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虹葉高校新聞部です。  作者: 琥珀
四章 編集後記
48/66

長い一日でした

  行きは電車に乗って市民館に向かった。鈴と市来の他にもバスケ部、バレー部の担当の人が一緒に電車に乗っている。しばらくの間、鈴達はボランティアとして市民館のスタッフを務める。最も利用者の多い四時から六時の間だけではあるが。


 「まあ、スタッフの仕事はこんな感じですね。後は各自で見つけてやってください・・・・・・。分からないことがあったら聞いてくれれば対応しますので」


  図書室、体育館、児童室、休憩室、この四つの部屋が生徒達の担当となった。それぞれがまずは市民館内をふらふらと歩いて、館内の地図を頭に入れた。学校帰りの小学生や中学生、お年寄りまで様々な人が利用していた。他部活の人は部員同士でそれぞれ仕事を始めてしまったので、鈴も市来の後にずっとついていった。

  二人が児童室と書かれた部屋に入った時だ。子供は一人もいなく伽藍としていたが、市来がすぐに呟いた。


 「くさい」


  市来は児童室の中にある窓を開けて換気をした。鈴には臭いと言っている意味がよくわからなかった。


 「少しだけ煙草の臭いがする」

 「えっ児童室で煙草って」

 「窓を開けて吸ってるからあんまり臭いは残らないけど、気付く人は気付くんだよねぇ。俺もまだやめて一年くらいしか経ってないから、すごく臭く感じる」

 「吸っている小学生が居るってことですよね」

 「今は小学生から煙草を吸うのかよ・・・・・・。俺だって小学生の頃は流石に公園で遊んでたよ」

 「気づかないんですかね、ここの職員の人」

 「知らない振りしてるか、本当に気づいていないか、のどっちかじゃないかな」

 「知らない振りなんかするんだ・・・・・・」

 「煙草吸っているような小学生にまともな奴なんかそうそう居ないっしょ。口だって汚いし。注意したところで逆に何か言われて逃げられて終わるだけ」


  散乱している絵本を鈴が片していると、児童室のドアがガチャ、と開いた。二人が中に居るのを見て、入ってきた小学生は不審そうな顔をした。小学生は四人組で、一人だけ女子が混ざっていた。


 「お姉さん達、誰?ここお姉さん達入ってきちゃ駄目なんだよ」


  流石、小学生は思ったことを何でも正直にぶつけてくる。鈴はあわてて事情を説明した。


 「私達はこれからここのスタッフとして働くことになったの。ちょっとの間だけどよろしくね」

 「へぇそうなんだ」


  四人組はそれだけ言うと、もう何も気にせずに鞄からゲーム機を取り出した。すると市来が言った。


 「吸っちゃ駄目だよ、バレてるからね」

 「何を?」

 「煙草」


  四人組は顔を見合わせた。市来の顔は全く笑っていなかった。四人組のうちの一人の男子が口答えした。


 「煙草なんか吸ってないじゃん。ゲームしに来ただけだよ」

 「いや、君たちから煙草の臭いがぷんぷんするんだ。俺わかっちゃうんだよねぇ、煙草キライ星人だからさ」

 「変なのー、臭いがわかるとか、お兄さん犬みたい」

 「とりあえず吸っちゃ駄目だからな。吸いたいんだったら喫煙室はちゃんとあるんだからそっちで吸いなさい」


  何を言ってるんだこの人は、と鈴はつくづく思ったが、小学生には少し効果があったようだ。


 「そんなところで吸ったらおっさんにバレ・・・・・・」


  そこまで言いかけて男の子は口を手で押さえた。はぁ、と市来はため息をついた。ひとまず二人は児童室から出ることにした。


 「お姉さん、出ていくついでにこのゴミ捨ててきてー」


  そう女の子が言った瞬間、市来が少しイラついた。鈴はそれに気づいてすぐに首を振った。


 「ちゃんと自分でゴミ箱に捨ててね。そのくらいのこと、皆ならできるでしょ?」


  そう言ってドアを閉めると、わざとらしい大きな声が聞こえた。


 「まじでうっざ、使えな!!」


  二人は無言で別の部屋へと向かう。いきなり市来が笑いながら言ってきた。


 「嫌だなぁ、最近の悪ガキは。あんなにタチが悪いとは思ってなかったよ。そんなに気にすることないよ、鈴」

 「いや気にすることないってその台詞そのままにあなたに返したいんですけど」


  笑いながらも市来はかなり顔がイラついていた。あんな利用者がいては職員側もため息ばかりが出ることになるのは当然だ。帰り間際に、児童室を覗くとお菓子のゴミで散らかっていた。


 「何ということだ・・・・・・これは宣戦布告だな」

 「さっきの子達がやったんですかね・・・・・・」

 「きっとそうだよ・・・・・・多分次会った時はお兄さんお姉さんなんて言われないよ・・・・・・おっさんおばさんになるよ俺達」

 「それは地味に心に刺さる・・・・・・」


  帰りはバスだった。バス停で待っている間、他部活の部員からも今日一日の話を聞いた。


 「図書室に結構うるさい人が居たの。他校の高校生かな?注意しても全然静かにしてくれなくて」

 「体育館の方は使ったものを元に戻さないで置きっぱなしになっていたよ。私らが行った時にはもう帰った後だったけど」

 「休憩室はお年寄りが比較的多くて、少しお話相手をしたら、すごく満足そうにしていたよ」


  改善すべきところが多すぎる。でもここで皆で頑張れば、市民館の人は喜んで体育館利用に許可を出してくれるだろう。そして新聞部も、この内容をトップにして連文祭に発表する新聞を発行できる。要するに成功すれば良いことづくめなのだ。

  帰りのバスの中で、鈴はぼーっとしながら流れていく窓の景色を眺めた。何だか今日は朝から変に疲れていた。運良く席に座れたというのもあり、そのまま眠ってしまいそうだった。


 「今日は長い一日でしたね」

 「まあ俺にとっちゃここ最近はずっと長い一日だったよ」


  すぐ隣に座っている市来が嵯峨にLINEを飛ばしながらぼやいた。ずっと長い一日だった?


 「ずっと長い一日だったってどういうことですか?」

 「えーそれ俺に聞くかなぁ」


  市来は一瞬スマホから目を離して鈴の方をにやにやした顔で見てきた。市来先輩、と言おうとして鈴は口をつぐんだ。下の名前で呼んで良いのだろうか。流石に先輩とこういう関係になったことは経験上まだ無い。仁先輩?そう呼んでいいのか?


 「どうかした?」

 「何て呼べば良いですか?その、プライベートで」

 「まあ、俺は下の名前で呼んでくれたら嬉しいけど。でも別にそんな強制はしないよ。それから・・・・・・」

 「何ですか?」

 「タメでいいよ、プライベートは」


  プライベートプライベートと言っていると何だかおかしくなってくる。いきなりタメで話すのはなかなか難しいことだった。奏先輩のように、名前を呼べば良いのだ。何だか気はずかしいが。


 「あ、着いた」


  他部活の部員達と別れ、二人は部室へと向かった。廊下を歩いている時にさらっと市来は言ってきた。


 「今日一緒に帰ろ」

 「皆にバレちゃいますよ」

 「良いよ別に。さっき鈴が言ってた噂とやらも、気にしないで堂々としてれば良いんだよ。もし俺が振られたらまた変わるけど、そうじゃないんだから」


  そう言って市来は鈴の頭をぽんぽんと叩いた。部室に入ると、おかえり、と奏が声をかけてきた。香が市来に尋ねた。


 「どうでした?」

 「どうだったも何も、悪ガキばっかでちょっとカチンと来ちゃったよ。心を広くした方が良いよ、あれ」

 「心を広く・・・・・・ですか」

 「こっちは何やってたの?」


  すると嵯峨がホワイトボードを指さして言った。そこにはカコミ記事の内容について書いてある。


 「トップ以外の内容について練っていた。セカンドにはいつも通り神江ノベルを載せることも決めた。で、カコミは"ファンファーレレビュー"ということで、ファンファーレの生徒からの評価についての内容にした。市来はトップの方で忙しそうだから、今福に調査はやってもらっている」

 「香ちゃんごめんね、何か」


  すると香はすぐに首を横に振った。流石香だ。嵯峨からも頼りにされているから、一人で担当を受け持つことができている。それに比べて鈴は誰かと一緒でないと、まだ記事を持つことはできていなかった。


 「連文祭まであと一ヶ月・・・・・・か」

 「カウントダウンでも作る?」

 「そんなもの作ってる暇あったらスクープを取れ!」

 「嵯峨さん、結局トップ記事は誰が持つの?」

 「市来はゲッターとしてトップ確定だが・・・・・・」


  嵯峨はそう言って市来の隣に立っている鈴をじっと見つめた。迷っているような顔だ。え、と鈴は思わずつぶやいた。


 「・・・・・・セカンドは俺がやる。隼と神江でトップを持て、皆川はセカンドを手伝ってくれ」


  ちょうどその時、六時半を知らせるチャイムが鳴った。下校時刻だ。新聞部は活動を終え、解散となった。


 「鈴、帰ろうー」

 「え、あ、はい」


  その様子を見て奏が口をはさんできた。


 「何?仁、今日は鈴ちゃんと帰るのー?ずるーい」

 「今日は鈴ちゃんと帰るのって・・・・・・俺はいつも一人で帰ってるよ」

 「いつだかは栞大先輩と帰ってたじゃーん」

 「いつの話だよそれー」


  市来はやはり栞に気に入られていた時があったのだ。そんなこと考えていて気づいた時には右手が握られていた。帰ろう、と言って市来は鈴の手を引っ張った。

  長い一日、帰り道だけはあっという間だった。すっかり日が落ちてしまった最寄りまでの道に生徒はたくさん歩いていたが、二人が手を繋いで帰っていることには誰も気づかなかった。その日鈴は初めて、仁先輩、と呼んだ。


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