おっさん森の中
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いつもと変わらない日常だった。
少なくとも、今日までは。
地元の中小企業に勤めて数年。
それなりに仕事も軌道に乗ってきたこの頃。
いつも通り、出社。営業成績のことで小言を貰いつつ、営業先の確認。
アポの最初は顔なじみの所だ。
前回勧めた商品の詳細説明、上手くいけば契約がゲット出来そうだ。
オンボロ営業者で、出かける。営業先の会社の駐車場で、資料の最終確認。ミラーで身嗜みのチェック。
うん。普通のおっさんだ。
さて、お仕事頑張ろうかね。
車から出て、会社の入り口へ。自動ドアが開いて、さぁ頑張ろうと気合を入れて入った瞬間。
―――森の中に居た。
「・・・・・・・・・は?」
まったくもって意味不明。
営業先のドアを過ぎたら森の中って・・・これは現実か?
思わず頬を抓る。
「痛い・・・」
残念ながら突然気絶して夢を見ているわけではないらしい。
そうだ、入ってきたドアがあるじゃないか。俺はまだ現実感が無い思考でそう考える。
後ろを振り返る。
「・・・・・・・・・あー」
入ってきたはずの自動ドアは影も形も無い。ただ、木が見える範囲にあるだけだ。
これは認めざるを得ない。
痛みのある幻覚なら話は別だろうが。危ない薬を使ったこともないから。
近くの木に触れてみる。特に変わった様子も無い。残念ながら木の種類なんて知らないから、これがなんの木なのか分からない。
とりあえず、この状況をどうにかしなければならないが、手段は少ない。
そもそも営業先に出かけたままの格好だ。着ているのは、少しくたびれたスーツに革靴。手提げ鞄に入っているのは営業先に渡す資料や携帯電話。
そうだ。携帯があるなら、
「・・・ダメか」
一縷の望みをかけて携帯を見るが、無情に圏外の二文字。
こうなると本格的に打つ手が無くなる。
さて、どうしたものか。