おっさん連行される
「・・・」
「・・・」
お互いに無言で歩く。とにもかくにも歩く。
フォルカと名乗る謎の猫耳女性に、森の中を連行されている。
正直、自分の名前を思い出せないショックやら、猫耳ショックで現実感が無いまま歩かされているのが現状だ。
流石にずっと無言で歩いているのは気が滅入る。
思っていた疑問を聞いてみることにする。
「あの・・・」
「・・・何だ?」
「質問なのですが、後どれくらいでその、街に着くのでしょうか?」
「・・・貴様はヒューマンにしては足が速い。妙な靴を履いているにしてもな。これならば後30分も掛からないだろう」
「そうですか。・・・わかりました、ありがとうございます」
「・・・礼などいらん。気にするな」
「・・・」
年末に飲酒検査やってた警察官の人のほうがもっとマシな対応してくれてたなぁ、と思う。
言わないけれども。
あの謎の巨大カマキリから辛くも生き延びた後、自分は所謂、不法入国的な扱いで警察的な場所へ連衡されると告げられた。
どうやらこの森近辺は彼女たち「獣人族」(彼女のようにハーフも含め完全な獣の者たち)が支配する地域で、自分のような人間(ヒューマンと呼ばれてる)は入ってはいけないらしい。
彼女の数少ない言葉から連想される、戦争、敵、奴隷、等からどうやらまったく歓迎されていないのは確かなようだ。
宜しくない場所へ宜しくないタイミングで来てしまったらしい。
地味に泣きたい。
まぁ、この先どうなるかはまったくもって不明だけれど、彼女が居るうちはさっきの化け物とも遭遇していないので少し前向きに考えようと思う。
それに、さっきから不思議なのは、森を革靴で歩いているのに息切れしたり足が痛くなったりしなくなっていることだ。
フォルカという猫耳の彼女にも言われたが、それなりに深い森を彼女のようにスイスイとまでは行かなくても、それなりの速さで着いて行けているのがおかしい。
自分で言ってなんだけれど、いくら営業職で歩くのはお手の物とは言え、森を長時間歩くなんて中年のおっさんにはかなり辛い。
それが、フォルカと行動するようになってからは疲労感も少なく、足の痛みも感じないのでそれなりに森を歩けている。
彼女が何かしてくれていたのか、それとなく聞いてみたが「何もしていない」とありがたいお言葉を頂いたので、これは純粋に自分に何かしらの変化が起こっているのだろう。
まったく見当もつかないが。
これ以上考えても結論は出そうにないので、とにかく歩くことに専念する。
彼女たちの街に着いたらどうなるのか不安である。警察的な場所とか言っていたので取り調べされたりするのだろうか。