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虹葉高校新聞部です。  作者: 琥珀
四章 編集後記
55/66

泣顔と笑顔

 「だからお肉・・・・・・食べてくださいって。玉ねぎばっか食べてないで」

 「肉も食べてる!食べてるから!食べるようにしたから!」


  と言いつつも女子が好みそうな鶏肉を市来は皿に取った。連文祭準優勝のお祝いで、多田が焼肉を奢ってくれたのだ。おまけに多田が車で送ってくれるため、夜の打ち上げである。部員が少ないとこういう時良いことがある。


 「私三年生にまだなりたくないよー。もっと新聞作って、レイアウトやりたい」

 「それに関係した職業に就けば、いくらでもできます。奏先輩なら・・・・・・できますよ、絶対」


  嫌そうな顔をしていた奏に隼は少し目線を外しながら励ましの言葉をかけた。それを見て自然と鈴の口元は緩んだ。


 「ふふふ」

 「何気持ち悪い笑い方してんの、鈴ちゃん」

 「・・・・・・そういえば嵯峨先輩、次期部長とか決めているんですか?」


  鈴は市来の言葉を無視して食事をする嵯峨に尋ねた。嵯峨は口を押さえながらもごもごと答えた。


 「一応考えてはいるぞ。お前は誰が良いと思う」

 「わ、私は・・・・・・香が良いと思います。というか、私に聞くってことは私は部長にはならないってことですか」

 「いや別に。皆にも、先輩方にも聞くつもりでいるが」

 「勝手に私のこと推薦しないでよ、鈴。私には部長なんて務まらないよ」


  二人の会話を聞いていた香が戸惑ったように言ってきた。


 「新入生入るかなぁ・・・・・・」

 「まあ、お前らは俺達の代よりもしっかりしている。先輩が土台になるからこそ、新入生も信じてついてくる」

 「多田ティーもいつまでいるかわからないからね〜。毎年びくびくしちゃって、最早恒例行事だよねぇ」

 「三年か・・・・・・早いな」

 「将来の夢とやらが変わったから文転しようかなぁ、せっかく一年近く理系で頑張ったのにって感じもあるけどね」

 「ええっ仁と同じクラスになるとか拷問。文転しないで」

  「文転なんて冗談に決まってるでしょ。現文の順位下から数えた方が早いからー」


  市来がそう口を尖らして言うと、奏は目を丸くした。


 「ああ、そう。私は上から数えた方が早いもんっ」


  もう少しで冬休み。冬休みを明ければ、あっという間に高校一年生の課程は修了してしまう。

  帰路の車内で、すっかり疲れきってしまった鈴は眠ってしまった。八人乗りのミニバンはそれぞれの最寄りの付近に向かって走っていく。


 「・・・・・・着いたぞ。降りる奴はさっさと降りろ」


  運転席に座る多田が、車を停車させた後に後ろの方に振り返って声をかけた。市来は自分に寄っかかりながら眠る鈴を起こした。


 「俺もう降りるからね。寝るならそっちに寄っかかって寝な、おやすみ」

 「おやすみ・・・・・・」


  そう言って市来は鈴の体の向きを窓側に寄せた。その時嵯峨は振り向いてまた一部始終を見ていた。市来もこんな優しい顔をするのだ、とつくづく感心してしまった。停車した場所で降りるのは市来の他に香がいた。二人を降ろして車は発車した。


 「途中まで送っていってあげるよー」

 「良いんですか?」


  そう香が訝しげな顔で尋ねると、市来も思わず眉をひそめてしまった。


 「良いんですかって・・・・・・良いよ、暗いし。そんなに俺が頼りなく見えた?」

 「いや・・・・・・そんなんじゃないです」

 「そう・・・・・・ああやって皆で集まるのも、あと何回かしかないと思うと、何だか寂しくなってくるな」

 「そう、ですね。私もそうかもしれません」

 「え?」


  それっきり香は何も自分から話そうとしなかった。変に香の言葉が頭に引っかかった市来は、しびれを切らして口を開いた。


 「部活、転部するってこと?」

 「・・・・・・やっぱりカンが鋭いんですね、市来先輩は」

 「受験勉強とか?うちの部活何だかんだで、結構忙しいからね・・・・・・香ちゃんが決めたことだから仕方な―」

 「私、何のために頑張ってきたのかよくわからなくなっちゃったんです。何を頑張っても、認めてもらえない。認めてもらうために必死になってきたわけじゃないのに」


  香の声は不思議なくらいにしっかりしている。市来は返す言葉を探していた。正直、香が何の話をしているのかよく分からなかった。しかし、何か言葉を返してあげなくちゃ、という焦りに襲われた。誰かに認めてもらう。そんなことを市来は深く考えたことが無い。


 「嵯峨には、話したの?その、転部すること。今は部長決めも始めているしさ・・・・・・」

 「話していないですよ。市来先輩に今初めて話しました」

 「そんな大事なこと俺に・・・・・・。てっきり香ちゃんに嫌われているのかとずっと思っていたんだけど」


  自然に微笑みがら市来が声をかけると、香は非常に驚いたような顔をした。市来もまた、すぐにその笑みが顔から消えることになる。


 「嫌ってなんか・・・・・・嫌ってなんかいません・・・・・・そんなこと・・・・・・思ったことなんか・・・・・・」


  何故か香の声が震え始め、言葉が途切れる。


 「好きでした、私。先輩のことが、ずっと」


  そう言う香の目から、涙が一筋二筋と流れて頬を伝う。いつものように笑うことなど出来なかった。香は手で涙を払うと、今度は小さな声で言った。


 「ごめんなさい、見苦しいところ見せて。忘れてください、全部。・・・・・・ここからは一人で大丈夫なので・・・・・・今日はありがとうございました。さよなら」


  一方的に香は言って、こちらに背を向けて歩いていってしまった。市来は引き止めようと一瞬思ったがやめた。引き止めたところで何を言えば良いのだ。今、彼女に言うべき言葉は何も見つからなかった。


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