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逆行せし青春  作者: ぶたたけ
逆行の始まりと社会の崩壊
1/4

ヴァルダン・エヴァンス。

彼はかつて世界の誰もが知る、ハリウッドのスターだった。

切れ長の目に深緑の瞳、鼻筋はスッと通り唇は薄い。

小麦色の肌は程よく付く筋肉をより際立たせる。

小麦色の肌は彼の健康的な美の象徴であった。

絶世期彼は悲劇、喜劇、ラブストーリー、サスペンス、ホラー、ジュブナイルあらゆる映画に出演し、その全てに成功をもたらした。

その栄光は老年においても続き、ハリウッドの主として健在し続けた。


しかしその栄光も終わりを迎える。


その時はヴァルダンにとって87回目の誕生日であった。

息子や娘、孫はもちろんひ孫や俳優仲間達も老若男女一同にハリウッドの自宅に集まり彼の誕生の瞬間を祝福しようとしていた。

30畳にも及ぶ広いリビングは人でひしめき合い祝いの時を皆待っていた。

ヴァルダンの前のテーブルにはひ孫たちの持って来たケーキが置かれている。

大きな四角のチョコレートクリームケーキに“ひいおじいちゃんおたんじょうびおめでとう”とこれもまたチョコレートで書かれている。

ケーキにはきっかり87本のロウソク。

家族や仲間たちがハッピーバースデイを歌う。

歌が唄い終わる時、彼は大きく息を吸い勢い良くロウソクを吹き消す。

全部のロウソクが消えた時、悲劇が始まった。

彼が吹き消した蝋燭の火は今から消えてゆく未来達の命だった。


世界が異変に気付くのはそれからすぐだった。

ヴァルダンの誕生日に出産予定日だった子供が一人として産まれなかったのだ。

この事態に異常を感じた医学界はすぐに原因の究明に取り掛かった。

しかし原因が解明される事はなく、1ヶ月の時が過ぎた。

一ヶ月後には事態がもっと深刻であったことが、世界中で明白に知れ渡っていた。

妊婦の臨月で膨れていた腹部はへこみ、生後1ヶ月の子供は皆死滅していた。

WHOは世界に向けて声明を発表した。

人類全体に対し身体の逆行現象が起きている。

原因は不明、未だ調査中であると。

その声明は世界中を奈落へと突き落とした。


悲劇はヴァルダンの元にも訪れた。

先月誕生日を祝ってくれたひ孫の一人が死んだのだ。

母であった孫はその子が死んだその日に自殺した。

孫はヴァルダンを見て映画の道を目指していた。

彼女は去年ようやく脚本家としてデビューを果たしたばかりだった。


悲劇はそれだけで留まらなかった。

映画界でも自殺者は絶えなかった。


二枚目俳優のマイク・ローリンズは愛妻家であり誰よりも子煩悩であった。

彼には一度離婚歴があった。

初めての妻は高校生時代の同級生であったが、彼女は若い男と不倫し彼の資産の大半を貢いでいた。

マイクは彼女に100万ドルの手切れ金を渡して離婚するが、彼の精神は離婚までの騒動でズダボロであった。

その時に出会ったのが今の妻であった。

彼女はバーの店員だった。

連日やけ酒にくれるマイクの良き理解者として彼の愚痴を聞き、時には家に訪れ手料理まで振舞った。

マイクは良き伴侶と結婚を果たし、先月子供を設けたばかりだった。

幸せの絶頂にあった彼は、愛を失うことに耐えられなかった。

彼は妻と共に自宅で死体となって見つかった。

ガス自殺だった。


また、己の運命に耐え切れず命を絶った者も居た。


弱冠16歳にしてオスカーの助演女優賞を獲得したケリー・コートニーは挫折を知らない映画界のサラブレッドだった。

父にハリウッド低迷期に生まれた金の卵レネニー・コートニー、母に元プレイメイトで女優のデュネス・モンローを持つ彼女は両親の加護を受け、鳴り物入りで映画界へ踏み入れた。

両親の後光は道ゆく障害を全て取り除いてきたが、ただ一つこの障害だけは取り除いてやることは出来なかった。

初めて彼女がぶち当たった壁は、絶対的な死の壁。

彼女は初めて挫折した。

それが最期の苦しみであった。


次々と自殺者が出る中、映画界は存続の危機に立たされた。

若い演者が次々と辞めて行ったのである。

彼らには時間が無かった。

限られた人生を謳歌する為彼らはほんの少しのあぶく銭、しかし庶民からすれば膨大な資産を持って故郷へと帰っていった。

逆行から10年、映画界はわずかそれだけの歳月で崩壊した。


その間にもヴァルダンの家族は数を減らしていた。

逆行の原因は未だ見つからず、止められる術もない。




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