5夕日と外堀
夕日が輝いている。晩餐を共にと興奮気味のご家族に、丁寧に詫びを入れ王宮へと向かう。今の住まいはあちらなので、門限があるのです……宰相補佐官様はゴツイ軍馬に跨り、その前に私をちょこんと乗せた。カッポカッポと軍馬は行く、文官なのに軍馬……
「デカいので軍馬でないと乗れないのだよ、デカいのでな。いっその事、戦象にでも鞍替えするか」
「もう、デカいネタはいいですから。すいませんでした」
「いや、こちらも悪ノリした……。小剣も用意しておく、それまで私のナイフを」
「それ鉈っていうんですよ、ナイフなんてかわいいものじゃありません」
「そうか、ナイフがかわいいかはわからんが……」
もう、揚げ足取らないでくださいと、ぺしりと手綱を握る手を叩く。すまんすまんと笑う宰相補佐官様……まだ、出会って数日なのに、なんだろう、これ……
「恋か?」
「台無しです。やっぱり心を読んでいるのですね……もう」
イラッとしたので、仕返しに宰相補佐官様を背もたれにして、体重をかけてよっかかりました。まぁ、デカいので私の体重なんて少しも負担になっていないところが悔しいです。背もたれがくすくすと笑う振動が伝わります、そして種明かしをしてくれました
『心象読破』と言うギフトで心を読むと言うか心象……心に描かれるイメージが読めるそうです。楽しそうとか、怒っているとか、何か悪いことを考えているとか、そんなおぼろげなものを見てそこから導き出せる事を読む。その読解力の鋭さを宰相府は欲しがったそうです、鋭すぎて心をズバリ読んでいると誤解されてしまうそうですが
「そこまで詳しく読んでしまったら、私の精神の方が駄目になってしまうだろう……」
「強靭な肉体には、強靭な精神が宿るそうですよ?」
「そうだといいけどな」
「まぁ、デカい体にノミの心臓と言う事も」
「君は持ち上げるのか下げるのか、どちらかにしてほしいものだ……。私をからかって楽しんでいるのだろう?」
心読みましたかと聞くと、これくらい読まなくてもわかるだろうと笑った
数週間後、小剣が用意できたと知らせがあり練兵所で弟君から渡された
「本来なら兄上が渡すべきだと思うのだけど……」
「わかっています。今、宰相府は寝る間も惜しんで生誕祭の準備に取り組んでいらっしゃるのですから」
「うん、宰相府と書記官室は忙しいだろうね。始まってしまえば侍従や女官、騎士の方が忙しくなるよ」
宰相補佐官様は寝不足の凶悪な面構えで、予算編成をしているらしい。見たらうなされるから、近寄らない方がいいよなんて弟君は言う。私もそう思うので、素直に頷いておきました
いただいた小剣をすらりと抜くと、眩しい白刃。……気のせいか、ちょっと眩しすぎるような気がするけど、深くは考えない。数回素振りをしてみると、輝きがキラキラと零れるのも深くは考えない。鞘に納め腰の剣帯に下げると、すごく軽いのも深く気にしない……
「それ、いいだろう?折角だから希少金属で打って、魔法を付与してもらったんだ。軽量と聖別と結界、回避、付与と後なんだっけ……」
「そんな高価な物、受け取れませんよ!!」
「われら家族からのお詫びですよ。先日は気が急いてしまい不快な思いをさせて申し訳なかったと……、今度はゆっくりと遊びに来て欲しいとの伝言です。外出許可を取ってから、ね」
完全に嫁に取る気だ!!
わははははと笑いながら弟君は走り去る。うわぁ、小剣返却してもいいですかぁぁぁぁぁ!!宰相補佐官様は嫌いじゃないけど、外堀から埋められるの、駄目、良くない!!