3練兵場の攻防
そんな風に昼を過ごしていると、護衛騎士としての訓練の時間に差し迫ってしまったので暇を告げる。後片づけは宰相府の専属侍女に任せて、騎士隊に用があると言う宰相補佐官様と一緒に練兵所に向かう。大量の書類を軽々と持つ宰相補佐官様の後をしずしずとついていく
その途中、宰相補佐官様にそっくりな大男を発見しました。デカい、宰相補佐官様よりほんの少し大きい気がしますが、顔はそっくり、髪形もほぼ同じ、腰に佩いた大剣は私では持ち上げられないような厚みを持っているように見受けられました。ここにいるということは騎士様だろうと思いますけど、宰相補佐官様の例があります。あれで文官だとしたら、文官の方が筋肉が必要なのだと考えを改めねば
「あれは私の弟だ。騎士はあたっている。筋肉はほどほどに」
あれ、いつの間にか口に出していたのかな?侍女として無意識に呟いてしまうのは拙いわ。反省をしていると、宰相補佐官様の弟君がこちらに向かって声をかける
「ん、あぁ兄上。何時の間に子持ちになったんですか?」
「違う、護衛騎士見習いだ」
もしかして成人しているのですか、姉上級に小さいのにと驚かれた。あなたたちがデカすぎるのだよ、噂のお姉様と一度じっくりお話してみたいです……そもそも『姉』と言うことは、あなたたちより年上じゃない、成人しているんでしょうに?
「われらは3つ子だから同い年だ、とっくに成人済みだぞ」
「宰相補佐官様ッ、心読んでいますよね?絶対読んでいますよね!?」
どうもお会いした時から心の声にすかさず答えているんですけど、ギフトじゃないのこれ?
うやむやに誤魔化されながら、練兵所の更衣室で騎士服に着替えます……似合っていないのはわかっていますよ。腰には細剣と短剣、盾を持たない二刀使いなんです。短剣は相手の剣を受け流すのと牽制用、騎士が来るまでの高貴なお方の盾なので、倒すことが目的ではないんですよね、そりゃ倒せればなお良しと言う感じの護衛騎士見習いです
本日は騎士隊の方々と初めての合同訓練となります。有事の際、どのように動けばいいかの確認と連携の訓練。訓練の指揮をとるのは初代護衛騎士隊隊長様で、現在は練兵訓練隊長閣下の女騎士様です。この国の女性騎士の始まりであり、護衛騎士の礎を築いた寮母閣下でもあります(意味はわかりませんが、そう呼ばれているので)。お父上は先々代将軍閣下、背が高くしなやかな筋肉の持ち主、羨ましい……せめてもう少し背が高かったらなぁ
剣の型の素振りから始まり、2人での打ち合いをこなした後。連携の訓練と続くのですが、何故か宰相補佐官様とその弟君と組まされました
「宰相補佐官様、まだいらっしゃったのですか?何故に訓練に混ざっているのですか?」
「帰るつもりだったのだが、人数合わせに引き込まれた」
「な、なるほど」
凶悪な鉈を手に、文官制服である紺色のゆったりとしたローブを纏う宰相補佐官様。なんだろう、このホラー感……そう考えていたら、宰相補佐官様に睨まれた。絶対心読んでいるわ、この人!!
「弟よ、お前の騎士服の予備はあるか?」
「ありますよ、少しお待ちを」
そういって、更衣室の方に走っていく弟君。宰相補佐官様は、剣帯を一度外し私に持っていろと預けると(すごく重い)、ローブを脱いだ。ローブの下は白いシャツ、爽やかだけどシャツの上からでもわかるムキムキの筋肉は凶悪、文官の体じゃないわ~これ。少なくとも父はヒョロヒョロだ
弟君の持ってきた騎士服を纏うと、立派な騎士の出来上がり……何故これで文官。剣帯を再装着して、訓練再開。3人での打ち合いなのですが、『宰相補佐官様と弟君』対『私』って
「勝ち目無いじゃないですか」
「そうだが、こういう場面もあるかもしれないだろう」
「ないですよ」
文句を言うな、と襲われた。いや正しくは訓練なのですけど、私的には襲われたとしか言いようがない。宰相補佐官様の鉈は私の剣では受け止めきれず、あっさり短剣を弾かれ細剣はポキリと折れた
「「…………」」
「や、安物だったので、ちょうど買い換えようかなぁなんて思っていたので……ヨカッタデス」
「「全然よくない!!」」