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逆行せし青春  作者: ぶたたけ
逆行の始まりと社会の崩壊
4/4

ミッシェルは逆行が始まって直ぐに50歳も歳の離れた奥方と別れ独り身となった。

若き妻は晩年を家族と過ごしたいと泣いたらしい。

ミッシェルは妻に生活に困らぬだけの金を渡し、彼女を故郷の上海に返した。

元来孤独に生きられない男であるミッシェルは、妻を故郷に返した翌日に土地や家財を売り払い、ヴァルダンの家に転がり込んだ。

それから今まで、彼は彼の家の愉快な居候で有り続けている。


以降に記すのは彼らと同居時代のヴァルダンの生活を記録したものである。

筆者は虫に擬態した生体カメラによる陰ながらの取材を行った。

今に残る映画で残る彼ではない、生身の彼の記録だ。

貴重な彼の記憶を読者だけに紹介しよう。


朝8時、住民達は同じテーブルに集まり朝食を取る。

家長ヴァルダンの信念で、朝と夕は家族で顔を合わせ食卓を囲むと決めて居る。

この決まりはヴァルダンの生家で代々守られてきた教えである。

共働きであった両親が家族の時間を作る為の決まりであった。


エヴァンス家の朝食はリエコが作る。

料理好きであることや、彼女が日本人で繊細な味付けが解るのも合間ってエヴァンス家の食事はリエコが作っている。


エヴァンス家の食事は豪華である。

その日の食事は日本食であった。


メニューは海藻入りのミソスープ、ライス、カブのピクルスに焼きサーモン。

それぞれリエコが日本から輸入したという美しい皿に綺麗に飾られている。


エヴァンスは日本の食事が好きである。

役作りの為ダイエットを始めた時、スタイリストに日本食を勧められたことがキッカケで、日本食を愛する様になる。

彼が主演の映画「ソロモン悪魔派遣会社」の日本試写会でのインタビューでも好きなものとして日本食を挙げている。

味の繊細さや美しさが彼の好みなのだと言う。

白を基調としたダイニング、部屋の色調と同じ白のテーブルに色とりどりの器が並ぶ。


彼らはそれぞれ決まった椅子に腰掛ける。

ヴァルダンはもちろん一番上座である。

全ての者が座した時、家長ヴァルダンが手を合わせ一礼する。

皆も家長に倣い同じく手を合わせ一礼をした。


食事を作るリエコに感謝を称さんが故の慣習である。


食事が終わればヴァルダンとミッシェルを除く住民たちが分担をして家事をする。


ヴァルダンは自身を養ってくれる恩人である。

その思いから彼らは家事を自ら率先して片付ける様になった。

ミッシェルだけは家事なんぞスターの俺には似合わないと言って家事をする事なくヴァルダンとチェスをする。


ミッシェルが亭主関白であるのは有名である。

ミッシェルが50歳の時に出版した自伝“大龍伝”にも亭主関白を裏付ける文章が記されている。


“俺はアクション俳優だ。

誰もが名を知る俳優だ。

世界中の若造達の前に立って男の格好良さを教えなきゃいけない。

真の男で居る為には家事なんてするな!

女の仕事は女にさせろ!

女に媚を売る男は男じゃねえ。

俺は男の仕事をして来た。

俺の身体で家族を食わした。

だから俺は成功したんだ!”


アクション俳優として頂点を極めた男だからこそ言える言葉であろう。

男として自身の仕事を完璧にする為の信念である。

女性には不快だろうが、これも彼のこだわりである。

ただ俳優で無くなった彼には無用だと言ってしまえばそれまでなのだが。


若者達が家事を終えると、居間に全員が集まって映画を見る。

誰が決めた訳でもないが、映画を愛した彼らは毎日一つは皆で集まり映画を見る。


今日の映画は「天使の化石」である。

ヴァルダンが出演し、リエコの師リック・チャンが特殊メイクを担当したSF映画の奇作である。


2030年アフリカにてある化石が発見された。

何の化石であるかは公表されなかったが、化石の正体が解明されれば、人類史が覆されるらしい。

世紀の大発見に世界は沸き立つが、研究の為アメリカの専門チームの元に化石が輸送されたその日の晩にラボが爆発する。

化石は消失、施設に居た研究者は全て死亡、生き残った研究者も殺害され、新たな発見も煙に消えた。

ロサンゼルス郊外に事務所を構えるフリーライター マイクの元に覆面の男と奇妙な青年が訪れる。

男は“天使の化石”を探して欲しいと言ってマイクに1枚のメモと、青年を託す。

果たしてマイクは化石を見つける事が出来るのか。

そして“天使の化石”の正体とは⁉


スペースファンタジーが主流だった当時のSF映画界に過去を主題とした今作が発表されて、ギーク達は皆度肝を抜いた。

極度に狭いSFというジャンルにこの怪作は風穴を開けたのだ。

残念ながら“天使の化石”は名作ではあるものの、ヒット作ではない。

制作費は5000万ドルとハリウッド映画としては低額であったが、興行収入は7000万ドルと制作費を僅かに上回るだけである。

しかしこの映画は、フラスニク・バーグやアロス・キャメルをSF映画に誘った指針なのである。






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