遭難疑惑?
またしばらく行く宛もなく市来と二人で海岸沿いを歩いた。歩道の脇に黒い車が停まっていた。二人はその横を通っていく。特に意味もなく車内に視線を送った時、鈴はどこかで見覚えのある人達だと思った。
「うーん・・・・・・」
「鈴ちゃん、どうしたの」
「いや、変な感覚なんですけどね。さっき後ろに停まってた車に乗ってた人達、どこかで見覚えがあって」
「何、鈴ちゃんもここら辺出身だったとか言っちゃう感じ?」
「私は生まれから東京ですから。でも何でだろう、こんな所で見覚えがあるなんて」
「変な感じだね。女の子?」
「いいや、男の人」
「ふーん・・・・・・見て見て、船だ」
市来は話題を変えるかのように海の方を指さした。確かに船が一艘浮かんでいる。また少し歩くと小さな港があり、カモメが頭上を飛びまくっていた。さっき見かけた船も港に向かっているようだった。二人の足は自然と港へ向かう。港の近くには市場もあった。
「・・・・・・うおっ美味そう」
「そろそろお肉が食べたいところですね」
「今夜はバーベキューって嵯峨っちが言ってたよー。良かったねん」
「まじですか、やったぁ!―って嵯峨先輩?!」
先ほど見かけた船から、見覚えのある男子二人が降りた。お礼を言っているのかお辞儀をしている隼と、死んだような顔の嵯峨だった。嵯峨はこちらには全く気づかずに、隼が戻ってくるのを待っていた。市来が走っていってしまった。それでも先に気付いたのは隼だった。
「あ、市来先輩と神江」
「良いなぁ。隼、船に乗ってきたの?俺も乗りたかった。嵯峨さんどったの?」
「ああ・・・・・・市来か。いや、もう船には乗らん・・・・・・もうこりごりだ・・・・・・非常に気分が悪い、ああ」
「大丈夫ですか?嵯峨先輩めっちゃ顔色悪いですよ、真っ白ですけど」
隼は苦笑いをすると、市来と鈴に向かって言った。
「結構穏やかな乗り心地の船に見えたので、頼んで乗せてもらったんですよ。もうすっごい絶景で。写真後で見せます!そしたら嵯峨先輩が」
「穏やかな乗り心地に見えただけってことだったんだ。全く、情けないよ嵯峨っち。まさか船上でリバースしてないだろうね」
「そんな失態は犯していない・・・・・・」
とりあえずどこか座ったらどうですか、と隼が提案をし歩道にあったベンチまで三人は連れていった。すると不意に嵯峨のスマホの着信音が鳴った。
「嵯峨っち電話鳴ってるよ」
「悪い、お前出てくれ」
「しょうがないな・・・・・・もしもし、あ、奏?熊にでも襲われたの?・・・・・・え、迷子?道に迷った?ええ・・・・・・それは困ったねぇ。嵯峨っちならね、今船酔いで死亡してるとこ。そう、一緒にいるよ、俺達四人とも。えー、迎えに来いってどうやって行けばいいわけ?何か目印とかないの?海が見えるとかさ・・・・・・森?森にいるの?」
「・・・・・・本当に遭難しやがった、皆川の奴・・・・・・。今福がいるから大丈夫だと思っていたんだが・・・・・・何で森になんか入ったんだ、あいつらは・・・・・・」
隼がスクープは何をとった、と尋ねてきた。暇を持て余し始めた後輩は適当に話を始めた。鈴が市来の母校を見つけた、と言うと隼は驚いた顔をして市来のことを見た。嵯峨も偶然にも程がある、と呟いた。
市来は電話を切ると、こちらに向き直った。
「森の入口の名前はわかったよ。ここから歩いて一時間かかるらしいけど、どうする嵯峨っち」
「一時間・・・・・・俺達の足でそこを探しに行くのも無理がある、タクシーでも拾おう」
結局タクシーを拾うというよりも、タクシーを呼ぶことになった。何分待っても一台も走ってこない為、嵯峨は痺れを切らして多田に連絡をした。すると多田はタクシー会社の番号を教えてくれたのだ。
電話するとすぐにタクシーはやってきた。助手席に嵯峨が座り、後部座席は鈴、隼、市来という順番で座った。
「もうすぐ夕方になるぞ」
「でも何で森の中なんて入ったんですかね」
隼が不思議そうに聞くと、嵯峨は知ったことか、とため息をついた。
「皆川の考えていることは謎だ。・・・・・・どのくらいで着きますか」
「ええと、道はすいてますから、三十分くらいで着くと思いますよ」
嵯峨はため息をついて、目を閉じて眠ってしまった。




