先輩の恋愛事情
合宿三日目は下田を散策した。三日目はほとんど合宿感が無かった。もはやただの観光旅行である。一同はロープウェーに乗りたいというだけで寝姿山展望台に向かった。ロープウェーは満員で暑かった。思っていたよりもスピードが速い、と隼はずっと言っていた。
「すごい、何か意外と広いのね」
「恋人の丘があるよ、奏」
「縁結び愛染堂っていうのもあるよ」
市来と奏は顔を見合わせてくすくすと笑った。この二人の関係も鈴には未だによくわからない。しかし恋人の丘は鈴も行ってみたい気がした。
「行くか」
「えっ嵯峨っち行くの、恋人の丘?!縁結びたい相手なんて居たんだ〜」
「秘密だ」
「何それ怪しすぎ!」
新聞部は不思議だ。気づけばいつも嵯峨が先頭に立って歩いている。一人で歩く嵯峨の隣に駆け寄るように隼が並んで歩き、その後ろを鈴と香が歩く。いつも決まって一番後ろは奏と市来である。奏と市来は喋る口が止まらずにずっと喋っていることが多い。
「ここが恋人の丘か」
龍愛の鐘、と彫られたジングルベルのような小さな鐘が海に向かって設置してあった。二人でこの鐘を鳴らした後に、周囲の柵にそれぞれの名前を書いた南京錠取り付ければ永遠に結ばれる。そんな言い伝えがあるようだ。なるほど、周りの柵にはたくさんの南京錠が取り付けられている。そういえば、と嵯峨が口を開いた。
「俺、ここで去年、栞先輩と南京錠を取りつけた」
「ええっ」
後輩達に加えて、何故か奏と市来までもが声を上げる。いきなりの告白である。
「・・・・・・という夢を見た」
「何だよ夢オチかよ・・・・・・でも実際嵯峨っち取り付けてたよねー先輩と」
「そうだよ!すっかりあれからのこと聞いていないけど、どうなったの?今」
「まあ」
嵯峨が曖昧な答え方をしたせいで、奏と市来は二人で迫った。少し恥ずかしそうにしている嵯峨を見たのは後輩達は初めてだった。
「今も?今もまだ続いてるの?」
「・・・・・・ああ、うん・・・・・・」
嵯峨は一つ上の先輩と付き合っているらしい。栞先輩ではないが、新聞部の先輩だという。鈴は奏から聞いた話を思い出し、変に寂しく感じてしまった。
"嵯峨さんは何だか鈴ちゃんのこと気に入っているような気がする"
「鈴ちゃん、何寂しそうな顔してんの?」
「してないですよ」
「してるってー」
「・・・・・・嵯峨先輩に彼女いることが意外過ぎて落ち込んだんです」
「どういう意味だ神江!」
部内恋愛ということか。憧れるなあ、と思うものの今の新聞部ではなかなか難しそうだ。来年の後輩に期待をするか。
嵯峨は一人で鐘を鳴らした。その様子を奏がカメラで隠し撮りをした。




