似たもの同士
二回目に鈴が市民館を訪れたのは、次の週の水曜だった。その時一緒に行った相手は嵯峨だった。その日は児童室にこの間の小学生は来ていなかった。二人は体育館に向かい、体育館の上にある観客席から運動をしている利用者のことを眺めていた。嵯峨と二人だけでこう行動するのは、実は四月の生徒会長取材以降無かった。
「神江はいつから小説書いてるんだ?」
「・・・・・・中一です。先輩は?」
「何で俺に聞くんだ?」
「えっ、だって・・・・・・奏先輩が・・・・・・」
そこまで口にしてはっとする。あまり話すな、と奏に合宿の際言われていたはずだった。それを悟ったのか嵯峨がため息をついた。
「まあいい。もう昔の話だ、昔と言っても高一の始めくらいだが」
「もう書かないんですか?」
「自分からやめたんだ。いずれは家の道場を継がなくちゃいけないから」
「道場やりながらでも小説は書けますよ。高一の時に何かあったんですか?」
「色々とな。その時に書くのはやめようと思ったんだ。俺も神江みたいに堂々としていれば良かったんだが。もう俺は書きたいとすらあまり思わない」
小説を書くことが好き。素敵な趣味だと思うけれど、その趣味はなかなか人前では話せない。恥ずかしかったり、馬鹿にされたりすることが怖い。小説を書くことは恥ずかしい。そんな偏見を持っている人なんて普通にたくさんいる。
「俺も文芸部を探していた時があった」
「え、それじゃあ」
「お前と同じだ。でも違う。俺達は当たり前だが、今福も隼もお前の趣味を受け入れてくれただろう。お前は色々恵まれているのさ」
「・・・・・・」
「記者としてはまだまだなところがあるけどな」
「・・・・・・やっぱり香とかは優秀ですよね。今回も一人でカコミ持ってるし」
自然と口から出た質問に嵯峨は少し黙った後、静かに答えた。
「今福は確かに経験値があるから神江や隼よりはできる。文も丁寧だ。でも、あいつは喜怒哀楽が何だか少なく感じるんだ。真面目なのは良いことだが、俺は喜怒哀楽がはっきりして明るい奴の方が素敵だと思う」
「そうですか・・・・・・」
会話が途切れた後、嵯峨と鈴は今度は図書室に向かった。図書室に入った途端、笑い声がした。他校の高校生だ。何年生かはわからないが、柄が悪そうな男女グループだった。いいや、図書室で騒ぐような高校生なんて非常識過ぎる。嵯峨はグループに近づいていった。鈴は一応トラブルにならないように嵯峨の後ろについていった。すると、グループの中の男子から声をかけてきた。
「あれ、嵯峨じゃん。こんなとこで何してんの?バイト?」
「何ー?知り合い?」
「ああ、中学同じだったんだよ」
「へぇ、あんたと違って結構イケてるじゃん、彼」
そう大きな声で勝手に話を進める男女グループの中には、嵯峨の中学の同級生がいる。ということはこのグループは二年生、鈴にとって先輩である。こんな先輩嫌だ、と鈴はつくづく思ってしまった。そう話している間も嵯峨は一言も発せず、ただ椅子に座る彼らを見ているだけだった。何だか嫌な予感がして、鈴は思わず嵯峨の腕を掴んだ。
「後ろにいる女の子は後輩ちゃん?」
「・・・・・・」
嵯峨が何も答えずにいると、嵯峨の同級生ではない方の男子がだるそうな口調で嵯峨に言った。
「で、何の用ですか?俺達と一緒にお喋りしたいとか?」
「図書室はうるさくしてはいけない所、と小学校一年生の時に習っただろう。お前達は小学校一年生以下なんだな」
「調子こいてんじゃねーぞお前」
先程嵯峨に声をかけた男子がいきなり立ち上がって大きな声を出した。この前の煙草小学生よりもこの人達はタチが悪い。男子は嵯峨の胸ぐらを掴もうとしたが、何故か男子がいつの間にか嵯峨に掴まれていた。
しかし嵯峨はそこまで意地悪な人間ではない。掴むと言っても軽く掴んでいるだけだ。
「まあ落ち着けよ。何にそんなに怒っているんだ?お前達、と呼んだことか?もしそうだったらすまないな」
男子は掴まれている嵯峨の腕を振り払おうとしたが、腕はびくともしない。
「何なんだよこいつ・・・・・・」
「なるべく大きな事にはしたくないんだ。お互いその方が良いだろう?小一だと認めるならいくらでも話していると良いさ」
「お前もうやめとけ、変に殴りかかると嵯峨にぶん投げられるぞ」
そう言って嵯峨の同級生が逃げるように席を立って図書室を出ていく。それを見て嵯峨がパッと掴んでいた服から手を離した。
「宣戦布告されたらどうするんですか?この前の小学生みたいに」
「高校生はそこまで馬鹿じゃないと俺は思ったけどな」
「え・・・・・・でも分からないですよ・・・・・・」
「大丈夫だとは思うが、帰宅したら道場で練習しとくよ」
嵯峨はやれやれ、と肩をすくめた。ふと司書を見ると、司書は安心したような顔で鈴達のことを見ていた。帰り際嵯峨は言った。胸ぐらを掴んでくる奴はほとんど喧嘩なんてしたことがない奴だ、と。
その後、嵯峨が注意した生徒達は図書室に行っても静かに過ごすようになったという。




