恋する少女
二十五日、クリスマスの日。徐々に年末も近づき、少し人々はせかせかしているようにも見えた。隼はクリスマスに奏と出かけるという事実に心を踊らせ過ぎて、前の夜はあまり眠れなかった。
集合場所に時間よりも五分程早く着いてしまった。奏は五分程遅れてやってきた。
「おはよう隼くん。今日は私なんかに付き合ってくれてありがとうね」
「いえいえ、俺もデザイン系に興味が無いってわけじゃないですから」
どちらかと言えば、奏の好きなことに興味を持ちたかった。奏の色んなことを隼は知りたかった。デザイン展は思っていたよりも混雑していた。隼でも知っているデザインやロゴマークも展示されていた。見学中は、奏のあとについていくので精一杯だった。
「すごい・・・・・・可愛い・・・・・・個性的・・・・・・」
「・・・・・・この中のマークだったらどれが好きですか?」
「これかなぁ。何かここの丸まってる部分とか好き」
奏はまるでデザインに恋をしているようだ。いいや、しているのだ。でもデザインに恋している奏が隼は好きだった。目をきらきら輝かせながらデザインを見つめたりそれについて語ったりする奏は、健気で可愛らしい。
「隼くん、クリスマスに予定なんて入れて大丈夫だった?私はそうでもないけど、クリスマスってほら皆大事にするじゃない・・・・・・ああ、あったら夜とかか」
「元から何も無いですよ。俺は別にそういう相手も居ないし・・・・・・」
「へえ、意外。隼くん可愛い顔してるし、居るのかと思ってた」
その後、適当に見つけたカフェに入った。席に座ってから、あれ、と隼は思った。少し離れた席に、見覚えのある横顔がある。楽しそうに笑っている。その前に座っているのはさっぱりとしたショートカットで凛々しい顔つきの女性だ。異性よりも同性に好かれそうな雰囲気だった。隼が言うより前に奏が口を開いた。
「あれ嵯峨さんじゃん。それに杏先輩も」
「杏先輩?」
「うん。一個上の部活の先輩。嵯峨さんの彼女」
「部内恋愛って・・・・・・結構あるもんなんですかね」
「部活にもよるでしょ。でもうちの部は比較的先輩後輩の関わりが凄く多いじゃない。それに部員と一緒にいる時間も長い。だから、好きになっちゃうのも仕方ないことなんじゃないかな」
「そんなもんですか?」
「そんなもんよ。でも早いね、もう今年が終わっちゃう。今の新聞部のメンバーもたった一年で解散だと思うと、何だか寂しいね」
「一年は本当に早いですよ。あっという間です」
「今年は女子が二人入ってきてくれて良かった。もちろん隼くんも男子一人で来てくれて嬉しかったけど。隼くん達が新入生募集する時、なかなか集まらなかったら私達も手伝うからね。全員とはいかないかもしれないけど、私は手伝いたい」
奏は夕方から用事がある、と言って別れた。隼は帰りの電車を待っている間、思わず来年の部活のことを考えていた。
俺達だけで大丈夫?俺と神江と今福で。
「隼じゃないか」
そう声をかけてきたのは先ほど見かけた嵯峨だった。隼は大して驚かずに動じた。
「さっきカフェで先輩のこと見ましたよ」
「ああ、皆川と居たのか・・・・・・どうだったか、デートは」
「奏先輩は本当にデザインが好きなんですね。というか、クリスマスに展覧会に来るほどですから。もう恋してるのと同じようなもんです」
「デザインに恋・・・・・・か。面白いな」
その時ちょうど電車が停車した。二人は電車に乗り隣同士で椅子に座ると、嵯峨が口を開いた。
「部活のことで、少し話したい事があるんだ」
「何ですか?」
「三年生は、新歓が終わった段階で引退となる部活が虹葉は殆どだ。だから次年度の事についてもう考えているんだが・・・・・・」
「そうなんですね・・・・・・」
「部長、お前にやってもらいたいんだが、できるか?」
「えっ」
「みんなをまとめる役に相応しいのは、やっぱり隼しかいないんだ。お前は何かミスやハプニングが起きてもいつも冷静だ。神江も今福も、お前にならついていくはずだ。どうだ」
嵯峨は真剣である。何故かその時、部長という立場に立つことに大して不安を覚えなかった。俺達ならきっと大丈夫。何とかなるんじゃないか、これからも。そう思ったのだ。
「わかりました。部長、引き継がせていただきます」
「そう言ってくれると思っていたよ」
きっとここで嵯峨に会えたのも、単なる偶然の出来事では無かったのかもしれない。
自分は嵯峨ほど優秀ではないが、新聞部の部長をちゃんと務めて見せる。そう隼は心に決めた。




