おっさん大ピンチ
謎の森林で一人きり。
持ち物は役に立ちそうもなく、携帯も圏外。
あれ・・・?俺って終わってるよね?
携帯が圏外となった今、自分が出来ることは少ない。
地方育ちとはいえ、サバイバル経験があるわけでもない。
山で遭難したら上に登れとは聞いたことがあるが、残念ながらここは平地の森。
四方に森の切れ目は無く、どこかの映画で見た神様の森みたいな雰囲気。
デカイ猪か、犬神でも出そうだなと、現実逃避気味に考える。
そのままどれくらい突っ立ていただろう。
腕時計を見たわけではないが、そんなに経っていなかったと思う。
―――ガサガサ
そんな音が後方から聞こえてきた。
その音が聞こえた瞬間、俺は何故か助けが来たと思った。
あぁ、これで助かったと。
後から考えれば、現実逃避の妄想みたいなものだが、この時は真剣にそう思っていた。
なので俺は、何の疑問も抱かずに振り返り、
「すいませーん!・・・道に迷ったので助けてください!」
と、叫んだ。
そしてその返事は、木の切り倒される音と、「キシャー」とまるで出来の悪い怪物映画の音声を発する、大きなカマキリみたいなのからもたらされた。
「・・・・・・・・・」
まったくもって想定外の事態だ。一瞬で思考はパニック。
でか過ぎるだろ!
何のゲームだよ!
カマキリって肉食だったような?
革靴じゃ逃げれなさそうだな
これ俺死んだんじゃね?
すっかり逃げだす機会を失い、そのカマキリが目の前に来るまでただ突っ立ていた。
目の前で所謂、カマキリポーズをする3メートルはありそうなヤツ。
鎌は鋭そうだし、木を苦もなく切り倒した様子から頑丈そうでもある。
中年の素手のおっさんが戦っても、間違いなく勝てないだろう。
逃げるにしたとしても、スーツに革靴、ましてや営業職とはいえ、運動をしっかりしている訳でもないおっさんでは、逃げる速度も距離もたかが知れてる。
「あー、こりゃ詰んだわ」
あっという間に諦めの境地に達して、ぽつりと呟く。
訳も分からず、こんな森にいきなり放り出されて、デカイ昆虫に殺されて終わりとは、俺の人生一体何だったんだろうか。
涙が出そうになり、上を向く。
木々の隙間から見える空は、地球と変わりなく見えた。
でも、ここは地球じゃない。こんな化け物がいるなんてありえない。
謎の世界で人知れず死ぬ。こんな理不尽があるだろうか。
「恨むぜ神様・・・」
カマキリが鎌を大きく振りかぶる。
俺は、目を閉じその瞬間を待った。せめて痛くなければいいなと思いながら。
カマキリが動く気配。
ヒュっと鎌が振り下ろされる音がした。