お願いだよ
更新が遅くなってしまいすみません。また少しずつ復活していく予定です。
年明け、特に何も無く部活は始まった。新年初のファンファーレを発行するため、いつも通り部活はあった。セカンドの担当を任された鈴はパソコンに向かっていると、不意に嵯峨に声をかけられた。真冬だというのに嵯峨はセーターも着ずにワイシャツで、袖をまくっている。
「おい神江、今福はどうした」
「え?香来てないんですか?」
「ああ。お前なんか聞いていないのか」
鈴は首を振る他なかった。クラスが違うとなると、普段顔を合わすことも少ない。一瞬沈黙が流れた後ふいに部室のドアが開いた。そこに居たのは遅刻した部員ではなく、顧問だった。
多田は嵯峨の姿を見つけるとすぐに言った。
「今福香から話は聞いたか?」
「話?話って何ですか?」
やれやれ、と肩をすくめたかと思うと多田は一枚の紙を近くにあった奏の机の上に置いた。一番始めに読めた奏が声を上げた。市来の表情が陰った。
「退部届け?!香ちゃんが?!」
「そんな様子には見えなかったがな」
「今福あんなに新聞作るの頑張ってたのにな。あいつ文章も上手かったし」
何故か鈴には皆のように口にする言葉が無かった。しかし心の中では、香のクラスを明日訪ねてみよう、と決めていた。
自分の担当の作業が終わり、時計を見上げる。五時半。いつもよりも早い。
「よし、今日はこの辺で解散するか」
そう嵯峨が言うと奏と隼が背伸びをする。姉弟でも無いのにやることがだんだん似てきているような気がする。不思議だ。鈴、と声をかけてきたのは市来だった。
「今日は先に帰ってて。俺、ちょっと嵯峨に話したいことがあるんだ」
「は・・・・・・はい。わかりました」
とは言ったものの、鈴は部室の前でしばらく市来のことを待っていた。思っていたよりもずっと話している時間は長かった。何のことについて話しているんだろう?そんな途方も無い疑問を持ちながら、鈴は廊下で待っていた。
「あら、鈴ちゃん」
廊下に突っ立っていた鈴に声をかけてきたのは栞だった。ついさっきまで学校の自習室にこもっていたという。
「仁を待ってるの?」
「え、あ、はい、そうです・・・・・・」
「その様子じゃ随分待たされてるのね。仁は部室?私が声をかけてきてあげようか」
「い、いや、その嵯峨先輩と真面目に話し込んでるので・・・・・・」
「匠くんと仁が真面目な話?珍しいわね。男同士の話ってやつかしら」
多分、としか鈴には答えようがなかった。栞が一人で帰ろうとしたちょうどその時、部室のドアが開いて二人が中から出てきた。嵯峨も市来もあまり顔色は良くないが、少し市来の顔は明るくなっていた。
「あれ鈴、待ってたの」
黙ってうなずくと、頭を手でぐしゃぐしゃにされた。それを見届けたのか、栞は嵯峨の背中を力強く叩いて並んで前を歩いていった。鈴と市来はその少し後ろを歩いた。部長はもう決めたのか、と尋ねる栞に笑顔でうなずく嵯峨。嵯峨はひそひそと小声で話すと、栞がうんうんとうなずいた。
「香ちゃんの事なんだけどさ」
先に口火を切ったのは市来だった。鈴はふと横を向いたが、相手はこちらを見ずに前を向いたままだった。
「そっとしておいてあげて」
「・・・・・・え?そっとしておく・・・・・・って?」
「ん?言葉の通りってこと。香ちゃんが退部することはマジの話だけど、彼女には彼女なりの考えがあるから放っておいて。鈴変なとこで優しいだろ、だから香ちゃんに何か聞いたりするだろうなって思ったんだ」
「放っておこうって、さっき嵯峨先輩と話して決めたんですか。市来先輩が提案したんですか、そうしようって」
「ああ・・・・・・まあ、うん、そうだよ」
ばつが悪いのかこちらに全く視線を送ってこない。外が真っ暗のせいで表情を見ることすら不可能だった。
「奏先輩にも隼にも、そのこと話すんですか」
「多分ね」
「香が退部した原因、知ってるんですか」
「・・・・・・知らないよ」
「香っていつもいつもきちんとしててしっかり者でしたよね。香のことだから、退部するなら一言くらい言っていなくなるような気がしてたんです。でも無かったじゃないですか。嵯峨先輩にも話してなかったみたいだし」
おかしい。鈴はそう思った。市来の考えていることも、嵯峨がそれに同意したことも。どこから放っておく、なんて発想が出てくるんだ?
私は明日絶対に香のクラスを訪ねる。
「何かあるのかもしれません。私だったら同級生だし女子だし、先輩よりは香の気持ちわかると思いますから」
「まあそうだよね・・・・・・鈴は同級生で女子だし、鈴の方が気持ち分かるのかなぁ・・・・・・でも、お願いだよ、俺は鈴のために言ってるんだからね」
「先輩ずっと香と担当持ってましたよね?香が退部すること、ちょっとは悲しく思ったりとかしないんですか?」
市来は黙りこくってしまった。いつの間にか前方に居た二人は足早だったのか居なくなっていた。
「・・・・・・俺に退部を引き止める権利なんか無いじゃん」
その市来の声はひどく低い声だった。




