた。
「こいつよ、こいつ!ブレント気を付けて!」
案の定、人形が騒いでいる。
しかしジャックリーズには聞こえてないようで全く変化がない。
僕は怒りや落胆を押し殺して無邪気な顔を装い、にっこりと笑いかけてやる。
僕の笑顔を見たジャックリーズの顔が、一瞬引きつったように見えたが気のせいだろう。
「入ってくれ」
いつもと違い、ジャックリーズはノロノロと部屋に入って来る。
僕は無邪気な笑顔をキープしつつ、
「いや何て用事はないんだが、僕の為にいつも頑張ってくれている君を労ったことがないなぁ、と不意に思ってね、僕は主失格だね。 君が用意してくれた物になるが、このお茶を一緒に飲みながら、ゆっくり君の今後の話でもしようかと思ってね」
そう言いながらも彼をジッと観察していると、部屋に来た時から悪かった顔色が、更に青ざめた。
そして扉の方に少しずつ後ずさりながら、
「有難うございます。ですがお気持ちだけで十分です。カップも有りませんので!」
素早く固辞した。
「このカップ、まだ口付けてないから使っていいよ」
僕は尚もにっこり笑って畳み掛ける。
「いえ!私みたいな者には勿体ないです!」
必死に固辞するジャックリーズ。
僕はとどめを刺すように満面の笑みで、
「そうかい?しかしそんなに必死に断ると、お茶に毒でも入っているのかと疑ってしまうよ?」
「ひゃっ!そ、それは・・・」
途端に挙動不審になるジャックリーズ。
「ははは冗談だよ、冗談。今日はいきなりだったからね、又今度にしよう。すまないがこのお茶は下げてくれるかい?」
「わかりました!失礼します!」
ジャックリーズはあたふたとお茶を下げ、またたく間に出て行ってしまった。
バタン!と扉が閉まった後、人形の呆れたような声が室内に響いた。
「はぁー笑顔が怖いよ!ブレントーあなた、子供らしい可愛い無邪気な笑顔はどこにやったの?」
笑顔が怖い?
「その笑顔じゃ、永遠に味方は来ないわ」
おかしい・・ジャックリーズへの不信感を欠片も見せない、かわいい8才児の無邪気な笑顔だったはずだが?