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虹葉高校新聞部です。  作者: 琥珀
四章 編集後記
53/66

忘れていたこと教えてくれたこと

  それから、新聞部には二日間の休養日が与えられた(要するに四日連続部活が無いということ)。


 「もはや休み無さすぎて部活って感じしないね」

 「部活じゃなくて仕事みたいなもんだよ・・・・・・」


  もし県代表に選ばれたら全国出場は決定する。県代表は一つの県から二校出ることになっている。鈴は深いため息をつき、机にだらんと腰から体を倒した。 帰りの学活も終わり、みんなは部活の支度のためにそれぞれ移動していた。新聞部は元からオフの日であった。鈴の机の前で立っていた茜は、ダンス部の部活TシャツをYシャツの上に着た。ごそごそと着替えを始め、あっという間に終わらせると、茜は乱暴にカバンに脱いだものを投げ入れる。


 「良いねぇ、そのTシャツ」

 「良いでしょー。みんなでデザインしたんだ。鈴のところも作れば良いじゃん、部T。女の先輩で居なかった?デザインとかレイアウト担当をやっている人」

 「奏先輩?でも新聞のレイアウトとこういうロゴマークとかのデザインは全然違うって」

 「でも、鈴達だって全国出場も夢じゃないんでしょ?千葉に行くかもしれないんでしょ?そういう時に着ていくのはどうかなって思ったんだけど」

 「連文祭は流石に制服だよ。Tシャツ作っても、着る時が無いじゃない」

 「うーん、なら先輩が引退の時にプレゼントするとかは?」


  引退。そうだ、先輩達は高三になったらすぐに引退してしまうのだ。いつまでも一緒に活動できるわけでは無い。いずれは鈴、香、隼の中から部長が選出されることになる。私は香や隼と協力して後輩を引っ張っていくことができるのか?そんなことを考えたことは無かった。嵯峨達のように親しみを持っているような感じもしない。

  私達はちゃんと新入生を迎えることができるのだろうか。いつかは引退してしまうこと、そのことをすっかり忘れてしまっていた。


 「鈴?どうしたの、怖い顔しちゃって。先輩居なくなると思ったら寂しくなっちゃったとか?」

 「引退するってこと、忘れてたんだよね、今まで」

 「そりゃ引退するよね。だって先輩は永遠に高校二年生なわけが無いもの」

 「そんなことはわかってるよ・・・・・・でも、たった三人だけでやっていけるのかなぁ」

 「でもそう言ったら先輩も三人じゃんか」

 「私達三人と先輩三人は全然違うんだって」

 「同じ同じ。何とかなるって」


  茜はワン、ツー、スリー、フォー、と言いながらダンスの振りの練習を始めた。時刻は四時を迎えたところだ。


 「部活、行かなくて良いの?」

 「四時半からだよー鈴が帰ったら行く」

 「・・・・・・じゃあ、帰るか」

 「ええっ鈴、王子は?王子と帰らないの?」

 「何も約束してないよ」

 「えー、顔だけでも見れると思ってたのにー」

 「私が帰るまで待っていてくれたんじゃなかったの?」


  ふてくされたように茜は言うと、乱雑に置いていたカバンを肩にかけて持ち上げた。鈴は何だか元気が出ずに、また机に突っ伏した。見かねた茜はもう時間だからまた明日、とだけ言って教室を出ていってしまった。教室には鈴だけが残った。

  茜は何とかなる、と言っていた。ダンス部と新聞部なんて雰囲気が違いすぎるし、茜に自分の気持ちなど分かるわけがないのだ。鈴は今まで先輩の前でも意見は進んで発言してきた。しかし香や隼よりも鈴はまだまだ未熟だ。今度はその意見すら受け入れてもらえないかもしれない。先輩達はいつだって優しかった。そう、いつだって。


  「・・・・・・鈴、鈴?」


  肩をふいに揺さぶられ、鈴は目を開けた。別に寝ていた訳ではなく、深く考え事をしていただけだ。顔を見上げると、心配そうな顔をしている市来が立って見下ろしていた。鈴が目を開けた様子を見て、市来は安堵のため息をついた。


 「死んでるのかと思ったじゃん」

 「・・・・・・え」

 「てっきりもう帰っているのかと思ってたよ。帰らないの?それとも誰かを待ってる?」


  きょとんとした顔で市来は尋ねてくる。何故か返事に困ってしまった。それよりもどうしてこの人は一年の階に居るのだ。


 「何で一年の階に居るんですか・・・・・・一個上じゃないですか・・・・・・」

 「何でって・・・・・・何となく、鈴いるかなぁって覗きに来た」

 「はあ・・・・・・」


  あ、と市来は何かに気がついたように窓を見た。鈴も窓の方を見ると、雨がしとしとと降っていた。慌ててカバンの中を漁るが、折りたたみ傘は入っていなかった。


 「はぁ、ついていないな」

 「本当に天気予報の通りになっちゃったね」

 「天気予報で言ってたっけ」

 「言ってたよ、夕方から雨だって」

 「・・・・・・傘忘れちゃった」

 「そんなこともあろうかと、折りたたみは持ってきていたんだ〜。良かったね、ついてるじゃん鈴」

  「もう帰るの?」


  鈴がカバンを持ちながら聞くと、市来は言葉を選ぶように答えてきた。


 「実はね、ちょっと用事があるんだ・・・・・・栞先輩に数学教えてって頼まれててさ」

 「栞先輩に?」

 「うん、だから俺の傘使って先に帰りな。待たせるの悪いから。また今度部活の時に返してくれれば良いよ」

 「・・・・・・私に貸したら先輩の傘無くなっちゃうじゃないですか」

 「・・・・・・その頃に雨はやんでることを祈ろうかな」

 「分かりました。私が早く帰れて先輩が栞先輩と相合傘をするか、私が仕方なく待って一緒に帰る。どっちかを選べってことですよね。しょうがないな、待ちますよ」

 「え、待つの」

 「私が待ちたいから待つんです。私も横で勉強してますから」

 「あ、鈴も栞先輩のところに一緒に来るのね」


  鈴はうなずくと市来の後に続いて三年の階へと降りていった。私達三人でも大丈夫なのか、さっき思い悩んでいたことを市来に話したかった。すると突然市来が言った。


 「栞先輩に言ってないんだ、鈴とのこと。だからびっくりするかもね」

 「私、やっぱりついて行かない方が良いですか?」

 「いや大丈夫だよ、ついてきて。多分栞先輩しか居ないと思うから・・・・・・それに鈴いてくれた方が気持ちが楽だ」

 「よくわかんない」

 「一個お願いがあるんだけど、栞先輩の教室入る前に俺の腕掴んでくれない?」

 「何で?!」

 「そうした方が後々楽だからさ」


  市来の言った通り栞は一人で教室にいた。そのドアを開ける前に、鈴は頼まれたことを思い出して市来の袖の裾を掴んだ。市来はおそるおそるドアを開けた。


 「ああ、仁くん。いきなり呼んでごめんね―あれ鈴ちゃんもいた」

 「こ、こんにちは・・・・・・」

 「相変わらず仲良いのね」


  市来が教室の中に入っていくと、鈴も袖を掴んだまま急いでついて行った。その様子に栞はすぐに気づいた。


 「そうだったの?」

 「そうでした。学園祭の時は違いますけど」

 「いつだったか年下がタイプとか言ってたよね、仁くん。あれは本当だったんだ」


  謎の緊張感。栞の放つオーラにはそんなものもあった。少し間を置いて市来が笑いながら言った。


 「まあでも、結局はタイプなんて関係ないんじゃないですかね」


  鈴は栞の後ろに座って、適当に自習を始めた。市来は栞と二人だけで話す時はこんな感じなんだ。やけによく笑うなぁ。つくづく鈴はそう思った。


 「・・・・・・大切にしなさいよ」

 「・・・・・・はい」


  市来と栞の小声までは鈴に届かなかった。雨はまだ降り続けていた。



 「結局五時になっちゃったね、ごめんよ」


  市来の折りたたみ傘に鈴は入れてもらって、最寄りまでの道を歩いた。


 「聞きたいことがあるの」

 「何かあった?」


  市来は前を見たまま尋ねてきた。鈴も前を見たまま口を開いた。


 「私と香と隼、先輩達が引退したら三人だけで引き継がなくちゃいけないでしょ。ちゃんとできるのかなって、何か不安になってきて」

 「嵯峨っちも同じようなことを栞先輩に聞いていたよ、一年前。それは俺も奏も思ったけど、でもね、案外思っているよりもなるようになるものなんだ」

 「本当に?」

 「俺なんか、転入してきて途中入部って感じだったけど、始めから今みたいな雰囲気じゃなかったから。でも一緒に色々活動していれば、自然とね、皆でまた頑張れば新入生も来るんじゃないかなって思えてくるんだ」


  いつになく市来は真面目に答えた。皆で頑張る。鈴は自分がただの足手まといでしかないような気がするのだ。香と隼は同い年でも違う。夢もあるし、香は嵯峨に一人で担当を任せられている。四月からの初心者同士であるのに、隼とも差を感じる。比べてしまう自分も嫌いだった。


 「私なんか、ってネガティブな考え方をしていたらキリがないと俺は思うけどな。自分の短所なんていくらでも挙げられるもんだ。でも長所ってなかなか言い出せないし、わからないだろ?たった三人でも三人それぞれ長所や短所は違う。だから、お互いに自分のできることをやる」

 「・・・・・・」

 「後、例えば鈴は俺にこうやって相談をしてきたけれど、正直こういう話は俺なんかじゃなくて、嵯峨っちや奏に聞いた方がきっと良いこと教えてもらえると思うよ。でも俺なんかじゃなくて、って考えは止めるんだ。俺を頼ってくれてありがとう。そういう気持ちって言うのかな、そんなことを忘れないでいるときっとこの先乗り越えられる」


  雨の勢いがだんだん落ち着いてきた。ずっと前を見ていた顔を市来の方に向ける。市来の左肩がびしょ濡れになっていた。鈴は傘をさす市来の腕に自分の腕を絡ませて歩いた。


 「ありがとう。色んなこと、教えてくれて」

 「どういたしまして」


  また前を向いたまま市来は微笑みながら言った。こんなに冷たい雨が降っているのに、不思議なくらい市来の腕は温かかった。


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