2宰相府の2人
彼にお茶と大量の軽食の用意を頼まれて、依頼書をいただき急いで厨房へ
またもや途中で文句を言われたが、急ぎの依頼だからと丁寧に断る。あぁ、後で絶対文句言われるわ
お菓子程度だったら給湯室で間に合うのだが、軽食、しかも大量とくると、厨房長に頼まなければいけない……料理長ではない厨房長。意味は同じなのだが、厨房長のこだわりらしい。香ばしいバゲットにこれでもかと肉や野菜やチーズや味付け麺を挟み込んだものをバスケットに大量投入、ついでに出来立てアツアツスープを魔法瓶に用意してくれた。それをワゴンに乗せて、給湯室でティーセットを追加してから宰相府へ向かう
そう、あの方は宰相府にお勤めの宰相補佐官様だったのだ。背が高く服の上からでもわかるムキムキの体、腰にはまるで鉈のような重そうなナイフを佩いていたので兵士かと思っていたら、まさかの文官
父上の様に体が弱いのかなぁ?体が弱い人は鉈なんか持っていないか、あはは
軽食とスープを宰相府の休憩室のローテーブルに並べ、宰相補佐官様は向かいのソファーに座るよう命令されました。遠慮したいところなんですけど、命令では逆らえずちょこんと座り、とっとと食えとのお言葉。もそもそとバゲットを1ついただきました。久々のまともな昼食だぁ……またもや泣けてくる
「泣くほど腹が減っていたのか」
「お昼を食べていなかったもので、お世話をかけてすいませんでした」
「よい。きちんと食べねば身長が伸びないぞ」
何でしょう、デカいと言った仕返しをされているのでしょうか?もう成長期は過ぎてしまったので、これ以上背は伸びないと思うのですけど
「……まさか君は成人女性とでもいうのか?」
「まぁ、一応」
「……私の姉ほどしかないではないか。小さすぎるぞ、もっとたくさん食べなさい」
薦めてくれるんですけど、もう無理入りませんと固辞。お姉様がいたんですね、しかも小さいらしい……多分その方は平均より少し小さい位なのではないでしょうか、私だって平均より少し小さい位ですし
「女性としては普通より少し小さい位なんです、……確かに最近は仕事が慣れなくて、体重が落ちてしまったのですが。でもその内慣れます、私これでも学校は首席でしたから!!」
「王立学院の?」
「……女学院の方です」
私だって王立学院に行きたかったですよ、お金さえあれば
素晴らしい講師陣に高レベルの学問を授けてくれる学校なのですけど、その分入学金が高い。奨学金制度もあるのですが、何故か男子のみしか受け付けていないのです
当時は知らなかったのですが後から聞いた話によると、王立学院に通えるようなハイスペック女子は護衛がつくのです、有料で。……まぁ、優秀ではない残念貴族坊ちゃんもいるらしく、貧乏女子は危険だそうですよ。駄目じゃないですか、王立の癖に
「去年の首席……なのに侍女をしているのか?もったいないだろう、書記官になればよかったのに。今からでも転職するか、私の書記官に任命してやろう、そうだ、それがいい。宰相よろしいか?」
「ん~、いいんじゃない?」
「え?何時の間に!?」
補佐官様の隣には、美青年が1人もくもくとバゲットを平らげていた。まぁ、専属になる前に書記官の試験受けてからねと、スープをあおる。まだアツアツなのに大丈夫なんでしょうか……。そんな感じで心配そうな顔をしていたのだろうか、宰相閣下にこれギフトなんで良い子は真似してはいけないよと言われた
ギフトと言うのは『守護女神のギフト』と呼ばれる女神様から授かった魔法属性。授かるのはとても名誉な事なのです。わが国では《3の国》の他の国に比べてギフトを授かる率が高いのですが……なんというか、いまいち役に立たないと言うか、面白系ギフトが多いらしいです。具体的には私の口から言えないような性的な魔法属性が多いそうですよ
……ちなみに私もあるギフトを賜っております、エロ系です。涙がでます
「ではまずは二級書記官か、秘書官か。私としては秘書官の方がエロくていいと思う」
「宰相閣下の仰るとおりにいたしましょう。わかったな侍女」
「何勝手に決めているんですか!!ではなくて、私……護衛騎士見習いなのです。勝手にかわることはできません」
「護衛騎士?君が?……私より弱そうなのに?」
デカくてゴツイ宰相補佐官様は言う、大抵の人は貴方より見た目弱そうです……うん
「言っておくが、私は家族の中では弱い方だ。祖父にも父にも母にも弟にもかなわない……剣の腕としては祖母と姉には勝てるが、別の意味で勝てないので実質家族で最弱なのだ。このような状態で騎士などなれる訳もない、まぁ勉強の方が好きだったから文官になったのだが……」
「補佐君、君の家族と世間を一緒にしてはいけないよ。君のところは規格外なんだから」
宰相補佐官様は寂しそうに笑うが、宰相閣下はモグモグしながらそう否定する。どんな家族なのだか怖いわ。