野望
「野望って?」
恐る恐る訊いてみた。
「私この世界に来て、まだお城の中しか見たことないから、街に下りて観光したい!魔法の有る生活ってどんなかな~かわいい動物がいたらいいな~その後は他の国も見てみたいな~私外国に行った事なかったから、今度は絶対行きたい!」
それが野望か⁉
「・・まあ頑張ってくれ」
脱力して素っ気なく言うと、
「はーい!っと言う事で、ブレントは私のサポート兼通訳で同行決定!だから先に面倒な王妃の件ちゃちゃっと片付けちゃいましょう!」
「はぁ⁉なんだそのサポート兼通訳って、勝手に決めるな!それに王妃の件だってそんな簡単に片付くわけないだろう!」
「い~え、とっても簡単!ブレント、あなた笑いなさい!」
「えっ?わら・・う?」
「笑顔で味方を増やすのよ!」
高らかに迷宣言する人形。理解不能。
忘れていたが、人形と会話しているこの状況はとっても非常識だ。気づいてないだけで、僕はいつの間にか心の迷宮に囚われているのかもしれない・・・
遠い目をした僕に構わず、ドンドン話を進める人形。
「私のお姉ちゃん美人で優秀なんだけど、敵は少ないし友達は多いみたい。いつかお姉ちゃんにそのコツを聞いたら、笑顔と挨拶が最初の一歩って言ってた」
へぇー美人なお姉さんの笑顔かぁ~見てみたいなぁ~きっと人形とは真逆なんだろうな~などと若干失礼な事を楽しく妄想をしていたら、
「ブレントみたいに仏頂面で愛想なしじゃ邪推されるはずよね~人も寄って来ないだろうし、だからゲームに出番がなかったんじゃない?」
非常に失礼な事を言われてしまった。″仏頂面で愛想なし″その言葉そっくりそのまま返せるぞ!
「おい!君!サラッと失礼な事言ってるよね?」
同じ失礼でも僕は本人には言わなかったぞ。心の中で自己弁護する。
「だって今までブレントの笑顔、見た事ないんだもん!私の中の王子様像ってのは、ほら、こう、爽やかでキラキラッとした笑顔なのよ!あーあ夢壊されちゃった~」
おい!今までって、まだ会ったばかりじゃないか!とか謎人形に対して爽やかでキラキラッな笑顔の方がおかしいだろう!とか色々言いたい事はあるが、又も不毛な ″人形とにらめっこ″ になりそうなのでグッと我慢した。(自分でもちょっと自覚があるせいだろうなんて心の声は聞こえない!)
気を取り直して考えてみる。確かに今のままじゃ誰も助けてくれない。
「う~ん、君の姉上の言葉も一理あるな」
「でしょ!」何故か得意そうな人形。
よし!やると決めたら早い方がいいな。
「では早速、今から」
「今から?」
「やってみる、見ててくれ」
僕は呼び鈴のヒモを引いた。
しばらくして部屋にためらいがちなノックの音が響いた後、扉が音もなくゆっくりと開いた。
そして、いつもは淀みなく流れる様に何度も聞いたセリフが、今回は、ためらうように途切れ途切れ聞こえた。
「・・・ブレント王子様・・御用で・・ございますか?」
そこには従者のジャックリーズが立っていた。