親切な人
別荘に戻ったのは夕方四時半頃だった。ロビーのソファに座ってスマホをいじっていると、市来が夜にゲームをやるから先生もやろう、と多田に誘っていた。
「お前らで勝手にやってろ」
「えー先生いた方が絶対面白いと思うんだけどな、俺。それにあれ先生の思い出の品とかいうやつじゃないの?」
「何が思い出の品だ。あんなホコリかぶったもの」
「誇り?」
市来はなおもしつこく誘いながら、多田の後を追いかけていってしまった。鈴だけ取り残されたロビーに今度は奏と香がやってきた。
「鈴ちゃん、コンビニ行くけど何か買ってほしいものとかある?」
「あ、私も行きます!散歩ついでに」
コンビニへ行って買い物をしている時に、コンビニに見覚えのある男子集団が入ってきた。見覚えがある、またそんな感覚だ。
「あ、この前の新聞部さん」
ああ、そうだ。初めてここへ来た時に声をかけてきた新聞部の人達だ。奏がこんにちは、と挨拶をした。店から少し出たところに、黒いバンが停まっていた。この人達が乗っていたから、通りで見覚えがあったわけだ。
「上まで坂登るの大変でしょう。あの白い別荘ですよね?僕らも高台のペンションに泊まっているんですよ。良かったら送っていきますよ、近くまで」
「え、良いんですか?!」
親切に提案してくれた男子に向かって奏は驚いたように声を上げた。ありがとうございます、と香もお礼を言って、その黒いバンに乗らせてもらった。鈴はじっと後ろで様子を見ていた。
「君も乗るでしょ?」
親切な人。もう奏も香も車には乗ってしまっている。後ろで隠れるように突っ立っているのは鈴一人だけである。
"ああいうのは絡むと厄介だ"
そう言っていた嵯峨や、しつこく誰か問うてきた市来のことをふと思い出した。鈴はそう思った時、別荘の方角に向かって走り出した。すぐに追いつかれ、鈴は腕を強く掴まれた。
「やめて!離してください!私自分で帰りますから!」
「でも置いてっちゃうんだね、友達のこと」
その声で体が固まった途端、鈴は口を塞がれ叫ぶことができなくなった。肘で身体を突き放そうかとも思ったが、身体がこわばってしまって言うことを聞いてはくれなかった。
この人達は高校生なんかじゃない。それにきっと新聞部なんかじゃない。バンのトランクに入れられ、バンは発進した。別荘とは全く別の方角へ向かって。




