この場所はまるで
市来の言う森の入口前にタクシーは停車した。森の中を覗くと、奥の方は既にもう見えない。何百匹いるのかと思うくらいの蝉の鳴き声が響き渡っている。どうやら一本道のようで、道は少し開けていたが綺麗に保道されているわけでもなかった。
「まじで熊出てくるんじゃないの」
「市来先輩熊見たことあるんですか?」
「無いです、少なくとも俺が生きている間は」
森の奥へ奥へと四人は進んでいく。ふと後ろを振り返ると、もう入口が見えなくなっていた。鈴は首を振って正気を取り戻し、前へ向かって歩いた。
「おい市来、皆川はどこにいるって言っていたか?」
「何か、木が急になくなってめっちゃ開けたところに出るって。そこにいるって言ってたよ」
「異世界にでも迷い込んだような言い方だな」
木々で遮られていた太陽がようやく顔を覗かせてきた。太陽は既に橙色で、森の中をオレンジ色に染める。森が開けたところに足を踏み入れた時―思わず声が漏れた。
「わあ」
そこの空間だけが本当に異世界のようだった。背高のっぽの木々が、その場所だけ切り取られてしまったよう。地面は細かい砂地になっていて、さっき通ってきた道が嘘みたいに思える。その砂地の上にぽつんとログハウスが建っている。ログハウスの前には木で出来たテーブル、それから椅子がいくつか置いてあった。
鈴達は黙ってしばらくその光景を眺めていた。すると、ログハウスの陰から奏と香が顔を覗かせた。
「やっと来たね、皆。ここ皆にも見せたかったの。とっても素敵な場所じゃない?私達が道に迷ってたら、偶然見つけたの」
そう奏が話すと、ログハウスの中からエプロンを着た一人の女性が出てきた。女性は微笑んで、いらっしゃい、と一言だけ言った。
「ここは一体・・・・・・」
「私のアトリエ・・・・・・兼お店っていうところです」
女性は少し恥ずかしそうにそう説明すると、中へ入りますか、とログハウスの戸を開いて見せた。鈴達は引き込まれるかのように中へと入った。
「凄い・・・・・・」
全てこの女性が作ったのだろう。小物から大きな飾り物まで、色々なものがまた綺麗に飾られていた。ガラスの骨董品は思わず魅入ってしまうほど、綺麗だった。一気にお客が二人から六人になると店内はぎゅうぎゅう詰め状態になった。
「このお店、ファンファーレに載せたい!私!」
「いきなり何だよ皆川・・・・・・そんな大声出して」
女性は外の椅子に座って待っていてください、と言うと店の奥の方へと向かってしまった。椅子に座ると奏が得意そうな顔をして嵯峨のことを見た。
「一つのことにとらわれるな、よ。この森が永遠に続いているなんて、勝手に判断してはダメということ。現にこんな素敵なお店があるんだもの」
「・・・・・・全く、迷って偶然見つけたくせによく言うな」
「本当は迷ってたんじゃなくて、僕達に見せたかったってことだったんじゃないですか?」
そう隼が奏をフォローするように言ったが、嵯峨はため息をつくだけだった。どうしたの嵯峨さん、と奏が不思議そうに指さして尋ねた。
「だからさっき船酔いで死亡してるって言ったでしょ。その後すぐタクシーに揺られて三十分。ただでさえ機嫌が悪いんだから」
「せっかくのスクープなのにい」
女性がお盆にコップを乗せてやってきた。そして木のテーブルにコップを置いていった。紫のような色のジュースだった。ぶどうジュースかな、と思い匂いを嗅いでみるが、匂いだけでは判断出来なかった。
ジュースを口にすると、市来が叫んだ。
「何だこれっ?!すっぱっ!!」
「・・・・・・そうですか?私はこの味好きですよ。これは・・・・・・ブルーベリーですか?」
と、香が尋ねると女性は黙ってうなずいた。




